決着
「当然の用心だ。目が見えなければ、周囲を警戒することはな」
分類上、『箱』は魔物だ。
生き物が暗闇を警戒しないとでも?
そう言って、ザクレンは──いつのまにか血を拭い終えたと見える──、英雄を見据えて嘲笑した。
「とんだマヌケだよ、貴様は!」
「……クッソァ〜〜〜〜ッ!!」
英雄は歯噛みした。
『
「傑作だったぞ? 決死の覚悟がふいになるところは。すわ絶頂という感じだった」
「…………」
「さあ、勝負は終わりだ。貴様に勝った事実を土産に、私は彼女に告白する!」
「…………」
「あぁ、楽しみだ。彼女どんな顔をするだろう。なぁサカキバラヒデオ? これからタカナシサユリを寝取られる側として、意見を聞かせてはくれないか?」
「……続きだ」
ザクレンは耳を疑った様子だった。「は?」
「だから、続きだ」
みるみる、ザクレンの顔は青ざめていった。
「し、正気か貴様ッ! 片腕を失ったんだぞ!? ゲームを続けている場合ではないわッ!!」
「何度も言わせるなよ」
英雄はもう一度、噛んで含めるように言った。
「続きだ。俺はゲームを続ける。腕なら左にもついているし、持ち物も少しだが残っている」
だから、と英雄。
「続きだ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!!」
ザクレンは一歩二歩、と後
「──良いだろうッ! そこまで言うなら続けてやるッ!」ザクレンは大きく顔を歪めながらも「続行だッ!!」と絶叫した。「貴様はここで死ねッ! サカキバラヒデオッ!」
かくして、『
※
「それで、モバイルバッテリーとワイヤレスイヤホン、それに、読みさした小説を入れたわけだけれど、すでに二回持ち越したから使えない二つはともかく、小説の方はカウントに入るのか? それともやっぱり、腕を噛みちぎったからリセットなのかな?」
「……いや、まあ、腕を食いちぎった後を想定していなかったから、一旦リセットという形にはなるな」
そうか、と英雄。「では続けようか」
ジャンケン──、と二つの手のひらが
結果は以下の通りだった。
「私の負けか」とザクレン。
「では、オレの勝ちだな」
例によって例の如く、英雄が机上の山札から千円を取るのを待って、ザクレンは懐から千円を取り出した。
もはや白々しいっていうか、空々しいくらいなのだが、その資金源を訝しみながらも、僕は千円が『箱』の口に消えるのを見た。
その口腔内(もう胃だろうか?)には今、何枚の千円があるのか……、若干気になる所である。
ともあれ、次の勝負だ。
「ジャンケン──!」「ジャンケン──!」
今回は英雄が負けた。
ザクレンが机上の山札から千円を取る。
「ほら、貴様の番だ」
英雄はスマホを手に取った。
再開前に、一応『箱』の目も拭われているので、機能しないという期待はできない。
ダブルチェックを抜ける。
スマホが『箱』の胃に入った。
スマホで持ち越された分は以降表で示す。
二十七戦目:英雄の勝ち。ザクレンが千円を消費。
二十八戦目:ザクレンの勝ち。英雄は二十六戦目で支払い済み。
二十九戦目:英雄の勝ち。ザクレンが千円を消費。
三十戦目:英雄の勝ち。ザクレンが千円を消費。
三十一戦目:英雄の勝ち。ザクレンが千円を消費。
三十二戦目:英雄の勝ち。ザクレンが千円を消費。
三十三戦目:ザクレンの勝ち。英雄は二十六戦目で支払い済み。
心なし英雄に流れがあったようだ。
しかし問題はここからである。
「ジャンケン──!」「ジャンケン──!」
英雄の勝利だった。机上の山札から千円を取る。「次はお前だ」
「ああ」ザクレンは懐から千円を取り出した。「見たところ、残りの持ち物は財布だけのようだな? それも、空っぽの」
「そうだ。高い財布を買っておいて助かったぜ」
見れば、確かに高そうな、いかにもな革製品の財布だった……、間違いなく三千円は超すだろう。
「ハン! だからなんだ。延命措置は虚しいばかりだぞ」
「……そうかもな」英雄は首肯した。表情は暗く、見ていられない。
ジャンケン──、と二人手を出した。
英雄の勝ち。
ザクレンは千円を支払った。
「ほら、次だ」
ジャンケン──、と二人。
ザクレンが千円を支払った。
「次だ」
ジャンケン──。
革製品の財布を『箱』に投じた。
「次」
ジャンケン。
ザクレンは千円を支払った。
「次」
「次」
「次」
……。
…………。
………………。
「……」
「……なあ」
「なんだ」
「貴様イカれておるのか? 勝てないのは先刻承知だろう」
「…………さぁな」
「なぜ続ける」
「……」
「なせだ」
「……」
「なぜなのだ」
返答が無いのを見て、無言のうちに勝負を続行する。
ジャンケン──、と
ザクレンの勝利である。
「さぁ、その残った物を入れるのだ」
言われた通り、英雄は硬貨の塔をつまんで、『箱』の口の上に手をやった。
総額は八百二十二円である。
ボーダーの千円には届いていない。
……こうなるのは見えていたはずなのだ。
ザクレンがイカれていると言うのも、むべなるかなと言うしかない。
「さぁ、それを入れろ。両腕を失うことにはなるが、勝負を続ければこうなることくらい、貴様は分かっていたはずだ」
言われるがままにダブルチェックを経て、英雄は硬貨の塔を『箱』に落とした。
『箱』は──
どうしてか破裂した。
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