第5話
「はい、分かったかい。ここは、してはいけない事をした人が入る場所。きっとこのままなら君のご両親も、いつか来る。だが、入りたいか?嫌だろう。ほら。帰った。」
「目覚めましたか。」
誰かの声。
声に頭を動かすつもりが動けない。頭が激痛。痛い。
頭を確認したいが腕がまたちぎれそうに痛い。
エバラマサトさん?知らないオジサンが。
知らない人の名前を呼ぶ。
チラと見えた鏡には見た事ない他人の顔と。
目覚めを泣いて喜ぶご夫婦と、娘さん。
「どうやら記憶をなくしたみたいですね、彼は」
医師だと名乗った男は、彼らが、家族で、僕は海で溺れかけていたと言う。
痛いだけの頭には何も、ない。いや、
この医師の男、何処かで見た顔な訳はない、よな。
「ともかくおやすみ下さい。また来ます。」
「お父さん、お母さんも一旦帰るよ。ゆっくり寝てなさい」
「お兄ちゃん、咲もまた来るね」
絶対安静といわれなくても動くたび激痛で。
医師も、家族らしい人らも帰り。
目を瞑る。
ただそれだけしか、今はしたくないほど眠りたい。
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