第14話 ノアにて……
◇◇◇
――飛空艇“ノア”
ここは“ノア”。
空飛ぶ箱舟。中心には『世界樹(ユグドラシル)の苗木』が聳え立つ。この異世界でルシアが必死に集めた『ファンタジーの宝庫』だ。
世界樹(ユグドラシル)の苗木に作られた一室で開かれている「ルシアの深淵(アビス)追放」に関する緊急会議の最中……、
ポワァア……
通信用の魔道具“水晶通話”が淡く光を放った。
「“ルシ様”です……!!」
光ったのは悪魔公爵“ラキレウス”の水晶だ。
「わ、若(わか)!?」
「ルシアか!?」
「ルシア殿であるな!?」
「主(あるじ)ぃ〜?」
「坊主から……?」
会議に出席していた飛空艇ノアの幹部“七天会(セブンス)”の面々はラキレウスの水晶電話を注視する。
(よくもまぁ、ラキに連絡できたものね……?)
1人ルシアを呼ぶことなく心の中で沸々とルシアに対する不満を垂れたのは“リビア・レン・ユーグリウス”。
ルシア不在であるノアの最高責任者にして、【精霊神の巫女】として、あらゆる精霊を使役しているエルフ族の女王である。
――“ノア”を任せる。
ルシアの『元妻』と言う経歴。
慰謝料としてノアを丸投げされた張本人は無表情の顔をピクピクと引き攣らせる。リビアとしては、自分ではなくラキレウスの水晶が光ったことが許せないのだ。
7種族の代表である七天会(セブンス)。
そのまとめ役であり最高責任者でもあるリビア。本来であればにルシアからの連絡は彼女に来るべきなのである。
「ククククッ……。皆、静かにしてくださいね? ルシ様からの通信なのです。リビア様、わたくし……、退室しても構いませんか……?」
「……ここでしなさい。情報は共有すべきじゃないかしら?」
「それは承服できませんねぇ〜。ルシ様はわたくしに連絡を下さったのです! わたくしにしか話せない事があるに違いありま、」
「《ウンディーネ》……」
言葉を遮り「水の精霊」に声をかけるリビア。
ゴポォオッ!!
水球に包まれたラキレウスは即座に抜け出そうと魔力を込めるが……、
「《ウィル・オー・ウィスプ》……」
リビアは悪魔に対する効果が絶大である「光の精霊」に声をかけ、水球に変化を加える。
ポワァア……ゴポォッ……
光の粒子が舞う水球の中で泡を吹いたラキレウス。
ラキレウスの存在を保つための魔力放出により、手に持っている水晶通話が繋がった。
『ラキか? 俺だけど!? 追放されたのは知ってるか? とりあえず、拠点がなくて困ってんだけど』
マヌケが声が響けば、ゴポォッとラキレウスは空気を放出し、途端に苦しみ出したかと思えば勢いよく片手で口を塞ぐ。
「「「「「…………」」」」」
リビア、ラキレウスを除く5人は沈黙した。
巨人族、ドワーフ族、人間族、獣人族、多種族混合。それぞれが一国の王たる資質を持つ種族の代表者たち。
ルシアによって“乗船”を認められた者たちは、ルシアの声に頬を緩ませつつも、代理所有者であるリビアを立てたのだ。
『ん? ぁ、あれ? ラキ? ラキレウス?』
水晶通話からは困惑しているルシアの声。
「アハハッ……。“リビア嬢”? 顔を赤くしてるんじゃなくて早く応えてやりなよ」
リビアに耳打ちしたのは人間(ヒューマン)の代表“ハルマ・ミカゲ”。この異世界に転移した【覇王勇者】である。
《絶対切断》をはじめ、《次元斬》、《限界突破》など数々のチートスキル持ちであり、ノアの中でも……、いや、この世界においても、かなり“最強”に近い存在だ。
150年前に討った【憤怒の悪魔王】により不老不死の呪いを受け、救ったはずの人類に度重なる死刑を受けても「人」を殺めることをできなかったハルマ。
――つまんねー男だな、『最強』……。どうでもいいから、俺と手合わせしてくれよ。
死刑を楽しんでいた民、王侯貴族を惨殺したルシアとの出会いは300年前……。
力を持ちすぎたが故の迫害から救われたハルマは、同郷から来ているにも関わらず、異世界に“順応”しているルシアが眩しかった。
地獄から救ってくれたルシアに多大な感謝と憧憬を。今では同郷の友としての関係を築いている。
『あれ? ……ぉ、おい、ラキ!! いい加減にしろ! こっちは、なかなか恥ずかしい状況になってるぞ!?』
水晶から聞こえてくる声には焦りがある。
この場の者たちは、顔は見えずともルシアの今の表情が浮かぶのは必然だ。
……400年。
この七天会(セブンス)とノアこそが、このテンプレの乏しい異世界でルシアが築き上げた400年の全てなのだ。
ノアを所有者してからは150年。
だが、全ての者たちとの絆は長く強固だ。
「「「「「ぷっ、あはははっ!!!!」」」」」
堪らず吹き出したのは、やはりリビアとラキレウスの2人を除く5人。
「“リビアン”! 若(わか)に早く応えてあげなよ!」
ニヤニヤとリビアの様子を笑うのは獣人族の代表を務める希少種の空狼(スカイウルフ)の姫“アリア・スカイロッド”。
「ハハッ。リビア嬢、無表情で赤くなって固まっててもルシアには見えてないぞ?」
苦笑混じりに微笑んだのは先程リビアに耳打ちした人間(ヒューマン)の代表、ハルマ・ミカゲ。
「ガハハハッ!! リビア殿はルシア殿の前ではポンコツであるからなぁ!」
豪快に笑ったのは魔王軍から追放された巨人族の代表“デギル・ドンフェン”。
「リビアちゃん、主(あるじ)だよぉ? もうカミラの番でいい〜?」
ニコッと笑った笑顔から牙を覗かせるのは吸血鬼の“カミラ・ヴェート”。少数派の多種族混合の代表であり、その中には竜種や鬼人族も含まれている。
「ムハハハッ!! ワシも坊主に報告せねばならんことは山積みじゃ。小娘、なにも喋らんのなら譲ってもらうぞい?」
潤沢な口髭に身長に似合わぬ筋肉を持つのはドワーフ族の王“ドリアード・ワーセル”。
「ル、シ、様ッ……!!」
ゴボボボッと息を漏らしながら悪魔公爵ラキレウスが会話を試みるが、リビアの生み出した水を飲み白目を剥く。
ちなみに、“種族の全て”ではない。
この代表者たちには『ノアに住まう者たちの代表』という注釈が添えられるが、皆が居場所を追われ、裏切られ、嵌められた者たちばかり……。
ルシアとの出会いは様々。
だが、“ノア”という箱舟に新たな居場所を見出した者たちばかりというのは間違いなく、その所有者であるルシアに対する恩義は胸の奥に刻まれている面々である。
『…………ラ、ラキレウスッ!!』
この展開が面白くないのはルシアだ。
ルシアにも思惑はあった。
セシリアに「ノアの所有者である」と宣言した直後……。ノアの中でも1番忠誠心を表に出しているラキレウスにチヤホヤされている姿を見せることで、セシリアの信頼を得ようとしていたのに蓋を開ければ勢揃いなのだ。
武力で言えばルシアは3番目……。
この者たちからの反逆などあり得ない……。それは間違いではなく、ルシアも信頼しているのだが、武力で敵わない相手がいるのも事実なのだ。
そもそもルシア自身、敬われるタイプでもないのは本人も自覚している。
だが……、早くレティアノールとエロいことをするためにも『拠点』が欲しかった。「初めての弟子」には見栄を張りたかった。
だからこそ、1番の忠臣である雰囲気を作るのがうまいラキレウスに連絡したのだ。
「《シルフ》……」
パチンッ!!
リビアは「風の精霊」に声をかけ、風で形成した巨大な両手を合わせて真空状態を生み出した炸裂音を生み出した。
ニマニマ……
ラキレウスを除く5人からの視線に、リビアはすでに真っ赤だった顔を更に赤くさせる。その顔に感情はなく、美しい無表情であったが……、
(……ぜ、全部、“ルシィ”が急だからよ!!)
心の中では“別れた旦那”に悪態を吐いている始末。
『お、おぉーい。今はとりあえずラキに喋らせ、』
「久しぶりね、“ルシィ”……」
『…………』
「……あら? 聞こえない? それとも……、ノアの全てを丸投げした“元妻”とは喋りたくもないのかしら……?」
『“リビィ”……』
「…………状況を説明して。こちらは、“どこかのおバカさん”が、ルベリアルの【勇者】を屠って深淵(アビス)に追放されたことを議題にして会議をしていたところよ……」
『さ、さいですか……』
「わ、妾(わらわ)としてはどうでもいいのだけれど……。ただ、“ノアの民”がうるさくてね。あなたに関してなにか説明しないと収拾がつかない現状なのよね……」
『……ま、まぁ、それだけ慕われているってことだよな!』
「……どうせルベリアル王国の【聖女】にノアの事を明かしてドヤ顔しているのでしょう?」
『……ぃ、いや、』
「騙されてはダメよ、“セシリア・ガルシアーノ”。そこの男は、美女を見るなり発情する猿。信用したが最期(さいご)。さんざん身体を弄ばれて泣かされることになるわ」
『ふ、ふふ、ふ、ふざっけん、』
『やっほー! “リビアちゃん”! レティだよ?』
「……ぇっ、」
『レティ、ルシ君が深淵(アビス)に追放されたって知って居ても立っても居られなくてサポートしに来たら、なんだかんだで奴隷になっちゃったの!』
「…………あの“レティアノール・シアノクリウス”がルシィの奴隷に……?」
『そうだよ! もう目から鱗だよ! 初めから“こう”してたら“ノール”の事を気にせずルシ君と居られ、』
『レ、レティアノール!! は、話をややこしくするな! ノアの連中まで深淵(アビス)に来たらどうすんだよ!?』
『えっ? ノアからも精鋭が来ると思ってたけど来ないの?』
『く、来るわけねぇだろ! “ノアを飛ばし続ける”のにどれだけの魔力が必要だと思ってる?』
『ん? “停泊させるのかな?”って……。ノアにはその辺の国より戦力が、』
『お前はもう黙ってろ!!』
『んんっ、んっ、ル、ルシ、くっんっ!!』
水晶通話からはルシアとレティアノールのじゃれ合う声がしばらく続くと、
『ラ、ラキレウス!! いや、ドリアードはいるか? 深淵(アビス)で使う“拠点”を収納庫(イベントリ)に入れといてくれ!!』
「しょ、承知したぞい」
『デギル。巨人族は悪いが資材運搬とかドワーフたちを手伝ってやってくれ』
「ぅ、うむ……。ルシア殿の頼みなら仕方あるまい」
『よし。“ハル”もいるな!? 深淵(アビス)に関する情報と、ルベリアル王国の情勢、セシリアの妹“シリカ”の保護を任せてもいいか?』
「えっ!? ぁ、ああ、了解したよ……」
『すまんな! その他は待機で! ラキレウス! お前覚えてろよ!!』
「ル、シ様っ、ゴボボボッ……!!」
スゥウウ……
要件だけを伝えてラキレウスの水晶通話からルシアの魔力が消えていく。「干渉されたくない」というルシアのわがままで、一方通行に設定されている水晶通話が遮断されたのだ。
シィーン……
ノアの一室は静寂に包まれる。
「……ねぇ、ハルマ? どこに行くの……?」
「そうだよ。どこ行くのさ、ハルマっち……」
「ミカゲは“空気”に敏感だもんねぇ〜」
ビキビキビキッ……バチバチバチッ……
“会議室”の空気は異様な雰囲気に包まれていた。
そそくさと退散して八つ当たりから逃れようとしたハルマは「ア、ハハッ……」と苦笑して席に戻る。
巨人族の代表であるデギルは3人と視線が合わないように下を向き、ドワーフの王ドリアードは窓からの景色を眺めた。
「で……、ノアを停泊させる場所はルベリアルの王都でいいかしら? ……それとも他に案がある人はいる?」
いつもは無表情のリビアが笑顔で問いかける。
コメカミにはくっきりと青筋が浮かんでいた。
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