第8話 天性の世紀末ヒャッハーの素質
◇◇◇
――深淵迷宮(アビスダンジョン)
シィーン……
俺の発言で【錬金術師】(仮)は目を丸くして固まっている。クルッと振り返りセシリアを確認したが、コイツは絶句するのが得意だから安定の……いや、困り顔……?
(……も、もしかして!! これはアレか!? アレなのか!? ア、アレなんだなッ!?)
バクンッ!!
俺は重要なことに気がつくと同時に胸を高鳴らせる。
ゴクッ……
息を呑んでから完璧な苦笑を貼り付ける。
「あれ? 俺、なにかやっちゃいました?」
はいッ! いただきました!!
ご馳走様ですッ!! 第88回「俺、なにかやっちゃいました?」選手権、優勝はぁ〜!! ルシア・シエル!! 4年ぶり37回目の優勝です!!
……って、「異世界に来たら言ってみたいランキング8位」を決めてふざけてる場合でもないか……。
ぶっちゃけ……微妙にテンプレとも違うしな。
別に俺が「無自覚に規格外な実力を見せつけたから」とかじゃなくて俺の発言が予想外すぎて混乱したって感じだろうし……。
プルプルプルプルッ……
わなわなと震えてるとこ悪いが、別に変なことは言ってないと思うんだが?
あのゴーレムを錬成して、自分自身の原型がなくなるくらいいじりまくっても自我を保ってる【錬金術師】(仮)とか確実にチート。研究資料の説明もして欲しいし、仲間に引き入れるのが1番だ……けど……。
「……はっ? “なにか”……? “やっちゃいました?”だと……?」
た、端的に言えば、激おこだよね。
うんうん! 見た感じ人間辞めてるし、なかなかの迫力だな!
「ぉ、俺様の最高傑作を破壊しておいて? “なにかやっちゃいました?”だとぉ……? なにをぬけぬけと……。し、死ぬ覚悟はできてんだろうなぁあ?!」
「ハ、ハハッ。ま、まあまあ。まずは落ち着いて話でもしようぜ?」
「ふざけるなッ……! 貴様と話すことなんてなに一つとしてないんだよぉお!! 糞尿を撒き散らす準備はできてんだろうなぁあ!? ぁあん!?」
「……」
「なに黙ってんだぁ? 今更びびっても遅えぞぉ、コラァ!!」
俺は小刻みに震える身体を抑える。
「クキャキャッ!! 子犬みてぇに震えて情けねぇヤツだなぁあ? ぁあ? もうしょんべん漏らしちまったのかぁあ?」
た、高笑いにこの煽り上手……。
見た目の悪魔感と強キャラ感……。
独特な語尾の伸ばし方……。
こ、この【錬金術師】(仮)さん……。
わ、わかってらっしゃる!!
か、感動したッ!! この“噛ませ感”はなかなか出せるものじゃない。この異世界では絶滅危惧種に認定されていると言っても過言じゃない稀有な存在……。
「クキャッ……女もいやがるとはなぁあ!! 縛り上げたお前の目の前で犯しまくってやるのも愉しそうかぁあ?」
コ、コイツ、天才かよ。
天性の世紀末ヒャッハーの素質。
これは誰にだってできることじゃない。温厚な俺でも、こう至近距離で煽られたらさすがにイラッとする。
まあ、この異世界での話……。
コイツがマジで強い可能性の方が濃厚……。
だが……、乗るしかないだろ?
このビッグウェーブにッ!!
「……話し合いで解決できればと思ったんだがな」
ポツリと呟いて腰元の愛刀に手を添える。
これぞ異世界転生の醍醐味!!
小物としか見ていませんムーブの出番だぜッ!!
「……はぁあっ? クキャキャッ……女の前だからって無理すんなよぉ。顔が引き攣ってんぜぇえ……?」
「……気のせいだろ? そんなことよりいいのか?」
「なにがぁ?」
「もう間合いの中だぜ?」
「ぷっ、クキャキャキャッッ!! なんだぁあ? ゴーレム潰したくらいで勘違いしちまったかぁあ? 試してみりゃあいい!! 俺様は不死身だぜぇ?」
「後悔するぞ……?」
「ククッ、クキャアッ!! お前、傑作だぜ!! 後悔してんのはどっちだぁあ!? 泣きそうな顔でプルプル震えて、真っ赤な顔してよぉお!?」
「…………」
「ほらぁっ! 地面に頭ぁこすりつけろぉ……。“ドゥゲザ”すんだよ! しょんべん漏らしながらぁあ!!」
「…………」
【錬金術師】(仮)は異常に伸びた手で俺の頭を押さえつけようと手を伸ばす。
ガシッ……
「このまま握りつぶしてもいいんだぜぇえ?」
掴まれた頭……いや、掴ませてやった頭ではあるが、流石にこれ以上は許容範囲を超えてくる。
だがしかぁーしっ!!
……こんな機会は259年ぶりなんだ。
ピクッピクピクッ……
も、もう少しだけ我慢しろ、俺……。逆にブチギレさせるような一言を言うんだッ!! ムカつきすぎて顔を引き攣らせてる場合かっ!!
……こ、ここから、戦闘が始まって無双……、まぁ、無双できるかはこの世界とコイツの魔力量を考えれば微妙だが、この世紀末ヒャッハーの才能を無駄にするのは惜しいだろ!?
せ、成立させたい。
異世界テンプレっぽい事をッ!!
「クキャキャッ、どしたぁあ? 生殺与奪の権利は文字通り俺様が握ってるぜぇえ? 大人しくひれ伏すも良し。脳みそぶちまけるも良し。さっさと順応するのが、」
「そ、そろそろ黙れよ。臭ぇ口を開くな……。“ドゥゲザ”すんのはお前だろ……?」
「ぷっ……クキャキャキャッ!! してやろうか? 見本を見せてやろぉかぁあ?」
「……早くしろ。今なら許してやるぞ?」
「クククッ……嘘にきまってんだろ、クソ雑魚がぁあっ!! 期待しちまったかぁ? その隙に逃げれるかもとか希望を持っちまったかぁあ?」
「…………」
「ざぁんねぇんでしたぁあ!!」
【錬金術師】(仮)は俺の目の前で長い舌を出した。
「お、俺は……そ、そう、気が長い方でもないんだがな……」
カチカチカチカチッ……
か、身体が震える。
俺は今、鞘に収めている刀を、逆に鞘にしまい込むようにして苛立ちを発散させている。
「いくら虚勢を張っても誤魔化せねぇくらい声が震えてやがるぞ? 剣を持つ手が震えちまうなら放しゃあいい!! クキャキャッ!! テメェはさっさとドゥゲザすりゃあいいん、」
チャキ……グザングザンッ!!
堪忍袋の尾が切れた俺は腕と首を斬り落としてしまう。それと同時に叫ばなければならない事があるんだ……。
「………お、俺は完璧な“やれやれ系ムーブ”をしてただろうがッ!! 震えるだ? 土下座だぁあ!? 俺はずっとブチギレそうなのを我慢してたんだよぉ!!!!」
シュルルルルルッ……
【錬金術師】(仮)は当然の如く《超速再生》……。
「クハハハッ!! 無駄、無駄ぁあ!! 言っただろぉお!? 俺様は不死身だ、」
「うるせぇー!! 死ね!」
グザングザングザングザングザンッ!!!!
俺は問答無用で叩き斬った。
テンプレうんぬんなんかもう知るか!!
シュルルルルル……
「クキャキャッ! 弱いヤツほどよく吠え、」
「黙れ! この煽りの天才がッ!!」
グザングザングザンッ!!!!
ぶっちゃけ、殺し方はもう視えている。
コイツは……この世紀末ヒャッハーの“煽りの天才”は、俺が刀……剣を使っているから舐めプしてるんだ。
シュルルルルル……
「クハハハッ!! 一生これを繰り返すかぁあ? 不死身な俺様と、人間のお前、」
「うるせぇー!! マジで殺すぞ!?」
グザングザンッ!! シュルルルル……
「テメェェ!! は、反撃されないとでも、」
「マジで殺すぞ!! 考えて喋れ!」
グザングザングザンッ!! シュルルルル……
「キレたぞ、こらぁあ、」
「脳みそが一個とか舐めてんのか!? このペースで反撃できるわけねぇだろ!!」
グザングザングザンッ! シュルルルル……
「えっ、はっ? いや、」
「次で殺す!! “同時に潰すぞ”!? 覚悟はいいなぁ!?」
グザングザンッ!! シュルルルル……
「まっ、待ってく、」
「はい! お疲れぇえいッ!!」
『『『『『『『『グザッ!!』』』』』』』』
俺は再生している間に《斬撃施錠(エッジ・ロック)》を8箇所。寸分の狂いもなく設置した大気の斬撃を押し込むように《空気施錠(エア・ロック)》で剣山のようなものを作り、それを押し出しただけだ。
ドロォオ……
血とかそんなんじゃなく体液と化した【錬金術師】(仮)が目の前に“溜まり”を作る。
シィーン……
何の音もしない空間が出来上がる。
ピチャン……
どこからか水が垂れた音が響き渡り、ハッと我に帰り勢いよく振り返った。
「…………ね、ねぇ……?」
すんごい顔をしているセシリアに声をかけた。
色々と……、諸々を端折(はしょ)って同意を求めた。
セシリアに異世界テンプレの良さを知りもしないだろうが……、
(……本来であれば、俺と同等の力量を持った相手だっただろうが、まぁ……舐めプしてた“コイツ”が悪いよね?)
的な同意を求めたのだ。
「……あ、“後先を考えない所”があるのでしたね」
セシリアはその美貌をこれでもかと引き攣らせながら呟く。ほ、ほぉ……な、なかなか異世界ヒロインがわかってきたじゃないか……なんて感心もしないでもない。
「……あ、あぁ。確かに俺の悪癖だな」
「は、始めはどうなることかと思いましたが、私としましては“魔族”を屠っていただき、また命を救われた気分……です」
「……ほ、惚れちゃった?」
「いえ、全く……」
バッサリと切り捨てられながら、“泥溜まり”を見つめる。
(セシリアの中では、これが『魔族』に見えてたのか……)
「ぁ、あの……、あなたは本当に何者なのですか?」
「えっ……。あぁー……まっ、そうなるわな」
よくよく考えれば当然の疑問だ。
今更、Cランクの冒険者は無理だろうし、妹の“シリカ”……孤児院……ルベリアル王国……? まぁ色々となんとかするって言っちまったし……、ふっ、ここは俺が『人脈チート』であることを教えてやらないとな……なんて考えていると、
ポワァアッ……!!
唐突に辺りを眩い光が包む。
発光しているのは、俺たちが飛ばされてきた魔法陣だが、かと言ってルベリアルの人間とは限らない。
ガネルティ大陸で力を持っている国ならば、この魔法陣にはアクセスできる。まぁタイミングを考えればほぼルベリアル王国のヤツだとは思うが……。
スッ……
俺は即座にセシリアの前に出る。
(そんな度胸はないと思ったが、あのクソ【賢者】が追いかけて…………ん? ……はっ?)
現れた人物に俺は言葉を失った。
「ひ、久しぶりだね。“ルシ君”……」
およそ350年ぶりの再会……。
そこには俺の“初体験の相手”が立っていた。
*****【あとがき】*****
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