第6話 隠し部屋
◇◇◇
――深淵迷宮(アビスダンジョン)
モグモグ……
……て、天使かよッ!!
子リスさんだね!! はちゃめちゃ可愛いぜ!! ふっ、咀嚼するたびに笑みを堪えてるんですかね?
「な、なんです……?」
「いやぁ? 別にぃ?」
「……あまり見ないでくれると。その……、恥ずかしいので……」
……な、なんだよ、コイツ。
男を堕とす訓練でも受けてるのか……?
……ま、まぁ、俺は処女厨だし、クソビッチに用はねぇけど?
俺は残りのハンバーガーを放り込んで一足先に食事を終える。
(さてさて……。腹ごしらえも終わったが……)
チラッ……
俺は《解析(アナリシス)》で部屋(スポット)を観察を始めた。《解析》と言っても、余裕で万能ではない。内部を見透かしたところで、ご都合主義全開で名称や解説が添えられているわけじゃないのだ。
あくまで《解錠(アンロック)》するために内部構造を把握することができる【鍵師】のスキルってこと……。
(……うぅ〜ん……)
正直、この深淵(アビス)の攻略に役立つかは微妙なとこか? “魔力で構成されているもの”と……“生物”……。
魔力でできているものは辺りにあるクリスタルのゴーレムのように視えるが……、生物には心臓が8つ。
人間の形で魔石もない。合成獣(キメラ)とかそんな感じの生き物がいるのはわかる……ってより、視えてるが……。
(……机の上にある薬品っぽいやつは……、種類ごとに分類分けされている?)
下手に刺激しないように近づいてはない。
セシリアもパニックに陥っていたみたいだし、“あちら”も干渉してくる気配も……いや、探ってはきているか……。
行動は“人間”らしいが……、心臓が8つって……。
「……本当に美味しいです。ぁっ……すみません」
セシリアはポツリと呟いて俺の両眼が紅くなっていることに気づいたのかまた子リスになった。
「……元気になってよかったな」
「……?」
「なんだよ?」
「なにか言いづらい事があるんですか?」
「は、はぁあっ? な、なな、なにが? 別に!?」
「…………」
「ジ、ジト目やめろ」
「……私たちは背中を預ける間柄になるのでは? 気遣って遠慮するのはお互い辞めたほうがいいでしょう……?」
セシリアは少し頬を染めながら俺から視線を外すが……、
(よ、余計に言えないんだがッ!!??)
俺の顔は引き攣るばかりだ。
い、言えるはずがないだろう。
やっと落ち着いたのに……。
む、無理だろ?
この【聖女】に「足手纏いだ」なんて言えるか……? 「邪魔だからおとなしくハンバーガー食ってて」なんて口が裂けても言えなくない……?
あっ。ちなみに、俺は「不老」とはいえ「不死」ではない。
そもそも、魔法も使えないんだから……。世界的に見れば中の上。甘く見ても上の下ってところだ。
【鍵師】なんて天職なんだ。いくら使いこなせても限界はあるし、俺より強いヤツらにコテンパンにされたことも数えきれないほどある。
でも……、断言できる。
「……もう少しお待ちください。急いで食べますので!」
この顔が良すぎる“性女”に来られても邪魔にしかならないと……。ずっとソロ冒険者をしていたのは、単純にヒロインに出会えなかっただけではないのだ。
ルベリアル王国……ってか、“ガネルティ大陸”なら喜んで共闘してやる。だが……、“ここ”ではごめんだ。
一定以上の……、いや、完璧に自衛できるヤツとしか共闘を共有したくない。俺は最強じゃない。……俺は、自分を守るのに精一杯なんだ。
「……?」
バンズのカスが口の横についてる。
うっかり舐め取ってしまいそうだ……。
お、俺は空気が読める男……。
お、穏便に……。プライド高そうなこの女を傷つけないように、どうにかして1人で隠れ部屋(スポット)に……。
「ぁ、あぁ〜……。んじゃ、俺はうんちしてくるから」
「……」
「ジト目やめて」
「……」
「ジト目やめて。漏れちゃう」
「……どうぞ。今後は報告していただかなくてけっこうですので……」
クルッ……
セシリアは俺に背を向けて、半分以上残っているハンバーガーを見つめている。
「もしかして。俺の排便シーンでも浮かんでいる……?」
「せっかくの食事が台無しです!!」
「ハハッ!! 残すなよ〜!? 食料だって無限にあるわけじゃないんだからな?」
「……そういえば、どのようにして食料などを? 魔法鞄(マジックバック)はもちろん、手荷物などを持っているようには見えませんが?」
「も、もう、漏れるからッ!!」
俺は盛大にうんこが漏れそうなフリをしながら走った。もちろんうんこが漏れそうなわけじゃない。とにかく先に隠し部屋(スポット)を視認して、セシリアを同行させても問題ないかを決めようとしたんだが……、
「セシリア!! 伏せろ!!」
俺はセシリアを守るように覆い被さる。
ドゴーンッ!!
途端に隠し部屋(スポット)から、クリスタルでできたゴーレムがドスンッドスンッと足音を鳴らしながら出てきた。
「あ、あのッ、」
「展開してる結界の強度は?」
「……魔物は“私の魔力”を嫌います。通常の3倍程度に聖属性の魔力を3メートルほどに」
「……アレは“創作物”だ。魔物じゃない……」
「どうすれば? 後衛でサポートに、」
「3体……。とりあえず、邪魔するな。遠くで……、チィッ!! 俺の背後10メートル付近でおとなしくしてろ! 俺が守ってやる!」
「……は、はぃ」
セシリアの消え入りそうな声に構ってる暇はない。このクリスタルゴーレム……想像よりずっと厄介だ。
端的に言えば、コイツらを作ったヤツは天才……。
(……これだけの魔力を均一に……。寸分の狂いもなく? クリスタルの特性か……? いや、待て待て。マジで天才だな!!)
【傀儡師】だと糸が視えるはず。
【人形師】だと魔石核が視えるはず。
【死霊術師】だと魔力回路が不均一のはず。
にわかには信じられないが……、《解析(アナリシス)》で解析できないゴーレム。膨大な魔力を均一に、“複雑な錬成”で寸分の狂いもなくクリスタルを循環させることでクリスタルの中にあるであろう核を隠している。
……あり得ないことじゃない。
内部を見透かす……この馬鹿でかいクリスタルゴーレムの最深部を視るには時間と集中力が必須。
戦闘中にそれをこなすなんて無理ゲーだ。
「……あの“8つの心臓の生物”……【錬金術師】か……!!」
おまけに、この深淵(アビス)での《感覚解錠(センシズ・アンロック)》の検証も済ませてない。下手に《解錠》して不具合が出れば俺は終わりだ。
ゾクゾクゾクッ……
ガネルティ大陸での日々がヌルゲーばかりだった弊害か。人間という種族が1番多い大陸。つまりは食物連鎖の頂点が「人間(ヒューマン)」という世界で1番安全な大陸。
正直、ナメていた。
手に負えないと追放されたであろう【錬金術師】。
お前は深淵(ここ)に追放されてきたヤツらを食い物にしてきたんだろう……? これまでのS級犯罪者たちの頂点に君臨してきたのか……?
「ハッ! ククッ……流石は“現存する地獄”……。最高だ……。教えてくれ! 俺が俺自身をもっと強くする方法をッ……!!」
俺は【魔女】が制作した右腕の義手に手を伸ばし、手早く操作して目当てのものを取り出す。
ズズズッ……
暗黒竜王(ダークネスドラゴロード)の逆鱗。
鋭い爪と獰猛な牙、おどろおどろしい魔石核。
堅固な鱗、引力の魔眼。etc……。
その全てを注ぎ込んだ俺の愛刀……。
セシリアの前だからって、極上の経験を前に舐めプなんかできるか。
俺は最強になりたい……。
最強だけが『自由』を手にする。
この世界のここだけは気に入っている。
だから、俺は……、全てを捨ててでも異世界中を見て回ると決めたんだ。
「《脳解錠(ブレイン・アンロック)》……」
カチャッ……
《魔力回路解錠(マナサーキット・アンロック)》。《身体解錠(ボディ・アンロック)》。《魔力施錠(マナ・ロック)》。《魔力眼解錠(マナアイズ・アンロック)》。《無限解析(エンドレス・アナリシス)》。
「《五重鍵師(クインテット)》……」
『五重』と『七重』で準備している“緊急用”を展開する。
《解錠》はいちいち指定している暇はない。設定していても展開するまで1秒なのがたまに傷だが……、“備えあれば憂いなし”……ってか?
(さぁ、始めようか……? 来て早々に死地とか……面白ぇえ!!)
タンッ!!
俺はクリスタルゴーレムへと駆け出した。
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