第4話 追放



  ◇◇◇



 ――ルベリアル王国 王都




「被告“ルシア・シエル”。勇者“アーサー・エル・ドラゴニア”を殺害した罪により、“深淵迷宮(アビスダンジョン)”に追放する」



 ルベリアル王国憲兵団の総本山である最高裁にて、俺は判決を言い渡された。


 2階席もあるコンサートホールのような裁判所……。なかなか趣味の悪い建物だ。おそらく投影の魔道具で入り口の広場にも配信されているのだろう。



「地獄に堕ちろぉお!!」

「ざまぁみろぉお!!」

「早く追放しろぉお!!」

「さっさと野垂れ死ねぇええ!!」



 俺への野次は直接届いているのだ。


 王都民の罵詈雑言は、この判決が適正なものだったである証明のようなものだ。


 まぁ斬首とかよりも重刑だから……ってか、この大陸ではこれ以上に重い刑罰がない。とはいえ、ちゃんと従えば晴れて俺の罪は精算されたということで問題ないはず……。



(にしても……、“深淵(アビス)”か)



 “深淵迷宮(アビスダンジョン)”とは、この大陸にある攻略不可能とされる迷宮(ダンジョン)だ。


 長い時を生きている俺でも未体験。何百何千万の人間が挑戦しているが、生きて帰ったのは7人だけ……。その7人全てが、それぞれの地位から引退して悪夢にうなされているという呪いの迷宮(ダンジョン)。


 200年ほど前……まぁ、けっこう昔の話になるが、世界史上初となるSSSランク冒険者となった“シリウス”に、「この世界に地獄は存在した」と言わせ、『現存する地獄』と呼ばれるようになった場所だ。



(こりゃ充分すぎる実刑だな……)



 俺は『勇者』を屠った。


 人助けの延長とはいえ、受け入れるところは受け入れなければならない。元はと言えばアブノーマルカップルの自業自得だし、正直、俺は一切悪くないと思っている。


 だが、俺がこのルベリアル王国に多大な損失を与えたのは事実だ。


 ……ぶっちゃけたところ、下手に逃亡して指名手配を受ければ旅どころではなくなるとわかっているから、罰は受けざるを得ない。ってだけだけどな……。



 『異世界中を旅する』



 この夢には『最強になるため』という目的がある……。ゆるくのんびりとした『復讐』への歩みでもある。


 ……ま、まぁ、“深淵(アビス)”すらも「異世界中」の一部だし? いつかは足を運ぼうとは思っていたし……?


 ……け、けどなぁ〜……。どうせなら「死んでもいいと思えた時に」と思っていたんだよなぁ〜……。



 パチッ……




 ふと目が合ったのは聖女“セシリア”。

 裁判に立ち会っている勇者パーティーの【賢者】の横で彼女は唇を噛み締めて視線を伏せた。


 不可視狼(インビジブルウルフ)を討伐してから3日。


 拠点としていた辺境都市「アージェル」から、国防に関するヤツらしか使えない転移陣で王都にやって来た。


 ――とりあえず、即死刑じゃなければなんでもいいわ。


 セシリアには性的嗜好を暴露しない事を条件とした約束。セシリア本人は「そ、それに関してはあなたの勘違いです!」などと必死に言い訳していたが、最後には「最善を尽くします」と言ってくれていた。


 まあ……結果がどうあれ俺の命があるのならセシリアは約束を果たしたと言える。


「深淵(アビス)ですか。クフフッ……いい気味ですね!! このような大罪人にはおあつらえ向きです!!」


 どうしても今すぐに俺を殺したいヤツが身近にいたからだ。


 裁判に立ち会っている勇者パーティーの【賢者】。まったく……もう本当に、コイツが合流してからうるさいのなんの……。



「最高裁は本当にこのクズの所業を理解している! Cランクのゴミの分際で、王国の希望を奪ったのです!」


 マジで……。

 初めて会った時からこのクソガキは……。



「見なさい! この反省のカケラもない態度をッ!! まずは地面に頭を擦り付け、全王国民に謝罪の一つでもしてみなさい! この外道めが!! “ドゥゲザ”なさい! ドゥゲザをして全国民に頭を踏まれればよろしい!! そうは思いませんか!? 王国の民たちよ!!」



 出会った瞬間から今現在まで煽りまくって来やがって……。殺していいなら速攻でぶっ殺しているレベルにムカつく片眼鏡やろうだ。



「「「ドゥゲザッ! ドゥゲザッ!!」」」



 外からは“ドゥゲザ”の大合唱。


 話す言葉は普通に通じるのに、あまりにカタコト感のある“ドゥゲザコール”が少し笑えて苛立ちも多少は収まるが……、



 クスクスッ、クスクスッ……



 見物している貴族共はもちろん、勝ち誇ったようなクソ賢者。ついには「ククッ……」と笑いやがる裁判官。


 ここは「静粛に!」って場を締めろよ。なにお前までニヤニヤしてくれちゃってんの?


 

「さっさと追放しろ、」


「“ラディアン様”……!! 法の裁きが下ったのです! これ以上をルシア・シエルに望む事は王家の皆様方以外に許されません」



 俺の言葉を遮ったのはセシリアだ。

 クソ賢者“ラディアン・ヴァッカ・クリアム”の前に立つ。


 ニヤァ……


 まぁ、それは逆効果のような気もするが。



「……おぉお!! 心優しき聖女よ! このような大罪人にも慈悲の心を持ち合わせるなど、あなたは女神の化身のようだ!! ……ですが、この者にあなたの慈悲は不要ッ!!」


「法の裁きが降ったのなら速やかに閉廷すべきです!」


「なるほど!! それは興味深い! 聖女は一刻も早く迷宮の魔物たちにこの大罪人を八つ裂きにしてやりたいと? そして生き地獄を見せ、更に真なる地獄に堕ちて欲しいと……。そうおっしゃっているのですね!?」


「そ、そうではな、」


「皆様!! では、この大罪人には“地獄への転移陣”の上でドゥゲザしてもらいましょう! さぁ!! このクズの頭を踏みつけたい足は地面に振り下ろし、地響きを持って見送るのです!」



 このクソ賢者は臭すぎる演技を終えて、俺にニヤけヅラを向けたまま、



 ダンッ!!



 勢いよく床を踏みつけた。



 ダンッ……ダンッ……



 それを皮切りに1人また1人と足を地面に振り下ろし始める。



 ダガガガガガガッ!!



「「「ドゥゲザッ!! ドゥゲザッ!!」」」



 本当に王都に地響きが起こり、この裁判を見ている連中の“ドゥゲザコール”もかなりの熱が入っている。



 ガシャッ!!



「ほら、さっさと来い! ドゥゲザするんだ」



 鎖に繋がれている俺を引っ張る衛兵もニヤけヅラ。2階席から見下ろす貴族連中も。外の連中も。


 裁判はいわゆる一種の娯楽なのだろう。

 『勇者』を殺した大罪人など格好の的だ。



 ぶっちゃけ、俺の我慢は限界に近づいていた。


 王都に入ってから不意打ちに備えてずっと《解錠(アンロック)》している「感覚(センシズ)」が教えてくれる。



 勇者という希望が消えて絶望している者は王都にはいないらしい。まあ、魔物なんて見たこともないような王都民だしな……。



 罪人が裁かれ泣き喚く瞬間を今か、今かの待ち侘びているような好奇な視線がひどくやかましいんだ。




(……も、もぅ、潰すか? この国……)




 殺ってはしまったが、善行の結果。

 全てはアブノーマルな勇者と聖女の……。



「ラディアン様っ! どういうおつもりですか?」



 敏感になっている聴覚が、地響きやドゥゲザコールの間を縫ってセシリアの声を拾う。



「……セシリア。あなたはなにかとこの大罪人の肩を持ちますねぇ……? あなたにとってわたしがどのような存在になるのかイメージしたことはありますか……?」


「……はぃ?」


「男爵令嬢であるあなたを、公爵家であるわたしの婚約者にしてあげようと言っているのです」


「……なにを言って、」


「クフフフッ……“中古品”を貰ってあげようと言っているのですよ? ……その代わり、あなたはこれからずぅーっとわたしの言うことを聞いていればいいのです……」


「ふ、ふざけないで下さい! 私は、」


「『勇者』亡き今、この王国の最大戦力はわたしとなったのです……。あなたはわたしのものになるのですよ」


「……ありえませんね」


「いいえ。逃しませんよ? 全ての権力を使ってでもあなたを手に入れます……。クフフッ……、やっとあなたを手に入れることができるのですから……」



 ふっ……、やっとわかったぞ。

 クソ賢者がどうして俺を目の敵にするのか。



 ――私は2度も命を救われてしまいました。

 ――私にできることはありますか?

 ――……あなたに少し興味があります。



 不可視狼(インビジブルウルフ)を討伐した後、セシリアは俺に興味深々だったからなぁ!!



(ぷっ……、ハハッ!! いやだねぇ!! 男の嫉妬ってヤツはッ!! ククッ……そうだなぁ。いっそのこと……拐っちまうかぁあ!?)



 そうすりゃ、このクソ賢者は号泣だな。


 正直、「おい、テンプレどこいった?」と疑いたくなるくらい異性としての好意はカケラも感じないからセシリアにはもっと嫌われることになるだろうが……。



(やっぱり、やられっぱなしは性に合わないんだよなぁ〜……。そもそも俺はわざとじゃないしぃ? セシリアにもだいぶ責任はあるはずだしぃ?)



「「「ドゥゲザッ!! ドゥゲザッ!!」」」


 

 クソやかましい中、俺は転移の魔法陣の上に立たされる。



「ほら、さっさと床に頭を擦り付けろ」



 衛兵はニヤニヤと笑ったままだが、俺はもうクソ賢者の泣き顔が楽しみでしょうがない。




「《鎖解錠(チェイン・アンロック)》……。《魔力回路解錠(マナサーキット・アンロック)》……」



 ガシャンッ……ズザァアッ!!!!



 手についていた鎖を外してCランク冒険者としての魔力から、おそらくこの王国最大の魔力量に……。


 蓄積していた魔力の10年分ほど全身に巡らせた。



 ポワァア……



 漏れ出てるんだからジワジワと転移陣に魔力が行き渡っていくのも仕方がない。目の前の衛兵が尻もちをらついて失禁するのも仕方がない。



「《身体解錠(ボディ・アンロック)》、《魔力施錠(マナ・ロック)》……!!」


 

 悠長にしている暇はない。


 俺は全身の細胞を開き、魔力を固定することで肉体が壊れることを阻止しつつ、身体の中にある魔力回路に膨大な魔力を高速循環させて一切の無駄がない『身体強化』を展開した。



 スッ……



 魔法陣が壊れないよう軽く加速し、賢者に腕を掴まれそうになっているセシリアを抱えて魔法陣の上へと帰る。



 ポワァアッ!!



 転移陣に魔力が行き渡る一瞬の間に聖女誘拐を達成。



「なっ!! なにを、」


「公然わいせつ罪も同罪だろ!」


「まっ、また、あなたはっ!!」



 俺たちが消える最中、ばっちりと目が合った賢者はあまりに一瞬だったからか泣いていなかった。



「ザマァねぇな!! ラディアン・“バーカ”・“クソリアム”!! 民度の低いクソカスルベリアルの民共!! 聖女様は貰って行くぜ!!」



 ムカついたから思いっきり舌を出してからセシリアにキスをするフリをしてやった。


 ……400年生きてたって、俺はガキだ。

 俺はやられたらやり返す……。



 ふっ……、これは現世で死んでも、このクソ異世界でも変わらなかったな。










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