◆第三章 変化の時
チャックの街に到着
ナインとマリーンの微妙な雰囲気は2ヶ月を経過しても変わらなかった。
(姫様に嫌われることがこんなに苦しいとは……)
ナインはずっと苦しんでいた。護衛としてマリーンを守ることは続けているが、会話はほとんど無く、薬草を採取しても必要最低限の会話のみだった。
(諦めなくてはいけない人だから仕方ない)
そう自然とナインは心の中でつぶやいていることに気付いて動揺する。マリーンに惹かれているのは自明なのに、なんてヒドイ言葉を言ってしまったのだろうと後悔に襲われた。
(姫様を責めることなどできないのに……)
いつものように後悔の念に苛まれているとベックの声がした。
「そろそろ“チャックの街”じゃな」
ベックの言葉にマリーンやリム、ルンナ、ナインが反応する。ベックはオムがどこの街に旅立ったかまで把握していなかったこともあり普通に言ったのだが、残りの4人はマリーンの元恋人がいる街として認識していた。
「そ、そうね。かなり大きな街なのかしら?」
「北方の貴族が暮らす街ですじゃ。音楽も盛んで多くの演奏家が集まりますぞ」
「……」
ベックはオムの存在を忘れているのか、“音楽家の集まる街”と普通に口にしている。
マリーンとオムが別れてから半年以上が経った。
マリーン達は安全性を優先して陸路で商売をしながら来たが、オムは海路で向かったのでとっくにチャックの街での生活に馴染んでいるはずだ。
ちなみに、マリーンはオムに会うつもりはなかった。フロウの酒場のマスターにマリーン達が旅立ったことを伝えてもらうように頼んであったが、彼にはきちんと伝わっただろうかと今でも気にしている。
(あれからだいぶ時間が経ったもの。彼も昔の出来事だと思っているに違いないわ)
マリーン達はチャックの街に入ると、宿屋に落ち着いた。今夜の宿は街の中心地にあるこざっぱりとした宿だ。
「近くにはカフェやレストランもあって便利そうじゃな」
チャックの街には、かつて活躍した騎士の銅像などが多くある。芸術家が集まる街なだけあって美術館や劇場なども多かった。多数の丸い柱が屋根を支えている神殿のような古めかしい建物もあって、観光名所となっている。
(こんな人が多く集まる街でオムに偶然、会うこともないわね)
「一休みしたらこの街で必要な物も色々とそろえましょうか。ここからは街が続きますし」
「そうじゃな」
いつものように男性陣と女性陣の部屋に分かれると、マリーンとルンナは旅装束からさっそくワンピースに着替えた。男性陣も着替えマリーンとルンナの後からついて行く。
「レンガ造りの建物が多いわね。古い街だということが分かるわ」
レンガ造りの路地の先には街のシンボルにもなっている塔が見えている。塔を目印に進んでいくと、路地に面して店がたくさん立ち並ぶエリアに出た。
店の入り口はアーチ形に造られており、雑貨や洋服など色々な物が売られていて興味深い。
「お店がたくさんあると見るのが楽しいわね」
「マリーン様、キレイなワンピースもたくさん売っていますね!」
「後でじっくり見るとして、まずは食事しましょうか」
「わあ、賛成です!」
まずは皆で食事をすることになった。
レストランに入るとレンガのアーチが店の中にも続いており、天井が随分と高い。店の奥にはワインが詰まった樽が多数重ねられていた。
名物だという、新鮮なトマトとチーズのサラダや小麦粉を使った麺にソースを絡めたものを注文して食べると、マリーン達は美味しさに思わず笑顔になる。
「麺がモチモチで美味しい!ジューシーなベーコンと合いますね!」
「ホントね!」
男性陣も脂ののった肉に満足気だ。料理の量も多いので、男性もタップリと食べられる。
マリーンは食事が済むと改めて店を見回した。店の隅の方にピアノが置かれており、演奏時間を書いた看板があるのに気付いた。確認すると夜の時間にショーとリサイタルをしているらしい。
(へぇ、こんなレストランにもピアノがあるのね。さすが音楽の街だわ)
「とっても美味しかったし、夜もここに来たいわね。ショーも見られるみたいよ」
「ショーも見られるんですか!ぜひ来たいですね!」
レストランを出て街を歩くと、路上でアコーディオンを弾く演奏家に遭遇した。
「そこらじゅうが音楽であふれているのね」
マリーン達はアコーディオンの演奏をしばらく楽しむと、近くの食料品店に入る。天井からは骨付きの大きなハムがぶら下げさがっており、チーズの大きな塊も置かれていた。
リムがいくつか保存の効く食べ物を購入すると、調味料なども物色していく。リムは意外にも料理に興味があるらしく、野営での調理もルンナと一緒に行うことが多かった。
「リム様、あの調理道具が便利そうですね!」
ルンナがリムに話しかけている。マリーンがナインと険悪になってしまってからルンナと過ごすことが増えたため、ルンナは以前よりもリムと過ごす時間が減っている。マリーンは申し訳なく思っていた。
洋服なども少し購入すると、一行は宿屋に戻ったのだった。
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