まさかの再会

夕飯の時間になるまで荷物の整理や休憩などをしていると、すぐに夜になった。


「ふわぁ~、少し眠っちゃったわ」

「よくお休みでしたね」

「ルンナは何していたの?」

「リム様とお話していました!」

「そうなのね。ごめんなさいね、最近、私はルンナといることが多いから、リムと話すチャンスが減ってるわよね」

「そんなこと、気にしないで下さい! ナイン様ももう少し言い方ってもんがあったでしょうに.....ホント、融通が利かない方なんですから」


ルンナはナインが暴言に近い言葉でマリーンを叱ったのではないかと思っている。マリーンは告白して辛辣な言葉でフラれたとは言えず、特に訂正していない。


「ルンナ、あの人のことはもういいのよ。しばらく距離をとりたいだけなの。彼はルンナの先輩でしょう?あなたが悪く言ってはダメよ」

「はぁい.....マリーン様が言うのなら」

「で、リムとはどうなの?進展してるのかしら?」

「……分かりません!娘のように扱われている気もしますし。そうでないような気がする時もありますし」

「私は2人のこと応援しているわよ」

「ありがとうございます!」


自由な立場でも歳が違うことが壁になったり恋ってなかなかうまくいかないものだなと、マリーンは思った。


「お昼にあれほど食べたのにもうお腹が空いているわ」

「お昼後に街も巡りましたからね!リム様にそろそろ夕食について聞いてきますね!あの、お昼に食べた美味しいお店がいいですよね?」

「ええ、ショーが始まる前にお店に行きましょう」

「了解です~!」


ルンナが隣の男性陣の部屋に行くと、マリーンは窓から街を見下ろした。


(この街のどこかにオムが暮らしているのかぁ。元気かなぁ……)


オムへの気持ちには整理がついたものの、やはりこの街のどこかにいると思うと、少し落ち着かない気持ちになる。


あと、今さらだが、自分が旅に出ることをオムに直接知らせなかったので “裏切った”と誤解させているかもしれないと、少し不安な気持ちがあった。


(彼はいつか私のことを迎えに来ると言っていたし、私のことを恨んでいるかもしれない)


思いにふけっていると、ルンナが戻って来て夕食へとそろそろ出ようと話がまとまったらしい。


昼間に来たレストランは、ランタンが吊り下げられオシャレな印象に変わっていた。


レストランに入ると、奥の席に案内される。やがてショーが始まり、キレイな踊り子がたくさんステージに出てきた。客達は推しの踊り子がいるのか黄色い声援を送っている。


「ここでも私が踊り子として……」

「ルンナ、ここでは踊る必要は無い。薬販売で資金はあるからな」


すかさずリムが止めていた。


(ルンナはいいなぁ。気にしてくれる人がいて)


自分にも気にしてくれる人はいるが、それは“護衛”という仕事であって心から気にしてくれているわけじゃないと思うと、何とも言えない悲しい気持ちになる。


ふと顔を上げると、ナインがこちらを見ていた。


ナインと目が合うと気マズくなり、目をそらす。まだ、とても普通に話す気にはなれなかった。


(目も合わせてもらえない.......)


ナインはマリーンに目をそらされ、胸に痛みを感じる。目を逸らしたマリーンは、ナインが眉を下げ表情を暗くしていることに気付かなかった。


........そんな時、まさかの懐かしい声がした。


「マリ!?」


マリーンがその声に驚いて振り向くと、オムが立っていた。リムやベック、ルンナも驚いた。


「やっぱりマリだね!会いたかったよ!」


オムはマリーンに近づくとギュッと抱きしめる。マリーンは突然現れたオムにされるがままだ。


ナインはすぐさま反応し、マリーンに抱きつく得体の知れない男を引き離した。


「痛たた....何だいあなたは?マリの新しい護衛?」


オムがナインを見る。ナインは鬼の形相でオムを見ていた。ナインにもどうやらこの者がかつてのマリーンの恋人であることが分かったらしい。


「オムがどうしてここに?」

「どうして、とはオレのセリフだよ!どうして旅に出たことを知らせてくれなかった!?旅の途中でも手紙を出すことぐらいできただろう?オレがどれだけ心配して悲しんだか!」

「ご、ごめんなさい。色々と事情があって……」

「......ベックさん、リムさん、ルンナさん、お久しぶりです。後で少しマリと話す時間をもらえませんか?」


オムがどうしてもと言うと、リム達は黙る。ベックも難しい顔をした。


「オムには旅に出た理由とかきちんと話さなくてはと思っていたわ。ベック、少し時間をもらえる?」


マリーンが言うと、ベックはうなずいてくれた。


「だが、2人きりにするわけにはいかん」

「分かったわ。オムもそれでいいかしら?」

「うん、マリと話せるならそれでいいよ。 僕はこのショーの後にクラシック曲を演奏することになっているだ。ぜひ聴いて欲しい」

「もちろんよ」


オムは楽屋の方へと消えて行く。マリーンはまさかの再会でドキドキしていた。


「まさか本当に会うなんて.......」

「......驚きましたな。それにしてもナゼここで働いているのでしょうか?オムは確か貴族の屋敷で雇われたはずでしたね」


それはマリーンも不思議に思っていた。彼が望んだ宮廷音楽家になるには貴族に気に入られることが必須となる。どうしてここで働いているのだろうと思う。


ショーが終了して踊り子達が舞台から去ると、ピアノが中央に設置された。


ピアノに照明が当てられると、オムが登場してくる。彼のファンなのか、オムが登場すると熱烈な拍手をする人もいた。


演奏は、静かなメロディから徐々に力強いタッチへと移り、思わず引き込まれるような演奏だった。マリーンはオムの演奏に目が釘付けになる。


(相変わらず彼の演奏は美しいわ。もっと上達したように感じる)


演奏が終わると、観客が次々と席を立ちあがりお店全体に拍手が鳴り響いた。


(すごいわ。オムの演奏がこんなにも多くの人を感動させている.......!)


マリーンはジーンとして拍手を惜しみなく送ったのだった。

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