泉での水浴び
「ほっほ、マリーン様も剣を手に入れられましたか」
分厚い図鑑を片手にベックが満足そうに言いながら戻って来た。
「そろそろ気温も上がってきましたね」
「ねえ、そのことなんだけど、さっき買った水浴び用の布をさっそく活躍させたいの。ダメ?」
「え、このような人が多い場所で堂々と水浴びをなさるつもりですか?」
リムが泉を見ると、男性も女性も子どもも皆、泉での水浴びを楽しんでいる。女性は大きな布を身体に巻き付け露出も少ないので大丈夫そうではあるが……。
「このようなオアシスでは水浴びも人々の楽しみとなっている。だが、マリーン様が公衆の面前で水浴びとは……はてどうするべきでしょう?」
リムがベックに問うと、ベックは意外にも“暑いのだから入ってくれば良いじゃろ”との答えだった。
「やった~!」
「では着替えてに行きましょう!」
マリーンとルンナがキャッキャッとはしゃいでいたが、ナインだけはフクザツそうな顔をしていた。
(姫様は泉には苦手意識があるはず。泉での水浴びなど本当に大丈夫なのだろうか……)
ナインは心配していた。
宿に戻り、水浴び用の服装に着替えるとさっそく皆で泉へと向かう。ベックは古本の図鑑を読みたいとのことで4人での水浴びとなった。
泉は意外にも透明度が高く、本当かは分からないが泉に浸かることで肌もキレイになるのだと聞いた。旅人や地元に住む人だと思われる人も皆、水浴びを楽しんでいる。
「泉のすぐ向こうには砂漠が広がっているなんて不思議な風景ね」
「泉と言ってもそこまですごく冷たくないので入りやすいですね!」
男性陣は腰に布を巻き付け泉に入っている。普段は見えないたくましい胸板が見えてマリーン達が照れてしまう。
「姫様、泉はもう苦手ではないのですね」
「私がおぼれた時はもっと小さかったし、ここの泉はそこまで深くないから大丈夫よ」
「それを聞いて安心しました」
ニコリと笑うナインの胸板や割れた腹筋が男性らしくて、マリーンはドキドキしてしまった。これまでマリーンは筋肉モリモリ男の裸身(上半身だけだが)など見たことが無かったので、目のやり場に困る。
一方、男性陣は男性陣でマリーン達の水浴び姿を見て困っていた。
「ナイン、マリーン様達の水浴びを早めにやめてもらおうと思うのだが」
「……オレも気になりました」
「やはり気になるか」
全身に布を巻き付けているとはいえ、水に濡れて身体にピッタリと張り付いた布は身体のラインが露わになっている。布を多く巻き付けている前はともかく、特に背中から腰にかけてのラインがとても悩まし気に見えてしまうのだ。
「おいナイン、鼻血出すなよ?」
「ヤメて下さい。もう出しません!」
そろそろ上がろうとリムが提案すると、女性陣は不満を言う。仕方なくリムはルンナに事情を話すことにした。
「ルンナ、ちょっと」
リムがルンナを呼び寄せ小声で伝えると、ルンナはハッとした様子で自分の後ろ姿を確認している。分かりやすい確認の仕方に事情を告げたリムは顔を真っ赤にした。落ち着かなさそうにヒゲを指に巻きつけている。
「マリーン様、そろそろお昼をとりに参りましょう!」
「えぇー、もっと水浴びしたいわ。ルンナだって楽しそうだったのに」
「マリーン様がこれほど水浴びを気に入るとは思いませんでした! だけど、お腹空きませんか?」
「...言われれば、そうね。この辺にしておきましょうか」
無事、マリーンの説得に成功したルンナはマリーンにタオルをかけると、部屋へと戻った。身づくろいを終えると昼食の時間となる。
「ベックは、読書の方はどう?」
「興味深い記述があってさっそく試してみたくなりましたわい。マリーン様は水浴びを楽しめましたかの?」
「ええ、とっても!すごーく楽しかったわ。もっと遊びたかった!」
「窓から泉で遊ぶ様子をワシも見ましたが、楽しまれておりましたな。王宮に戻った日には水浴びができる場所を作ると良いかもしれませんのぉ。薬草を入れたら効果もありそうじゃわい」
「薬草を入れるならお風呂がいいんじゃないかしら。浸かると効き目がありそうな薬草と言えば……」
ベックとマリーンの会話は続いていく。姫君自らお風呂など、無防備に話題に出すのはどうかとリム達は思ったが、ここは旅先であり自由に過ごせる場として気にしないことにした。ナインはついマリーンの入浴シーンを思い浮かべてしまい、妄想をかき消すように一人慌てて手を振る。
「何やってんだお前?」
リムに不審そうに言われたナインは思わず“手首の運動です!”と答えたのだった.......。
「そろそろ、明日にはこの砂漠のオアシスも出発じゃな」
「そうね。一通り楽しんだわね」
「資金の方はどうなっておる?」
「以前の町にいた時に王宮には至急、資金の追加依頼をしております。船を使い、港のある町に先回りして届けてもらう手はずです」
「では、今しばらく乗り切って行かねばならんの」
マリーンは、しばらくしたら気ままな旅も続けられなくなるのかと思うと、寂しい気持ちになったのだった。
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