砂漠のオアシス
次の町までは砂漠地帯を通ることになる。
砂漠の真ん中には森が広がるオアシスがあり、この国だけでなく周辺諸国から人が集まるバザールが開かれているらしい。
馬車では砂漠は通れないので手前の町で馬車と不要な荷物を売り、ラクダに必要最低限の荷物を括り付け進むことになった。
ラクダは馬車に乗るのとは大違いで、常に脚を締めて乗らないと落ちそうになってしまう。普段、町歩きなどをしていたとはいえ、馬に乗ったことがあるリムやナイン、ルンナとは違ってマリーンは苦労することになった。
「わわっ! 結構、左右に揺れるのね!」
マリーンがラクダから落ちないように、ナインがラクダに乗りながらマリーンのラクダに寄り添って支えてくれる。
ガタガタと揺れながら灼熱の太陽の元を進んでいくと、砂漠が夕日で赤く色づく頃にようやくオアシスに到着した。
オアシスの中央には大きな泉があり、周りには木が生えている。宿泊施設などもあった。
「やっと着いたわね。長かった」
「姫様、よく頑張られました」
汗まみれになりながらラクダを降りると、脚がガクガクしてしまう。ルンナに支えながらヒョコヒョコ歩くことになりハズカシイ。
オアシスの町には頭にターバンを巻いた人や、身体や肩に刺繍されたキレイな布を巻く女性などたくさんの人が集まっていた。各国の品物が豊富に売られていてとても活気がある。
露店にはマリーンがこれまで見たことがない民族的な刺繍のある布や、剣や槍といった武器、鎧などの防具、骨董品らしいランプや水差しなど様々物が売られていてとても興味がそそられた。
早速、みて回りたいところだったが、慣れないラクダに乗っていたせいで自由に歩けないマリーンはとりあえず休むことにした。
「さっそく宿を手配して参ります」
リムがすぐに宿の手配を済ませると、リムとナインがラクダから荷物を下ろして部屋へと運んでくれる。荷下ろしや運ぶ役目は彼らの役割となっていた。
「....こんなに風景や気候が変わると随分、遠くまでに来た気がするわね」
「モリーナの町から川と山を渡ると、景色も一変しますからね」
リムは地図を広げながら言う。とりあえず、疲れ果てたマリーンは水を飲み、ベッドに寝そべるとアッという間に眠ってしまった。ちなみに、部屋割りは女性陣と男性陣に別れているので安心してゴロリと横になれる。
「マリーン様はお疲れになり、眠ってらっしゃいます!」
マリーンが眠ってしまうと、ルンナが皆に報告した。ちなみに、ベックも宿屋に着くなり慣れないラクダでの移動による疲れで早々に部屋のベッドで眠ってしまった。
残ったリムやナイン、ルンナは2人が目覚めた時にお腹を空かしているだろうと、食堂に食料を調達しに行くことにした。
宿泊している宿の食堂はオアシスに面したバルコニーに設けられており、アーチ形の柱が立ち並ぶエキゾチシズム溢れるデザインが魅力となっている。
「この宿屋ステキですね~」
「我が国にもこのような場所があったのだな。旅をする甲斐があるというものだ」
「オレも旅をしなければこんな場所があるなんてことを知らずにずっといたでしょう」
「お前、最初に合流した時は不満そうだったが、旅に帯同できて良かっただろう?」
「はい。今では人生に回り道も必要なのだと感じています」
「ならいい。人生を楽しめ」
ルンナはリムとナインのやりとりを聞いていて、自分もこの旅に参加できて良かったと感じていた。マリーンが旅に出なければ、まだ王都で影の訓練をしていたことだろう。影の訓練は厳しく、心が折れることもたくさんあった。
食堂で野菜と肉が挟まれたサンドイッチのような料理を人数分包んでもらうと部屋に戻る。丁度、ノドの乾きを感じて起きたマリーンはルンナと一緒に食事をとった。
「これはサボテンかしら?初めて食べたわ」
「意外と美味しいですね!」
ボリュームのある料理を食べ終わると、マリーンは宿屋の中を探検してみたくなり、ルンナとまわってみることにした。廊下に出ると偶然、リムとナインも部屋を出て来たところだった。
「食事は済まされましたか?」
「ええ。とてもお腹いっぱいになったから、散歩がてら宿屋の中を探検でもしてみようと思っていたところよ」
「ならば、オレがお供します。女性だけよりは男がいた方がいいでしょうから」
「私も行こう」
4人でオアシスに面した庭に出る。空は乾燥して遮る建物も無いせいで、星がびっしりと瞬いて見えた。
「すっごくキレイ!」
「キレイね!」
マリーンとルンナが感激してはしゃいでいると、リムは“明日の朝食の用意を頼んでくる”と行こうとしたので、リムを慕うルンナはナインがいることもありついて行った。ナインと2人きりになる。
「星がこんなにたくさん見えるなんてスゴイわね。星の隙間を見つける方が早いくらいだわ」
「姫様が気に入ったのならば、少しここで滞在するのも悪くないですね」
「午前中はもっと露店が出ていると聞いたわ。それを見たいわね」
「オレも露店が気になります。遺跡に眠っていた剣も売られているとか」
「それ、使えるのかしら?大昔の剣でしょ?」
そんなことを話していると星空が瞬くロマンティックな雰囲気もあって2人きりでいることを妙に意識してしまう。ナインも何となく口数が少なくなってきた。
「こういう時、恋人同士ならどんな話をするのかしら?」
「……言葉は必要ないかもしれませんね」
ナインの言葉に思わずマリーンはナインを見た。すると、ナインとバッチリ目が合う。しばし、お互いに瞳を見つめ合ったまま沈黙が流れた。
「……さあ、今日はもう休みましょう」
「え、ええ」
マリーンはナインの“言葉は必要ない”という言葉の意味がどういう意味なのかを聞きたい気分になったのだった。
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