ピュアな男?

「このリボンをくれ!」


いきなりナインが小物屋の主人に言う。マリーンはナインが突然、リボンを買い求めたので驚いた。


「ナイン、いいのに」

「あなたはこんな些細な物をガマンする必要などありません。この程度の物を我慢している姿を見てはいられません!」

「そんな大げさな……今は節約しなくちゃいけないから買わなかっただけよ」

「それでもです。こんなことを気にする立場ではあなたはない……モゴモゴ」


慌ててマリーンはナインの口をふさぐ。このまま好きに話させたら自分の正体がバレるのも時間の問題だとマリーンは焦った。


「心配してくれてありがとう!リボンも買ってくれてありがとう!.......だけどね、大きな声で私の正体をバラそうとするのはヤメて」


睨みつつ最後の方は小声で文句を言うと、ナインは素直に謝罪する。


「申し訳ありません……」

「もう!デートなのに敬語もオカシイでしょ?しっかりして!」


少しは恋人らしくデートができるかと期待していたが、見事に裏切られたマリーンはガッカリした。予想以上にナインがカタブツ過ぎて全く甘い雰囲気を作り出すこともできない。ふう、とタメ息をついた時、とある衣装が目に留まった。


「ねえご主人、あそこの壁にかかっている衣装がとてもステキね!」

「おお、お目が高い!あの衣装は西の異国からの輸入品で1点物ですよ。踊りをされるんですか?」

「私は踊らないけど、知り合いがね。ちょっと衣装を見せてもらってもいいかしら?」

「ぜひぜひ」


店の主人が衣装を壁から取ると、マリーンに手渡す。真っ赤なセクシーなセパレートタイプの踊り子の衣装だ。


胸の部分は刺繍入りのシースルーにガラスのビジューが縫い付けられた絶妙に見えそうで見えない攻めたデザインで、下は真っ赤なシースルー生地を基調に、腰にチェーンとターバンの様な最小限の布が付いている。ハッキリ言ってほとんどスケスケな衣装だ。


(キレイだけど、さすがにルンナにはオススメできないわね~)


「ねえ、ナインはこれどう思う?」


何の気なしに衣装を身体にあてながらナインの方を見ると、ナインは目をクワッと見開いた。


「ねえ、どうなの?」


ナインは答えない。答えない替わりに鼻から血を出した。


「え?ナイン?」


そのままナインは後ろにゆっくりと倒れていった。“ズドーン”と、スゴイ音が鳴る。


「ウソでしょッッ!?」


てっきりナインは“はしたない”とか“下品だ”とか言うと思っていたのに、鼻血を出してぶっ倒れるとは想像していなかった。


倒れた時に周りの衣装を着た人形なども倒れ、店は大惨事になっている。マリーンは倒れた衣装などを店の主人と共に直すと必死に謝った。


店の主人は、“随分とウブな人だね”と許してくれたが、巨体の男が倒れたままなので、どうするわけにもいかず、仕方なくリムとルンナがいる防具屋までマリーンが呼びに行き連れて来た。リムとルンナは鼻血にまみれながら倒れたナインを呆れて見下ろしたのだった。


「主人、騒ぎを起こして申し訳ない」


リムが店の主人に謝りナインの顔を引っ叩くと、ナインは正気を取り戻して目を開けた。


「リム様!」

「お前は何をしているんだ?踊り子の衣装を見て、鼻血を出してぶっ倒れたそうだな」

「それは、その……」

「おい、また鼻血が出て来たぞ」


ナインは受け取った紙で鼻を抑えながら立ち上がると、原因となった踊り子の衣装を指さした。


「あれはいくら何でもセクシー過ぎるでしょう!!」

「お前、アレを見て鼻血を出すなんて……」

「ナイン様、ムッツリスケベですね!」


ルンナのズバリの一言に皆、大爆笑となる。


「ヒ、ヒドイではないですか!オレはオレは……」

「はいはい、お前はピュアなんだよな?」


爆笑しながら言うリムにマリーンも笑ってしまう。確かに彼はピュアなのかもしれない。


(私もかなりセクシーな衣装だとは思ったけど、まさか鼻血を出して倒れちゃうなんてね)


「リム様、私がこの衣装を着て舞台に出てみたらどうでしょう? 」

「絶対ダメだ!!」

「えー、ナゼです?」

「この衣装を見ただけで鼻血を出して倒れるヤツがいるんだ。危なくて仕方ないだろう!そんなものをルンナに着させるわけにいかない!」

「リム様……」


ルンナの目にハートが見えるようだ。マリーンはナインをせっついた。


「ナイン、正気を取り戻したでしょう?さっさと立って。私達はこのまま薬草採取に行くわよ」

「.....了解しました!」


マリーンはナインを連れて店から出ると、薬草の生える町の入口へと向かう。ナインがスッカリ大丈夫なのを確認すると口を開いた。


「ナイン、ルンナ達いい感じよね?」

「ああそれで、急いで店を出て来たんですね。あの2人はこのまま結婚することになるのでしょうか?」

「あら、ナインもやっと前向きに考えられるようになったのね」

「オレもその……恋人のフリなどをすることになり、恋人達の気持ちを考えてみたのです。気持ちが通じ合う者同士、将来を考えても不思議ではないかなと」

「……そうようね」


ナインはマリーンの声のトーンが下がったので、自分の言ったことがかつての恋人のことを思い出させたのではないかと慌てた。


「もちろん、立場にもよりますが……!」

「私はリムとルンナには幸せになって欲しいわ」

「オレもです」


ナインがリム達を素直に応援する気持ちになって良かったと、マリーンは嬉しく思ったのだった。

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