野盗現れる
日が昇ると再び街道を進み始めた。
「この辺は特に人気がない街道じゃのー」
ベックの言う通り、先ほどから辺りは昼間なのに静かだ。鳥の鳴く声さえ聞こえてこない。
突然、馬車が停まった。
「どうしたんじゃ?」
「何でしょう?」
馬車の外をのぞいたルンナが無言で短剣を取り出したのでマリーンは驚いた。
「ベック様、マリーン様をお願いいたします!」
「追いはぎでも出たのか?」
「はい。まさに外ではリム様とナイン様が剣を抜いた状態で敵とにらみ合っています!」
「何じゃと?」
マリーンは、初めての野盗遭遇に怖くなった。世の中には悪い輩がいるのは知ってはいたが、白昼どうどうと襲ってくるなんて思いもよらなかったのだ。しかも、人気の無い街道で何人盗賊がいるのかも分からない。こちらには屈強な男達が2人いるとはいえ心配だった。
ルンナが短剣を携えて馬車から出ようとするのでマリーンは止めた。
「ルンナ、あなたはここにいるべきよ!」
「殺られる前にこちらが殺らねばなりません!」
物騒なことを当たり前のように言うルンナは、いつもの朗らかな彼女とは違う。訓練された者の顔をしていた。
「私は大丈夫です。馬車の中で待っていてくださいね。鍵をするのを忘れずに」
再びルンナが馬車から出ようとすると、今度はベックが引き止めた。
「ルンナ、ここに残りマリーン様をお守りするのじゃ。ワシが話をつける。無事に旅を続けることが大事じゃからのぉ」
そう言うと、ベックはお金の入った袋を取り出し、金貨をいくらか抜くと袋を手に馬車を降りた。
「ベック!」
「ベック様!」
「大丈夫じゃ。ちょっと行ってくるからの」
ベックは剣を抜いて構えている野盗達の方へとゆっくりと歩いて行った。馬車の中から外の様子を見たかったが、ルンナに止められて外の様子を確認できない。
ベックが出て行ってからしばらく時が経った。外はやたらと静かだ。何が起きているのかを確認したくてたまらない気持ちになっていると、馬車の扉をコンコンと叩く音がした。ベックが帰って来た。扉を開けるとベックが馬車に乗り込む。
「話はついたぞい。何じゃ、話してみればよくある話。やつらはこの辺りに住む貧しい村民で、困って追いはぎもどきをしていたようじゃ」
「お金を渡したら納得してくれたの?」
「そうじゃ。後、身の上話を聞いたら落ち着いた様子じゃ」
「ベックにそんな話術があるとは思わなかったわ」
「ワシは宮廷薬師兼医師まで登り詰めた男ですぞ。それくらいできますわい」
ふぉっふぉっ、と笑うベックを乗せた馬車は元通り街道を進み始めた。追いはぎ達は手を振って見送っている。
(お金を渡して解決できたのは良いとして……私、貴金属類を抜いてきちゃったのよね......)
マリーンは冷や汗をかいた。
しばらくして街道が森を抜けると、少し先に町の入口が見えてくる。リムと相談したらしいナインが馬を寄せて来た。
「今日はあちらの町の宿に泊まりましょう」
(ベックがさっき少しお金を抜いていたから、数日分の宿代ぐらいはあるとして……)
マリーンは予想していなかった追いはぎとの遭遇で、今後の旅の資金繰りを心配していた。いざとなれば薬販売をしようとは考えていたが、急である。
町につくとさっそく町入口にある馬車置き場で降りる。馬車から降りて来たベックが荷物をさっそくガサガサと探っている.....!
「なんじゃこれは!!」
大騒ぎしているベックを見ると、地面に砂がこぼれた袋が転がっていた。
(もうバレちゃった~!)
「貴金属を詰めてあったハズなのになぜか砂袋になっておった!!ナゼじゃ!!」
「何ですと?先ほどの追いはぎがすり替えたのでしょうか?」
「ベック様の荷物はずっと馬車の中でしたよね。私とマリーン様が馬車にいたのでヤツらがすり替えたとは考えられません!」
ルンナがすかさず言う。犯人であるマリーンはドキドキしてしまう。
「では、ラーゾォの街で何者かにすり替えられていたのでしょうか?貴金属だけ狙われたのは妙ですが」
「あの宿屋でしょうか?無償で部屋をグレードアップするなどおかしいと思ったのです」
ナインの言葉にマリーンは慌てた。これではあの宿屋のおかみさんが責められてしまうかもしれない。どう言ったらよいかと思っていると、ナインが思い出したように言った。
「そう言えば、出発の前の晩に荷物は1つの部屋に置かれていました。その時、既に野盗でも入っていたのでしょうか。イヤしかし、侵入されればすぐに誰かが気付くはずですし.......姫様、オレが最後にしっかりと戸締りをしたのをご覧になられましたよね?」
「なぜ、マリーン様に聞くのじゃ?」
「それは……眠れないご様子の姫様が外に出ていらっしゃったので」
「夜更けに2人きりとはどういうことじゃ?」
消えた貴金属類よりもベックはナインと2人きりでいたことの方に食いついてしまった。だが、消えた貴金属類のことはウヤムヤにできそうだ。
「その晩は月がキレイだったからコッソリ見ていたのよ。心配して見に来たナインがたまたま側にいたっていうだけよ。ね、ナイン?」
ニッコリとナインを見ると、ナインはうなずいた。オムからの手紙のことを言われたらどうしようかと思ったが、ナインはなぜか黙っていてくれた。ベックは一応は納得したようだが。
「それであの、今いくらあるのかしら?私は所持金が足りないならば、フロウの町でしていた薬販売でお金を作ったらいいんじゃないかと思うのだけど」
「知り合いもいない町でいきなり商売をしようというのですか?それも姫様が??」
ナインが困惑した様に言う。ナインは直接、マリーンが薬を売っている姿を見たことがないので、マリーンが商売をするなど想像できないような顔をしている。
「その必要が出てくるかもしれんの。“芸は身を助ける”じゃ」
ベックの座右の銘“芸は身を助ける”だ。ベックの口からこの言葉が出てきたのならば、薬販売に反対ではないだろう。
マリーンは皆に悪いなとは思いつつ、これで“計画通り色々な人と関わりながら旅を楽しめる!”と思ったのだった。
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