モリーナの町に到着

一先ず残ったお金がいくらかを確認することになった。


「今日は宿屋に泊まるとして……明日からは薬草集めをさっそく始めんと厳しそうじゃな」

「私達の所持金も心もとなく……申し訳ありません」


リムやナインが申し訳なさそうに言うのを見て、マリーンは心が痛んだ。


(ゴメン!だけど、自由な旅を手に入れるためにはこの方法しかなかったの)


マリーンは心の中で謝る。


「では、ここは私が皆の泊まる宿屋を見繕って参ります」

「リム、頼んじゃぞ」

「リム様、私も行きます。荷物を運ぶ必要もありますし!」


リムとルンナが去ると、ナインが町の様子を探り始めた。マリーンも町の様子を探りに行きたかったが、ベックが疲れている様子だったので側にいることにした。


「この町は意外と流れ者が多いようです。日雇いの仕事の求人も多いみたいですよ」


町の人と会話をしたらしいナインが戻って来て教えてくれた。


「そういうことならば、薬の販売もやりやすそうね!」

「姫様は不安ではないのですか?知らない町で商売することになるのですよ?」

「何事も経験でしょう?」

「内容によりますが……今回のことを楽しんでいるように見えます」

「そ、そうかしら?」


そんなに楽しそうに見えたのだろうか?ナインが自分を砂袋と取り替えた犯人だと疑ったらどうしようとマリーンは焦った。


「マリーン様、前向きなのは良いことですじゃ。では、ナインはマリーン様について薬草探しに付き合え。ワシは調合担当させてもらう」

「かしこまりました。城の方にも急ぎ資金送付依頼をしますが、届くまでには時間がかかるでしょう」

「ワシとマリーン様がおるのだ。薬販売は良い収入になるから焦らんでも大丈夫じゃわい」

「オレも何かできる日雇いの仕事を探してみます」

「うむ」


ベックは勝手に薬草採取のペアをナインに決めてしまうと、呼びに来たリム達の方へとスタスタと歩いて行ってしまった。


(ナインと2人で薬草採取なんて気マズイなー)


つい一昨日くらいまでは言い合いをしていた。ナインと薬草を黙々と摘むと思うとマリーンは気が重くなる。だが、新しく滞在することになったモリーナの町を改めて見回してみると、今後の生活に少しワクワクしてきた。


モリーナの町は、小さな町だが海に面していて港もある。昼と夜の寒暖差があることからブドウの栽培が盛んらしく、特産品のワインを仕入れに訪れる業者も多いと聞いた。彼らは船でやってくるから薬なども売りやすいだろう。


なだらかな丘に面して築かれたモリーナの町は高台に古城があり、町のシンボルとなっている。


本日の宿となる部屋は男性陣と女性陣で分けた2つの部屋だったので、以前の宿泊よりも落ち着けた。今後の行動について話し合おうということになり、男性陣の部屋で会議をする。


「私は、薬販売ができそうな建物を探しに町の様子を見て来ようと思う。ルンナには女性の洋服など必要な店などをチェックしてもらいたい」

「了解です!」

「オレは、マリーン様について薬草採取を手伝うことになりました」

「ワシは薬草の調合をするぞ。腰の調子がイマイチだから薬草採取はマリーン様達にお願いしてしまうがの」


それぞれの役割を確認すると、さっそくベック以外の者は出かけることになった。昼食は宿屋でサンドイッチを用意してもらう。


マリーンはナインと町の入口近くの森に来ると、まずはサンドイッチで腹ごしらえをすることにした。木陰に座ると、風が吹き抜けていって気持ちいい。


「静かねえ」

「そうですね」


ナインとは少しは会話をするようになったものの、未だ微妙な空気があり、あまり会話が弾まない。静かな昼食を終えるとすぐに薬草となる草を採取し始めた。


「この辺りは薬草の原料となる植物が豊富に生えているわね。オオバコにコズチでしょう……」

「姫様、本当に薬草に詳しいのですね」

「本当にって何よ。ベックから直々に薬学について学んでいるのよ。ただ、遊んで静養していたわけじゃないわ」

「そういう意味で言ったのでは……オレの中では姫様は小さい頃のままで止まっていたので」

「まだ、そんなこと言ってるのね。ナインも9年前よりも身体が大きくなって筋肉もモリモリついたし、見違えたわ」

「オレの体格がいいのはおそらく異国の血が入っているからではと言われたことがあります」

「そうなの?あなたと話す時、うーんと上を見なくちゃいけなくなったわ。あ、でも子どもの時もそうだったわね」


子どもの時のマリーンはよくナインを見上げていた気がして懐かしくなった。


「ナインにおんぶしてとか、お姫様抱っこしてとか色々とワガママ言っていたわよね。今、思い出すとハズカシイ……」

「そんな小さな姫様も今は大人の女性になり、とてもおキレイになられました」

「何なの急に……ナインが褒めるなんて珍しいわね。いつもお小言ばかりなのに。調子が狂うわ」

「オレがお諫めするのは、姫様が無鉄砲であったりするからで……別にイヤな気持ちにさせたいからではありません」

「イヤな気持ちにさせようとして言ってたら性格が悪すぎるわ。そうでなくて良かった」

「姫様はオレがお嫌いですか?」

「は?」

「再会した初日の夜、つい言い過ぎてしまいましたが、オレは姫様の旅に帯同できることを大変な名誉だと思っていますので」

「旅に行かなければ将軍になっていたって言わなかった?」

「それはその……売り言葉に買い言葉でして、本当はガッカリなどしておりません」

「……」


マリーンはやはりナインが分からないと思ったのだった。

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