第8話

────────────数ヶ月後。


ある夜、麗沙を置いて家を出た。


…………下手したてに出てくる麗沙が消えて、最初はよかったけど、でもやっぱり以前のあいつがよかった。


でも戻れなくなってた。

一度甘え出すとその一歩前の関係に戻れなくなってた。


甘える相手が欲しかったんじゃない。

めちゃくちゃに可愛がれる相手が欲しかった。


でも、あいつ以上にその欲を埋めてくれる相手なんて居なかった。




────────────家を出て30分ほど経った頃、電話が鳴った。



『流星くん。どこ…?』

『うん?家の近く。』

『帰ってきて…』

『……』

『嫌なの?』


『…麗沙。』

『うん。』

『ごめん。…本当にごめん。』

『やっぱりだめなの?…』

『不安が消えない。ずっとお前の後ろに知らない男が見える。お前が俺じゃないその後ろ側の男に笑ってたり、、悦んでたりするように見える…。』

『なんで?なんでそんな不安なの?』

『自信がない。お前の過去に勝てる自信が無い…』


『ねぇ、それ、ぶつけてよ。私にちゃんとぶつけて。…ねぇ、お願い。』

『…じゃあ言い方戻せよ。』


『やっぱりあれが好きなんですね…。』

『…お前はちゃんと俺のものか?ちゃんと俺だけのものか?…どこにも行かないか?』

『行きません。私はどこにも行きません。だから早く帰ってきてください。私が愛しくてたまらないなら早く戻って来て私を抱きしめてください…。私もあなたがいないと不安で不安で狂ってしまいそうになるんです…。知ってましたか?あなたと離れてる間何度も何度も命を絶とうとしたんです。でも、あなたが私を求めてるって信じてた。感じてた。…だから生きてこれました。』



───────────────『麗沙。』


『……流星さん。』

『麗沙。』


僕は麗沙が話してる間に帰宅して、布団に潜り込んで麗沙を抱き寄せた。


『…もう二度と離さない。』

『離さないでください。』

『…覚悟は出来てるか?』

『出来てます。』


僕は薄闇の中で彼女の首を優しく掴んで目を見た。


『お前は一生俺のものだ。いいな?逃げるなよ。』

『流星こそ。逃げないでよ。』

『……麗沙、やっぱり歳上なんだな。』

『そうよ?…素直になったらどうなの?あなたが怯えてるのは私をそれだけ想ってるから。だから怖いの。想えば想うほど怖くて仕方なくなるの。違う?』


『そう。溢れてくれば来るほど怖くなる。俺なんか居なきゃいいって。俺なんか無力だって思いがいっぱい押し寄せてくる。』

『大丈夫。ちゃんとわかってるから。』


『……麗沙。お前の事縛りたい。手も足も。体全部…。』

『本当、支配欲と独占欲にまみれた人。』

『仕方ねーだろ。こんないい女逃がしてたまるか。』


『流星。』

『ん?…』


『私も同じ。あなたを逃がしたくないの。だから不安ならちゃんと吐き出して。ちゃんと埋めてあげるから。でもあなたも一緒。私を不安にさせないで。…いい?』


『はい…』


僕はまた彼女に包み込まれていた


。と


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消えたい夜に 海星 @Kaisei123

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