第33話

アークリッチが闇の魔法で攻撃を仕掛け、戦場は一瞬にして暗黒に包まれた。周囲のアンデッドが次々と湧き出し、俺たちを囲むように配置を整えてくる。アークリッチの目は冷たく光り、戦場を支配するかのように立ちはだかっている。



「イリオスさん、どうしますか?」

 俺はギルドマスターであるイリオスに指示を仰いだ。彼は俺たちよりも遥かに経験豊富で、最も冷静に状況を見ていた。


 イリオスは静かに周囲を見渡し、短く頷くと鋭い声で言った。


「リリス、族長たちの増援とともに光魔法を最大限に集中させろ。奴の再生を完全に封じ込める結界を作ってくれ。ゼラン、ノエル、俺たちはその間に一気に攻める。時間をかけると奴の魔法が強まる危険がある」


 その声には強い決意がこもっていた。俺たちはイリオスの言葉に従い、それぞれの役割を確認し、アークリッチに向かって戦闘態勢を整えた。


「光の魔法を!一斉に奴を包囲するんです!」


 リリスが叫び、エルフの増援が次々に光の矢を空に放つ。矢は光の波となってアークリッチを包み込み、闇の波動を徐々に押し返していく。アークリッチは苦しげに呻き声を上げた。


「ふん、この程度の光で私を封じ込めるつもりか!」

 アークリッチが闇の力を増幅させ、光の壁に衝撃波を放った。だが、イリオスは即座に動いた。


「ここで奴を押さえ込む。全力を出せ!」


 イリオスは大剣を高々と掲げ、ギルドマスターとしての全力を解放した。彼の周囲に強烈な魔力が渦巻き、剣に宿った光の力がさらに強まる。次の瞬間、イリオスはアークリッチに向かって突撃した。


「これで終わりだ!」


 イリオスの一撃がアークリッチの闇のバリアを貫き、深々と斬り込んだ。アークリッチは苦しげに叫び、再生しようとするが、光の力がその再生を封じている。


「ゼラン、ノエル、奴の隙を突け!俺が前線を張る!」


 イリオスが再び叫び、俺たちはその指示に従った。イリオスがアークリッチの闇の力を受け止め、俺たちに攻撃の機会を作ってくれている。


「ノエル、今だ!」


 俺はノエルに声をかけ、彼女は影の魔法を使ってアークリッチの足元を束縛した。その瞬間、イリオスが再び大剣を振り下ろし、アークリッチの頭部に強烈な一撃を叩き込んだ。闇の力が崩れ、アークリッチはぐらりと揺れる。


「リリス、光の魔法をもっと強めろ!」


 イリオスの指示に従い、リリスは最後の力を振り絞って光の結界を強固にする、光の壁がさらに輝きを増し、アークリッチを包囲する。闇の再生力が完全に封じられ、アークリッチは次第に力を失っていった。


「これで終わりにする!」


 イリオスは再び大剣を構え、アークリッチの胸に向かって強烈な斬撃を放った。その瞬間、剣を使って俺も全力でアークリッチの脇腹に斬り込む。


「ぐあああああ!」


 アークリッチの体が炎に包まれ、焼き尽くされていく。イリオスの強烈な一撃がトドメとなり、アークリッチは完全に崩れ落ちた。


 アークリッチが完全に消滅し、闇の力が跡形もなく消え去った。戦場に静寂が訪れ、俺たちは無事に勝利を収めたことを実感した。


「イリオスさん、あんたは本当に強いな…」


 俺は息を整えながら、イリオスの方を見た。彼は大剣を収め、静かに頷いた。


「これはみんなの連携のおかげだ。俺一人では勝てなかった」


 彼は謙虚に答えたが、その実力と判断力、そして指揮能力は圧倒的だった。イリオスがいなければ、この戦いでの勝利はなかっただろう。


「それでも…あなたの力がなければ俺たちはここまで来られなかった」


 リリスが少し笑いながら言った。イリオスは笑みを返し、周囲のエルフたちに目を向けた。


「これでリッチエンペラーの復活は阻止できたが、まだやるべきことがある。我々はこの脅威を完全に終わらせなければならない」


 カルト教団の幹部たちを全滅させ、戦場には静寂が戻った。俺たちは敵の本拠地を制圧し、ようやく勝利を手にしたかに見えたが、リリスの表情はまだ緊張していた。


「終わったか…?」

 俺は剣を地面に突き刺し、息を整えながらリリスに問いかけたが、彼女は魔力を探るように静かに目を閉じた。


「まだよ、ゼラン…。封印は完全に解かれたわけじゃないけれど、確実に弱まっているわ」


 リリスの声には不安が滲んでいた。俺もイリオスも、これまでの戦いの成果を確かめる間もなく、再び緊張感が広がった。


「どうする? 何か手段があるのか?」

 俺が焦って尋ねると、ノエルも険しい顔をしてリリスの方を見つめていた。


「封印の状態はわかる?」

 ノエルが問いかけ、リリスは手をかざして周囲の魔力を感じ取った。


「封印はまだ持ちこたえているけれど…あと5年もすれば、リッチエンペラーの封印は完全に解ける可能性があるわ」


「5年…そんなに余裕があるのか?」

 俺は少し安堵しながらリリスを見たが、彼女は険しい表情を崩さなかった。


「余裕なんてないわ。5年で封印が完全に解けるということは、それまでに何か対策を打たなければならないということよ。あの賢者の封印を再強化できる力を持つ者がいない限り…」


「他に封印を強化できる手立てはないのか?」

 ノエルも真剣な表情で尋ねたが、リリスは力なく首を振った。


「私たちの力じゃ、賢者の封印を修復することはできない。封印が崩れるのを5年間待つしかない。でも、その間に別の手段を見つけなければ、リッチエンペラーが完全に復活してしまう…」


 イリオスが重々しい声で呟いた。

「5年あれば準備を整える時間はあるが、それ以上に封印が弱まっていく過程で、カルト教団の残党や他の敵が再び動き出すかもしれない。これからの時間が鍵になるだろう」


 封印の持続時間と無力感


「それにしても、5年も持つなら少しは猶予があるのでは?」

 俺が尋ねると、リリスはすぐに首を振った。


「猶予があるように思えるかもしれないけれど、その間に封印が崩れる影響で、リッチエンペラーの力が少しずつ漏れ出してくる可能性があるの。それに、私たちが封印を再び強化する術を持たない以上、あとは見守るしかできないのよ」


「つまり、対策が必要だけど、それを今持っているわけじゃないってことか」

 ノエルが苛立ちを抑えたように言った。彼女の顔には、次にどう動けばいいのかを悩む表情が浮かんでいる。


「そうよ。このままでは、リッチエンペラーの復活は避けられない。5年間の間に、その封印を修復できる術や力を持つ者を探さないと…」


 イリオスが一歩前に出て、鋭い目つきで俺たちに言葉を投げかけた。

「確かに、我々には5年という時間がある。しかし、封印が崩れている限り、我々がどう動くかでその後の運命が決まる。ここで手をこまねいていては、無駄にその時間を浪費することになる」


 イリオスの言葉に、俺たちは全員が再び気を引き締めた。5年という時間は長いようで短い。それまでに何をすべきかが明確にならなければ、リッチエンペラーの復活を止めることはできない。


「まずは、何ができるかを考えよう」

 俺は決意を込めて言った。


「今の段階で封印を強化する手段がないにしても、情報を集めたり、賢者に代わる力を持つ者を探したりすることはできる。それが、俺たちに今できる最大の準備だろう」


 ノエルが頷き、力強く続けた。


「そうね。このまま見守るだけじゃなく、行動を起こす必要がある。カルト教団の残党やリッチエンペラーの力が再び広がる前に、私たちが先手を打つのよ」


 リリスも同意しながら言葉を続けた。


「そうね。私たちがやれることを一つずつやっていくしかないわ。5年間の猶予があるうちに、封印を完全に修復する手段を見つけ出す」


 イリオスは静かに頷き、俺たちに目を向けた。


「その通りだ。この戦いはまだ終わっていない。リッチエンペラーの復活を阻止するために、これから何ができるか、冷静に考え行動に移すんだ」


 その場は増援で来たエルフ達に任せ、ギルドマスターと俺達はギルドに戻ることにした。

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