第24話

族長との話も終わり、夜のエリュシアの街中へ戻ってくると、リリスがふと立ち止まり、俺とノエルに微笑みながら言った。


「せっかくの建国祭だから、ゆっくりと楽しんでいきましょう。ゼラン、ノエル、街の雰囲気を感じてみない?」


 ノエルも軽く頷きながらリリスに賛同した。


「そうね、せっかく帰ってきたんだし、この雰囲気を楽しまないと損よ。ゼランもエルフの祭りって初めてでしょ?」


 俺は軽く笑って返事をした。


「ああ、まったく初めてだよ。こういう雰囲気は地球にはなかったから、すごく新鮮だ。」


 祭りの喧騒が漂うエリュシアの街は、建物や通りが彩り豊かに装飾されていて、異国情緒が満ちている。


道端の露店にはエルフの工芸品や、特別な日にしか出されない食べ物が並び、人々が楽しそうに買い物や会話をしているのが見える。


「ほら、こっちの通りには色々なお店が並んでるわよ!」


 リリスが俺の腕を引き、賑やかな通りへと案内してくれた。


通りには色鮮やかな布で装飾された露店が並び、花飾りやガラス細工、魔法で作られた光の小物などが美しく並べられている。


 リリスが手に取ったのは、エルフ特有の細かな彫刻が施されたペンダントだった。


「これなんてどう?エルフの職人が一つひとつ手作りしてるのよ。身につけてると自然の加護があると言われているの」


「うん、見ているだけで引き込まれるデザインだな。」


 俺がそう言うと、ノエルも興味深そうに小物を眺めていた。


「ゼラン、こういう工芸品って地球にもあったの?」


「いや、これほど繊細なものはあまりなかったかもな。」


 会話を交わしながら露店を見て回っていると、リリスが「見て、あれ!」と指さした先には、広場の一角に設けられた屋台が見えた。


 そこでは「エルンパン」という祭りの特別なお菓子が販売されている。


パリッとした薄い生地の中に、甘いハーブペーストが包まれていて、ほんのりとした甘さがクセになる味だという。


 リリスが俺に勧めるようにひとつ手渡してくれた。


「これ、祭りの日にしか食べられない特別なものだから、ぜひ味わってみて」


 俺はひと口かじってみた。


「うん、なんだかほろ苦さがアクセントになっていて、甘すぎないから食べやすいな。」


 ノエルもエルンパンを一口食べながら微笑んでいた。


「こういうの、久しぶりね、エリュシアでしか味わえない特別な味……」


 食べ物を楽しんでいると、今度は「ルミア・ベリー」を使ったジュースの露店が目に入った。


エルフの森で育てられたルミア・ベリーは、青い光を帯びていて、特別な日にしか収穫されない。ジュースにすると爽やかな甘みが口の中に広がり、疲れた体を癒してくれるとされている。


 リリスがジュースを手に取り、俺とノエルに差し出した。


「これは精霊の加護を受けた特別な果実で作られたジュースよ。飲むと気持ちが落ち着くから、二人とも試してみて」


 俺はその青い輝きを見つめながら、ひと口飲んだ。


「……うん、確かに爽やかな甘みがある。なんだか心が安らぐ感じだな。」


 ノエルも一口飲んで、静かに頷いていた。


「精霊の力が宿っているからかしら。こういう味わい、他では味わえないわね。」


 リリスとノエルとの軽やかな会話が続き、エリュシアの建国祭を存分に楽しんでいた。


祭りの雰囲気に包まれ、次第に夜が訪れると、街の明かりが幻想的な輝きを放ち始めた。


通りのランタンが温かい光を放ち、木々の葉に反射して、まるで光の絨毯が広がっているかのようだった。


 やがて、広場の中心部で建国祭のクライマックスである「祝福の儀式」が始まるとの案内が聞こえ、人々は次々と集まっていった。


俺たちもその流れに従い、広場の中心へ向かった。そこには巨大な大樹が立っていて、その周囲には祭壇が設けられ、長老たちが儀式の準備をしていた。


 リリスが小声で説明してくれた。


「この大樹は『エルドリエ』と呼ばれていて、エルフの始まりとされる場所なの。エルフたちはこの木の下で精霊に祈りを捧げ、自然と共存する誓いを新たにするのよ」


 長老たちが一列に並び、ゆっくりと祝詞を唱え始めた。彼らの声に合わせて、精霊の小さな光が空へと舞い上がり、星空のように夜空を飾っていく。その光景は言葉では言い表せないほど神秘的で、思わず息を呑む美しさだった。


「……本当に綺麗だな」


俺は思わず口にしていた。


「そうでしょう?この光景を見るたびに、エルフとしての誇りと自然への感謝の気持ちが湧いてくるの」


 リリスが微笑んで答えた。その表情はどこか神々しく、彼女がエルフとしての誇りを持っていることが伝わってきた。


 儀式が続く中、今度はノエルが静かに目を閉じて祈りを捧げていた。その姿には、彼女の内なる強さと、故郷への愛が感じられた。


「ゼラン、こうしてエルフの祭りに参加できるのも、あなたがいたからよ」


ノエルが目を開けて小さく微笑んだ。


 俺はその言葉に少し照れくさくなりながらも、二人と共に祭りの一員としてここにいられることを心から嬉しく思った。


 やがて、儀式はクライマックスに達し、精霊たちの光が大樹を包むように舞い降り、静かに消えていった。人々が手を合わせ、祈りが終わると同時に広場から拍手が湧き上がり、夜空に大きな花火が打ち上げられた。


「見て、ゼラン!花火よ!」


リリスが嬉しそうに指差す。


 その花火はただの火薬ではなく、精霊の力を使って作られたもので、打ち上がるたびに花や動物の形を描き、夜空に一瞬の美しさを浮かび上がらせては消えていく。


花火の光がリリスとノエルの顔を照らし、その瞬間が永遠に残るかのような感覚を覚えた。


「エルフの建国祭……本当に素晴らしいものだな。今日の夜はずっと忘れられないだろう」と俺は心からそう思った。


 リリスとノエルも微笑んで頷き、俺たちは夜遅くまで祭りの余韻に浸った。

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