第23話
エリュシアが近づくにつれ、遠くの木々の間から美しい都市の姿が現れた。
エリュシアは、まるで自然と一体化しているかのように見える。
巨大な木々が街の建物を包み込むようにそびえ立ち、その中に白い塔や装飾の施された石造りの建物が、まるで森に溶け込むように配置されている。
街全体が深緑の森と調和して、壮大で神秘的な雰囲気を醸し出していた。
「エリュシアが見えてきたね…すごい光景だ。」
俺はその美しさに思わず息をのんだ。
「ふふ、これがエルフの故郷よ。」
リリスが微笑み、少し誇らしげに言う。ノエルも嬉しそうにその光景を見つめている。
さらに進んでいくと、エリュシアの城門が目の前に現れた。その門は木と石で作られ、細かな彫刻が施されている。自然を象徴するような枝葉の彫刻や、守護者としての獣の姿が彫られ、エルフの精巧な技術が感じられる。
「いよいよエリュシアに入るわよ。」
門を通り抜けると、さらに異世界のような景色が広がった。
通りには、エルフたちが行き交い、様々な店が並んでいる。細い路地にも小さな庭があり、花々が咲き乱れている。街の人々は祭りの装飾の準備をしエリュシア全体を彩っていた。
エリュシアの街の奥深くまで進むと、広大な広場が姿を現した。
そこには、巨大な樹木を中心にした円形の祭壇が設置されていて、まるで都市全体がその木を囲むように配置されているかのようだ。
その木は、エリュシアの象徴であり、古代からエルフたちに守られてきた「神木」と呼ばれる存在だという。緑に覆われた枝葉が風に揺れ、神聖なオーラを放っているように見えた。
「この神木は、エルフの繁栄と長寿を象徴しているの。私たちにとっては祖先から受け継がれてきた大切な存在で、エリュシアの中心に位置しているのもそのためよ。」
リリスが小声で説明してくれた。その声には、神木への深い敬意と愛着が感じられた。
広場ではエルフたちが忙しく動き回り、神木の周囲を彩る飾り付けや、祭壇に並べる供物の準備が進められていた。
鮮やかな色合いの花が神木の根元に並べられ、香り豊かな草木の束が祭壇に捧げられている。
若いエルフの子供たちも親の手伝いをしていて、彼らが楽しそうに飾りを持ち運ぶ姿は微笑ましかった。
「建国祭が近づくと、エルフたちは皆、心を一つにして準備を進めるのよ。普段は離れて暮らしている者たちも、こうした祭りの時には集まって、互いに助け合うの。」
ノエルが静かに語った。彼女もまた、この祭りに対する深い思い入れがあるのだろう。
リリスとノエルがこの地に育ち、またこうして共に祭りに参加するのは、二人にとっても特別な意味があるに違いない。
「神木の存在がエルフの長寿と力を象徴している…だからこそ、こうした伝統が受け継がれてきたんだな。」
俺は二人の話を聞きながら、エルフの文化や価値観に対する理解を深めていった。
やがて、リリスがふと俺に顔を向け、少し笑顔を浮かべた。
「ゼランもきっと驚くと思うけど、建国祭では夜になると、神木がまるで生きているかのように光り輝くのよ。遠く離れた場所からでも、その光は見えるわ。」
「そんな光景が見られるのか?それは楽しみだな。」
俺もその話に心を躍らせた。
「夜になると、エルフたちの詠唱によって神木が輝くんだ。詠唱は古代から受け継がれてきたもので、エルフ全員が参加するんだよ。」
ノエルも続けて説明してくれた。その光景を想像するだけで、まるで別世界に来たような気持ちになった。
リリスとノエルが故郷に戻り、家族や旧友たちと再会する様子を見守りつつ、俺はエリュシアの異世界的な魅力に引き込まれていく。
エルフたちの歴史や文化が、この都市全体に根付いているのだと感じた。
そして、二人が幼い頃から大切にしてきた場所を目にしながら、俺もまたこの世界の一部になっていくのかもしれない、そんな思いが心に広がっていた。
翌朝、リリスとノエルの案内で、俺たちは「族長の会議殿」に向かうこととなった。そこはエリュシアの中心部に位置し、エルフ族長たちが集まり重要な会議や儀式を行う場所だ。
会議室に足を踏み入れると、リリスとノエルの父親である族長たちが待っていた。
彼らは風格を漂わせ、落ち着いた佇まいで迎え入れてくれた。
二人の父親は、娘たちが無事に帰ってきたことを心から喜んでいる様子だった。
リリスの父が一歩前に出て、俺に深く頭を下げた。
「娘を助けてくれたこと、心から感謝する。君の勇気と尽力がなければ、彼女がこうして無事に帰ることも叶わなかっただろう」
俺は少し照れくさそうに頷き、言葉を返した。
「彼女を助けるのは当然のことです。俺も彼女たちから多くを学び、助けてもらっていますから」
ノエルの父もまた、俺に向かって深く頭を下げ、礼を述べた。
「君の勇敢さに救われた命があること、我々エルフは決して忘れない。何か望むものがあれば、我々に言ってくれ。可能な限りの支援を惜しまない」
その申し出に一瞬心が揺れたが、今は特に求めるものはなかったため、丁寧に断ることにした。
「ありがとうございます。でも、今のところ特に欲しいものはありません。もし将来助けが必要なときがあれば、頼らせてもらいます」
リリスとノエルの父はそれに納得したように微笑み、「いつでも我々を頼ってくれ」と約束してくれた。
その後、族長たちとしばし歓談し、和やかな時間が流れた。
リリスやノエルの家族との温かい交流を通じて、エルフの絆と信頼の深さを感じるひとときだった。そして、俺もこの地に助け合える仲間が増えたことを、改めて実感することとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます