第22話

ギルド本部でギルドマスターに報告を終えた俺たちは、次の目的地であるエリュシアを目指すことに決めた。


 エリュシアはリリスの故郷で、建国祭の準備も進められているそうだ。道中ついでにいくつかの依頼を受けていくことになった。


「エリュシアへの道中、ちょうど森を通るし、周辺の魔物討伐依頼を受けていくのもいいわね」


 リリスがそう提案してくれた。


 リリスもノエルも、故郷に帰る途中での依頼ということで、どこか嬉しそうに見える。


 俺もその提案に同意し、依頼内容を確認することにした。周囲の森には狼の群れや迷い込んだ大型の魔物が出没しているらしく、討伐依頼は数件まとめて引き受けた。


 リリスが先導して道を進む中、俺たちは森の奥へと入っていった。しばらく進むと、遠くで物音が聞こえ、依頼の対象である魔物の気配がした。


「まずは森狼の群れね。ゼラン、どうする?」


 リリスが少し得意げに問いかける。その様子を見たノエルも、つい微笑んでいる。


「森狼くらいなら、簡単に片付けられるんじゃない?」


 ノエルが冗談めかして言うと、リリスが腕を組みながら頷いた。


「確かに。ゼランの力を見てきたから、この程度なら楽勝でしょうね」


 リリスとノエルのやり取りがどこか心地よくて、俺も自然と笑みが浮かんだ。


「じゃあ、俺が前に立つから、リリスとノエルは援護を頼む」


「了解。私たちも役に立つわよ」


 リリスは杖を構え、ノエルも短剣を抜いて戦闘態勢に入った。リリスが魔法で森狼たちを足止めし、その隙に俺とノエルが素早く攻撃を仕掛けた。連携がうまくいき、俺たちは次々と狼を倒していく。


「さすがに息がぴったり合うわね」


 リリスが笑顔で言った。その顔には、これまでの経験からの信頼がにじみ出ている。戦闘を終えた俺たちは一息つき、残る依頼のために再び歩き出した。


 少し歩きながら、ノエルがふとリリスに尋ねた。


「リリス、エリュシアに帰るのってどれくらいぶり?」


 リリスは一瞬考え込み、少し遠くを見つめながら答えた。


「もう数年ぶりね。私もノエルも、エリュシアを出ていろんな冒険をしてきたし…でもやっぱり、帰るときは少し緊張するものよ」


 その言葉に、ノエルも小さく頷いていた。幼馴染として長年の関係を築いてきた二人だが、それぞれの道を進みながらもこうしてまた共に冒険していることが、どこか不思議な縁に感じた。


 しばらく歩き続けると、今度は森の奥から巨大な熊の魔物が現れた。依頼にあった「フォレストベア」という、森に棲む巨大な熊だ。


「よし、最後の相手だな」


 俺は二人に目配せをし、再び戦闘態勢を整えた。リリスが魔法で熊の動きを鈍らせ、その隙にノエルが鋭い一撃を放つ。俺も続いて斬撃を繰り出し、リリスとノエルの援護で効率よくダメージを与えた。


「二人とも、さすがの腕前だな」


 俺がそう言うと、リリスとノエルは少し照れくさそうに顔を見合わせ、微笑み合った。


「ゼラン、これからもこうやって、私たちと一緒に冒険しない?」


 リリスが少しだけ照れながら問いかけた。その言葉には、仲間としての信頼と絆が込められていた。


「もちろんだ。リリス、ノエル、これからもよろしく頼む」


 こうして、エリュシアへの道中でいくつかの依頼を片付ける中で、俺たちの絆はさらに深まった。


 そして、エルフの都市が待つ目的地エリュシアへと向かうため、再び旅路を進めていくのだった。


 討伐を終え、日が沈みかけるころ、俺たちは進むのをやめて野営の準備を整えることにした。


 夕暮れの森は静寂に包まれ、遠くの鳥の鳴き声だけがかすかに響いていた。リリスが周囲の安全を確認し、ノエルが焚き火の準備を手早く終えると、すぐに暖かな火の光が辺りを照らし始めた。


「そろそろ夕飯の準備をしようか」


 俺がそう言うと、リリスとノエルも賛同してくれ、手早くキャンプの準備を始めた。


 ノエルは手慣れた動きで焚き火の準備を整え、リリスは周囲に目を配りながら警戒している。


 仲間との信頼関係を感じつつ、俺も野営の準備に加わり、食事の支度を始めることにした。


 焚き火が燃え上がり、冷たい夜風も少しだけ心地よく感じられる頃、俺はふと地球でよく食べていた料理を思い出した。


「今日は、地球でよく作っていたオムライスを作ってみようと思う。異世界の食材だけど、なんとかなるだろう」


「オムライス?それってどんな料理なの?」と、ノエルが興味津々で尋ねた。


「卵でご飯を包んだ料理だ。地球では、シンプルで家庭的な料理なんだが、温かくてどこか懐かしい味がする」


 リリスとノエルは興味を示し、俺が料理を作るのをじっと見守っている。


 俺は手元にある食材から異世界の鶏肉マグホ鳥の胸肉を取り出し、小さく切って炒め始めた。


 異世界で手に入る調味料で味を整え、少し甘みのあるシュルルの実も加えて、香ばしくご飯を炒めていく。


「良い香りね…見ているだけでお腹が空いてきたわ」と、リリスがほほえむ。


 次に、フライパンで薄く卵を焼き、ご飯を包むようにそっと乗せる。火を通しすぎないように気をつけながら、ふんわりとした卵がご飯を覆い、ふっくらとしたオムライスが完成した。


「どうぞ。これが地球の料理、オムライスだよ」


 リリスとノエルは興味津々で一口を口に運び、その瞬間、驚きと喜びの表情が広がった。


「卵がふわふわで、ご飯と一緒に食べるととても優しい味ね!」とリリスが感激したように言う。


「この甘みのある香ばしさ、地球ではこんな料理をよく食べていたの?」


 ノエルが不思議そうに尋ねる。


 俺は笑って頷いた。


「ああ、家庭料理として定番なんだ。地球では食卓に頻繁に登場する料理で、家族と一緒に食べる機会が多かった。懐かしい思い出の味でもある」


 焚き火のそばでオムライスを楽しみながら、俺たちはリラックスした空気の中で自然と会話が弾んでいった。


 俺はリリスとノエルに地球の文化や食事について少しずつ話していく。地球ではどんな風景が広がっていたのか、どんな人々がいて、どんな文化があるのか。異世界の常識とは違う地球の話に、二人は驚きながらも興味深そうに聞いてくれる。


「ゼラン、地球の話って、本当に不思議ね。私たちには想像もつかない世界だわ」と、リリスがしみじみとつぶやく。


「確かに、地球の文化は興味深いわね。でも、ゼランがこの異世界で生き抜いているのがもっとすごいと思うわ」とノエルも感心したように微笑む。


 夜が更ける中、地球の料理を楽しみながら、俺たちは徐々に互いへの理解を深めていった。


 焚き火の炎がゆらめく中、俺たちはその温もりに身を預けながら、夜の静けさに浸っていた。食事も済んでリラックスしていると、リリスがふと遠くの夜空を見上げた。


「この星空の下で、ずっと強くなりたいと願ってきたのを思い出すわ。」


 リリスの小さな声に俺とノエルが振り向くと、彼女はどこか懐かしそうな目をしていた。ノエルも、何かを思い出したようにそっと微笑む。


「私たち、幼い頃からこうやって一緒に修行してきたものね。エルフの族長の娘という立場にいると、いつも何かを求められている気がして」


 ノエルは少し寂しげに語り始めた。


「期待が多い分、失敗も許されない感じがするの。私がまだ小さかった頃、戦士として認められるためにずっと訓練してきた。……でも、それでもいつもリリスには追いつけなくてね。」


「ノエル……」


 リリスがノエルに優しく微笑みかける。二人の間には、言葉にしなくても通じ合える深い絆があるのが感じられた。


「でも、私はそんなノエルを見てたから、もっと頑張らなくちゃって思えたのよ。お互いに成長し合える仲間がいるって、すごく幸せなことだと思う。」


 リリスの言葉にノエルも頷きながら、少しだけ照れたように目を逸らした。


「……けど、リリスがいつも先を行くから、私も悔しくて必死に努力したわ。でも、それも悪くはなかったかもね。」


 ノエルがリリスをじっと見つめ、彼女も微笑み返した。


 俺は二人の会話を聞きながら、彼女たちの間にある深い絆を感じた。俺にとってのエルフやダークエルフは、まだよく知らない存在だが、こうやって互いに励まし合いながら成長してきた二人を見ていると、異なる種族であっても同じように仲間として信じ合えるのだと感じられた。


「俺は、そういうふうに一緒に成長する仲間がいたことはないから…正直、羨ましいな。」


 俺がそう言うと、リリスが優しく笑って答えた。


「ゼランは、今こうして私たちと一緒にいるわ。それに、あなたは自分の力を信じて突き進んでいる。だからこそ、私たちは安心してあなたと共にいられるのよ。」


 ノエルも頷き、少しだけ照れながら言葉を重ねた。


「そうね。ゼランと一緒にいると、私も負けないように頑張ろうって思えるわ。」


 夜空には星が輝き、森には風が静かにそよいでいた。焚き火の炎が暖かく揺らめく中で、俺たちは互いの過去や気持ちを共有し、いつも以上に心の距離が近づいた気がした。


 そして、この旅の先に何が待っているのかを少しだけ期待しながら、俺たちは過ごした。

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