第4話 初めてのクエスト受注は3人パーティーで。

スキルとアーツを調べてもらった私は一階のカウンターに行き、冒険者登録を続けた。さっき、私の冒険者登録を担当してくれたギルド職員が対応してくれている。


「こちらが冒険者登録用紙の控えになります。この用紙は仮の冒険者証の役割を果たすので、最低ランクの『黄ランク見習い』の依頼を受けることができます。正規の冒険者証は翌日以降に配布するので、お手数ですが再度冒険者ギルドカウンターにお越しください」


「わかりました」


私はそう言いながら、ギルド職員から渡された紙を見る。


【冒険者登録用紙】【控え】

冒険者ギルド サウザーラ支部 NO 92651

グレイシス王国歴 981年 黄の月13日 登録

登録受付職員 グレタ・ミリアルテ 


登録者氏名 アリス

登録者年齢 12歳

登録者性別 女


冒険者ギルド専属 専属

拠点登録 

資料室永続利用 『可』

スキルとアーツ スキル:見習い信徒/見習い信徒アーツ:回復魔法レベル1 スキル:見習いメイド/見習いメイドアーツ:家事 レベル1

鑑定人署名 ロバート・ガウツ グレイシス王国歴 981年 黄の月13日


備考


「冒険者登録用紙の控えを紛失した場合、冒険者登録は再度やり直しになります。また、本日から10日以内に冒険者登録を終えなければ、お預かりした冒険者登録用紙の原本は破棄されますのでご注意ください」


「わかりました」


私はギルド職員の言葉に肯く。

今日から10日以内に、今貰った冒険者登録用紙の控えを持って、また冒険者ギルドに来ればいいんだよね。

私は冒険者登録用紙の控えを丁寧に四つに折りたたんで鞄に入れた。落とさないように気をつけよう。


カウンターを離れて、アレフとロッドの姿を探す。冒険者ギルドに来た直後はたくさんの冒険者で溢れかえっていたけれど、今は冒険者の姿はまばらだ。


アレフとロッドはクエストの紙が貼られたギルド奥にいた。私は早足で二人に近づき、声を掛ける。


「アレフ、ロッド。待たせてごめんね」


「アリス、おつかれ。今、俺たち、パーティー組んでクエスト受けようかって話してたんだよ。ほら、この黄ランク見習いの常時クエスト『冒険者ギルド周辺の草取り』ってやつ」


私はロッドが指さしたクエストに視線を向けた。


黄ランク見習い 常時クエスト

クエスト名 冒険者ギルド周辺の草取り

依頼者 冒険者ギルド サウザーラ支部


依頼内容

冒険者ギルド周辺の草取りをしてください。


期限 無期限

報酬 出来高払い(銅貨1枚~30枚程度)

クエストキャンセル可・ペナルティ無し

クエスト受注 個人可/パーティー可(パーティー人数5人まで)


「安全にできそうなクエストだけど、報酬がすごく少ないんだね。3人でパーティーを組んだら、1人あたりの取り分がもっと減っちゃうね」


黄ランク見習いの常時クエスト『冒険者ギルド周辺の草取り』のクエスト内容を読み終えた私は、報酬の少なさにがっかりしながら呟く。


「俺も最初はそう思ってたんだけどさ、実は雑草の中に、他のクエストの納品とか薬師ギルドに売れる薬草とか、商人ギルドや食堂、雑貨屋とかに売れるハーブが混ざってたりするんだぜ」


報酬の少なさにがっかりしている私に、アレフがそう教えてくれた。


「そうなんだ。じゃあ、報酬が少なくてもやる気が出るね」


「だなっ。アレフはいろんなことを知ってて、頼りになるぜ。さすが先輩冒険者」


「この情報は、ギルド職員のレネさんに教えてもらったんだ。ほら、カウンターの真ん中にいる、金髪を一つに束ねて青いリボンをつけている美人、いるだろ? あの人がレネさんだ」


「冒険者の男の人がずらーっと並んでたカウンターの人だね」


美人なギルド職員だから並んでいるのかと思ったけど、親切に対応してくれるから人気があるのかもしれない。


「最初に『冒険者ギルド周辺の草取り』のクエストを受けた時は、全部雑草だと思って、ギルドから借りた麻袋に雑に詰め込んで納品したんだ。その時に対応してくれたレネさんにいろいろ教えてもらったんだ。納品する前に教えてくれよと思った」


アレフがため息交じりに愚痴る。愚痴る気持ちはわかる。もしかして、初回クエスト受注のときは、わざと教えないで、後で悔しい思いをさせる方針なのかな。そうだったら厳しい。

そういえば、教会や孤児院の周りの草取りをしている時も、薬草とかハーブを雑草として捨てちゃってたりしたのかな。そう考えるともったいなくて悔しい。


「今回は、俺がパーティーリーダーとしてクエストを受注してくる。アリスとロッドは冒険者登録用紙の控え、出して」


「わかった」


「俺は手に持ってるから大丈夫」


ロッドは手に持っていた自分の冒険者登録用紙の控えをひらひらと動かして言う。私は鞄にしまっていた自分の冒険者登録用紙の控えを取り出した。


「あっ。アリス、紙、ちょっと見せて。アリスのスキルとアーツが知りたい」


「いいよ」


別に、知られて困るスキルもアーツもなかったし。

私はロッドに自分の冒険者登録用紙の控えを渡した。ロッドは興味深げに肯きながら読み、それから私に返した。

たぶん、こんな風に気軽に、スキルやアーツの内容を見たり見られたりするのってよくないことだと思うんだけど、私もロッドもアレフも同じ孤児院で育ったし、仲良くしてるからいいかなって思ってしまう。


レネさんにクエスト受注の手続きをしてもらって、パーティーリーダーのアレフが麻袋3枚を受け取る。


「クエストを成功させるには準備も大切よ。頑張ってね」


レネさんは私たちにそう言って微笑んだ。待ってでもレネさんに対応してもらいたいと思う人の気持ちがよくわかる。笑顔を向けて貰えるのって嬉しい。

私の冒険者登録を担当してくれた女の人、基本的に無表情だから、並ぶ冒険者があんまりいなかったのかもしれない……。


***


登場人物紹介(四話の時点)


・グレタ・ミリアルテ:冒険者ギルドサウザーラ支部のギルド長代理で、女性のギルド職員としては最年長。グレイシス王城で法衣貴族として勤めるミリアルテ男爵の妹。18歳の時に婚約破棄され、兄の友人で、冒険者になっていた現在の冒険者ギルドサウザーラ支部のギルド長の口利きで冒険者登録をして、非戦闘系のクエストだけをこなし、紫ランクまで上り詰めたのちにギルド職員を兼任し、現在の地位に至る。

不愛想だが、真面目で有能である。現在独身で、ギルド職員寮で暮らしている。


・レネ・クロース:サウザーラ領都にあるクロース薬品店の一人娘。自衛しながら単独で薬草等の薬の材料を採取したくて冒険者になった。現在はギルド職員を兼任しながらクロース家に婿入りしてくれる冒険者を品定め中。

メイスと短剣を使い分けて戦う。現在青ランク。

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