第3話 自分のスキルとアーツを確認しよう。

二階に向かう途中の階段の踊り場で、階段を下りて来たロッドと行き会う。


「アリスも自分ののスキルとアーツ、確認しに行くのか?」


ロッドに尋ねられて私は肯いた。


「ロッドはスキルとアーツ、あった?」


自分にスキルとアーツがあるのか不安な私が尋ねると、ロッドは満面の笑みを浮かべて肯き、自分の冒険者登録用紙を差し出す。


「俺のスキルは『斧士』でアーツは『薪割り』と『強打』だったよ」


屈託なく言うロッドに、私は眉をひそめた。


「スキルとアーツのことを教えてくれるのは嬉しいけど、冒険者登録用紙って気軽に誰かに見せたらいけないんじゃないの?」


「別にたいしたことを書いたわけじゃないし、アリスは孤児院で一緒に暮らす仲間で友達なんだから別に構わないだろ。なあ、アリスの冒険者登録用紙も見せてくれよ」


「いいけど……」


私はまだスキルとアーツを調べてないから、本当にたいしたことを書いてないし。

そう思いながら、私とロッドはお互いの冒険者登録用紙を交換する。

私の冒険者用紙の内容はこんな感じ。


【冒険者登録用紙】


登録者氏名 アリス

登録者年齢 12歳

登録者性別 女


冒険者ギルド専属 専属

拠点登録 

資料室永続利用 『可』

スキルとアーツ


備考


手渡されたロッドの冒険者用紙の内容を見ると……。


【冒険者登録用紙】


登録者氏名 ロッド

登録者年齢 12歳

登録者性別 男


冒険者ギルド専属 専属

拠点登録 冒険者ギルドサウザーラ支部

資料室永続利用 しない

スキルとアーツ スキル:見習い斧士/斧士アーツ:薪割りレベル1・強打レベル1

鑑定人署名 ロバート・ガウツ グレイシス王国歴 981年 黄の月13日 


備考


「アリスは拠点登録しないんだな」


ロッドが私の冒険者登録用紙を見ながら言う。


「私はいずれ、この街を出たいなって思ってるからちょっと迷ってて。15歳までは孤児院に住むから、冒険者ギルドサウザーラ支部に拠点登録するのもいいかなって思うんだけど。まずはアレフがどうしてるのか話を聞いてから決めるよ」


「アリスは慎重だよなー。資料室も使えるようにしてあるし」


「ロッドはお金を持ってきてなかったから、資料室の永続利用の申し込みは今日はできないよね」


「金持っててもしない。本とか読むの嫌いだし。何か知りたいことがあったらアリスかアレフに頼む」


「ロッドはずるい。お金払わないで、面倒なことだけやらせようとするのはよくないよ」


「まだ面倒事を頼んだわけじゃないのに、怒るなよ」


ロッドは私の冒険者登録用紙を差し出しながら軽口を叩く。ロッドって、要領よく立ち回るところがあるのが羨ましくて腹立たしい。

私は自分の冒険者登録用紙を受け取って、ロッドの冒険者登録用紙を彼に差し出す。

ロッドは自分の冒険者登録用紙を受け取ると、にっと笑った。


「アリスもよさそうなスキルとかアーツがあるといいなっ」


そう言って、ロッドは小走りで階段を駆け下りていく。私はロッドの背中をちらりと見た後、一段ずつ階段を上って行った。


鑑定室の扉は開いていた。鑑定室前の椅子には誰も座っていない。

扉、開いているから入っていいかな? 私はそーっと部屋の中を覗き込む。

部屋の中には長机が一つとそれを挟んで椅子が二脚。教会にある懺悔室のように飾り気のない部屋だ。机の上には紙の束とインク壺、それからガラスペンがあった。


鑑定室では焦げ茶色の髪の、私とさほど変わらない年齢のように見える少年が分厚い本を読んでいる。あの子が鑑定をしてくれる人なのだろうか。


いつまでも躊躇っていても仕方がない。


「すみません。入ってもいいですか?」


私がそう言うと、少年は分厚い本から目を上げて口元を緩めた。


「どうぞ」


「失礼します」


私は鑑定室に入り、少年の向かい側の椅子に座った。


「物品鑑定ですか? 人物鑑定ですか?」


少年は読んでいた本を閉じて脇に押しやりながら私に尋ねる。


「あの、私、冒険者登録をしに来て、スキルとアーツを調べてもらうようにって言われて来たんですけど……」


「スキルとアーツを調べるなら人物鑑定ですね。調べたスキルとアーツを冒険者ギルドと共有するなら鑑定料は無料です。そうでないなら鑑定料は銀貨2枚かかります。どうしますか?」


尋ねられても、選択肢は一つだけだ。


「無料で調べてください。お願いします」


私、今、銀貨2枚も持ってないからね……。

資料室永続利用で銀貨1枚を支払ったのも想定外だったし。銀貨1枚、念のために持ってきてはいたけど支払うなんて思わなかった。初回の冒険者登録は無料って聞いていたけど、お金払うか聞かれることが結構多くてげんなりする。


「わかりました。冒険者登録用紙は持ってきていますか?」


少年に尋ねられて私は肯き、手に持っていた自分の冒険者登録用紙を差し出した。少年は私の冒険者登録用紙を机の上に置き、私を見つめる。じっと見つめられるのは居心地が悪くて、私は身じろぎをした。


「人物鑑定、終了しました。今、内容をあなたの冒険者登録用紙に書き写しますので少しお待ちください」


「えっ? もう終わったんですか?」


あまりに早くて驚いた。痛くも無ければ熱くなったり、寒くなったりすることもなく、ただ少しだけじっと見られただけだ。これ、街で歩いていて人物鑑定をされても、鑑定された方はわからないよね……?


「終わりました。ここで鑑定した内容は、冒険者と冒険者ギルド職員の秘密保持契約の範囲内のことなので、冒険者ギルドの外に漏れることはありません」


少年はそう言った後、文章を書き終えてガラスペンを置いた。

そして、私の冒険者登録用紙を差し出して口を開く。


「冒険者登録用紙の内容を確認してください。アーツの使い方の説明は必要ですか?」


「お願いします」


「スキルとアーツは、覚えた瞬間に把握できるものと、覚えているのに把握できないものに分かれます。顕現系と潜伏系と言われます」


顕現系と潜伏系。……説明されてもよくわからない。

私が首を傾げていると、彼は少し考えた後に説明を続ける。


「あなたのスキルとアーツで言うと、顕現系はスキル『見習い信徒』とアーツ『初級回復魔法 レベル1』です。小さな傷を治す回復魔法は、今までも使っていたんじゃないですか?」


「回復魔法、使っていました。でも、回復魔法を使えるのは女神さまの加護があるからだと思っていました。司祭さまがそう言ってたし……」


「回復魔法習得の条件は、女神への信仰だという見解を持つ人が多いですね」


説明を聞いて、私の常識がひび割れる音がした。私は今まで、教会や孤児院関連の人たちとしか話をしていなかったんだということを、改めて思い知る。


「では潜伏系スキルとアーツの説明に映ります。あなたの場合はスキル『見習いメイド』でアーツ『家事 レベル1』です。『家事』アーツは『料理』『清掃』『洗濯』等家事労働全般をまんべんなくこなすと現れるもので、貴族や商家の使用人として働くための必須要素のひとつです。潜伏系スキルとアーツは、存在を知った時から使用可能になります。家事アーツの使い方ですが、回復魔法と同じように使ってください。家事労働時に使えば作業効率が上がります」


「そうなんですね」


孤児院に戻ったら家事アーツを使ってみよう。そう思いながら私は自分の冒険者登録用紙に目を落とす。


【冒険者登録用紙】


登録者氏名 アリス

登録者年齢 12歳

登録者性別 女


冒険者ギルド専属 専属

拠点登録 

資料室永続利用 『可』

スキルとアーツ スキル:見習い信徒/見習い信徒アーツ:回復魔法レベル1 スキル:見習いメイド/見習いメイドアーツ:家事 レベル1

鑑定人署名 ロバート・ガウツ グレイシス王国歴 981年 黄の月13日


備考


「内容を確認していただけしたか?」


「はい」


私は顔を上げて鑑定人の少年に肯く。


「何か聞きたいことはありますか?」


「無いです」


私がそう言うと、彼は微笑んで口を開く。


「それでは、これで人物鑑定を終了します。一階に戻って冒険者登録を行ってください」


「わかりました。ありがとうございました」


私は、少年に軽く頭を下げて鑑定室を出た。


***


登場人物紹介(三話の時点)


・ロバート・ガウツ:焦げ茶色の髪の少年。現在16歳で王都平民学校を卒業後、鑑定人として冒険者ギルドサウザーラ支部に雇われている。冒険者ランクは緑ランク。

スキル『鑑定士』とアーツ『物品鑑定』『人物鑑定』がある。


・冒険者ランクは季節の名前とリンクする。春の『黄』が初心者で、冬に至る『金』が最上級ランクになる。

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