第2話

 学校帰り。理菜にとって最大の、事件が迫っていた。





 理菜は街をぶらぶらして家に帰る為に暗い道を歩いていた。怖いという思いはあったけど、そこを通らなきゃいけないから仕方ない。

 そう思いながら歩いていると後ろから足音が聞こえて来た。

 理菜は他にもこの道を通っている人かなっと思った。でもその足音は理菜が止まると止まった。歩き出すと動く。






 …………。





 イヤな予感がした。誰かつけて来てるんじゃないかって思った。しかも数人の足音。






 ──逃げなきゃ……っ!






 そう思って走り出した。走った理菜の後ろをバタバタと走ってついてくる足音が響く。そして後ろから羽交い絞めにされ路地へと引き摺られた。






「……………っ!」




 一瞬、何が起こったのか分からなくなった。口を塞がれたのを感じる。それと同時に恐怖が襲い掛かり身体が震えてくる。



 目に見えたのは3人の男。大学生くらいの男が3人。不敵な笑みを浮かべている。





 ひとりが理菜を地面に押し倒してきた。

 ひとりが理菜の腕を押さえつけていた。

 ひとりが理菜の口を押さえていた。





(──怖い……ッ)




 声が出せない。抵抗することも許されない。

 腕に強い痛み。

 背中に鈍い痛み。





 ビリッ!!





 ひとりの男が理菜の真新しい制服のブラウスを破った。その音を聞いて理菜の身体はますます震えた。

 

 背中に男の手が這う。理菜のブラに手をかける。

 その手が理菜の身体を駆け巡る度にゾゾッと虫唾むしずが走る。

 それでも抵抗する為の腕は掴まれたままで、理菜は男達にされるがままになっていた。

 そしてスカートの中に男達の手が入って来た。








(気持ち悪い。離して……っ!)





「……ッ!」






 口を塞がれているから声は出せない。助けを求めることも出来ない。




 何度も何度も。

 男達が入れ代わりに、理菜の中に入ってくる。



 何度も何度も。

 押さえつけられた腕で出来ない抵抗をする。



 その度に男達に殴られる。

 そして更に男達の気持ち悪い手が身体中を触りまくる。








 声が出ない。

 怖くて声が出ない。






(──助けて!)







 声にならない叫び。こんな路地に、誰も来るワケない。





(誰か……!)

(誰か……ッ!)





     ◆◆◆◆◆






 ドカッ!




 殴るような音がした。

 目を開けると金色の髪をした男が、理菜を襲った男達を蹴り飛ばしていた。男達を蹴った男はその男達に馬乗りになり何度も殴っていた。血しぶきが飛び、男の顔には返り血。

 その男を見て理菜はもう何が何だか、分からない状態になる。





「…………っ!」






 起き上がろうとして頭に激痛が走る。殴られて額から血が出てるのに気付いた。

 目の前では、数人の男達が殴り合いのケンカをしてる。

 意識が朦朧としている中、理菜はケンカを見ながら意識を失った……。




     ◆◆◆◆◆





「…………」

 気がついたらベットの上。しかも、見覚えのない部屋。





(どこ?)

(ここは?)

(あたしは、一体……)




 ぼーとした頭で数時間前に起こった出来事のことを思い出してゾッとした。

 自分の身体を抱きしめ、涙を堪える。

なんであんな目に遭わなきゃいけなかったのか分からない。それがなんで自分なのか分からない。




 顔を上げて回りを見渡した。

(ここは……?)




 首を傾げては思い出そうとする。だけど、気を失っていたから思い出せないでいた。

 なんでここにいるのか分からない。ここが何処なのか分からない。

 不安で胸が締め付けられた時、部屋のドアが開いた。







 カチャ。

 部屋の扉が開き、高校生くらいの男が入ってきた。その男は背は高く、だけど頭は金髪で。

 理菜のとは違う、明らかに染めたっていう金髪。眉は細くこっちを見る目は鋭い。



「気がついたか?」

 よく見るとその人は、綺麗な顔をした人だった。

「覚えてる?何があったか」

 理菜が寝かされていたベットの傍まで来ると理菜に目線を合わせるようにして言った。

 理菜は彼の言葉に頷いた。


「そっか。あ、制服。破れてダメになった」

 その言葉にとっさに自分を確かめた。



(服、着てる。誰の?)



「姉のだよ。心配しないで。姉貴に着せてもらったんだ」

 ほっとする理菜だが、安心してる場合ではない。



「君、名前は?」

 その人は言う。

「理菜。秋月……理菜」

 名前を言った途端、その人は驚いた顔をしてみせた。




「秋月駿壱の妹……か???」






 その言葉に理菜もかなり驚いた。目の前にいる、この人が。理菜を助けてくれた人が、兄の親友の林良樹さんだったなんて思わなかった。

 しかもこの人が、この街で一番有名な暴走族、黒龍のリーダーだなんて思わない。





 その後バタバタと良樹と良樹の姉である、百合がどこかに電話していた。百合がスマホを片手に「駿!」と叫んでいた。

 


 暫くして、駿壱が部屋に飛び込んで来た。

「リナ!」

 抱きつき、理菜を落ち着かせるように背中を擦る。昔、よくしていたように。





「お兄ちゃん。大丈夫だよ」

 理菜は笑って見せた。

(でも……)

 苦しい、辛いという思いが溢れだして、涙が止まらなくなっていた。



(なんであたしなの…)



 駿壱は良樹と百合に何か話をして、理菜を連れて帰った。久しぶりに駿壱と手を繋いで歩いて帰った。

 家に着くまでの間、何もしゃべることも出来ないで、ただ手を繋いで歩いていた。


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