第6話
きぃん!
鋭い音が空を割き、足先の地面に白い剣が突き刺さった。
「なっ!? なんだいきなり!?」
驚いて後ろに飛び退く秀麗。鞘に戻したばかりの剣を抜き、慌てて周囲の様子を窺った。
一方の青年は、「早いなあ」とため息をつきながらのんびりその場に立ち上がる。そして急に目つきが険しくなり、鋭い口調で言った。
「来るよ、秀麗」
「どうして俺の名前を……」
しかしその問いは、最後まで口にできなかった。
上空から再び二本の剣が秀麗に向かって飛んで来たのだ。
「受け止めなきゃ駄目だよ。避けても追いかけてくるから」
「は!? ……くっ」
青年の助言に反論する間もなく、剣は秀麗の眼前に迫る。自分の剣でなんとかその刃を受け止めて、左右へと剣を振り払った。金属の擦れる音が静かな空間に響き渡る。
突然の出来事で、心臓はまだ激しく脈打っていた。肩で息をしながら振り払った剣を凝視している秀麗に、青年は面白そうににやりと笑う。
「ふうん。君、なかなかやるねぇ。中の下ってとこかな。まあ及第点だ」
「うるさいな……。使用人の身じゃ限度があるんだ。というか、この剣は何なんだ。お前、知ってるんだろう」
「それはねえ、彼らのだよ」
彼は服の袖を持ち上げて斜め上の空を指す。
そこには三つの影が浮かんでいた。
一人は白、一人は薄青、一人は紅の結い紐で髪を結い上げた若い男。全員袖の広い白い道服を纏い、複雑な紋様の書かれた紙切れ――恐らく霊符を手にしていた。彼らは虹色に薄く輝く小さな雲の上に立っている。
彼らの正体を察した時、秀麗の顔が一気に蒼白した。
「なんでこんな所に仙士達がいるんだ」
二界戦争における、地上界の敵だ。
さっと全身の血が引いていく。剣を持つ手がかたかた震える。
戦争とはいえ、主な戦場はこれまで都のある湖斉とその周辺だった。遠く離れた東の端の山河まで戦火が及んだ事は一度もなく、故に今後も戦争とはほぼ無縁の生活をしていくものだと思っていたのに。
仙士達は離れた場所に音もなく降り立ち、秀麗達に対峙する。こちらを襲った三本の剣は、意思を持つかのように宙を舞い、主人の腰に差された鞘の中に戻って行った。
白い結い紐の男が、剣先で秀麗を差しながら問う。
「雲水様に命じられて来てみれば……。貴様か、渾沌を封印していた祠を壊したのは」
秀麗は目を見張った。
「は……。なら本当にお前は渾沌だったのか?」
「だから言ったでしょお。神らしく君の名前も当てて見せたのに、今の今まで信じてくれてなかったんだねえ」
自称渾沌――改め渾沌は、やれやれとでも言うように両手を広げて首を振る。それからにたりと赤い口を開いて笑った。
「僕は渾沌。渾沌を司り、二界戦争を招いた神さあ。よろしくねぇ、秀麗。それからそこの三人も」
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