第61話

「失敗、しちゃったかな。和平どころか、もっと溝が大きくなっちゃった……」


自分のことで頭がいっぱいだったが、兄を裏切ればこの結末は当たり前。やはり争いなしで和平を手に入れるのは無理なのだろうか。


「あたしがこの選択をした意味って……」


ヨミが俯いたその時。


「そうでもないよ」


聞き慣れた、懐かしい声が聞こえる。顔を上げると、いつの間にやってきたのか、ジウォンがこちらを向いて立っていた。


「ジウォン? みんなトキ兄と一緒に戻ったんじゃ……」


「ううん。よく見てよ、ヨミ」


ジウォンに促され、ヨミは広場の方に顔を向ける。


そして、目を見張った。


そこには、式典に来ていた鵬翔の民の約半数が、遠くの方からこちらを向いて立っていたのだ。


「僕、ヨミが蒼龍国にいってから、君の為に何ができるか考えてたんだ。鵬翔にはまだ蒼龍国を恨んでいる人がたくさんいる。だから、蒼龍国について僕が取引で知った情報をみんなに話してまわったんだ。和平を結んで、互いに交流できるようになった時、すぐに打ち解けられるように。そして、意外にもみんな蒼龍国に興味を持ってくれたんだ」


君たちの計画は知らなかったけど、とジウォンは苦笑いをする。


「今日の式典への出立前、トキさんから話を聞かされて驚いた。蒼龍国は敵で、侵略すべき。トキさんはそう言って僕たちに剣をとるよう指示していたけど、式典の時の君の言葉を聞いて気付いたよ」


ジウォンはそこでヨミの手を取り微笑んだ。


「ヨミ。ここにいる以外にも、蒼龍国と和平を結びたいと考えている人はたくさんいるよ。そしてトキさんはその人達もヨミと同じように鵬翔から追い出そうとするかもしれない。だからそうなる前に僕はその人達をまとめて移動しようと思ってる。それで……僕たちだけでも蒼龍国と和平を結びたいんだ。……できるかな?」


「ジウォン……」


ジウォンの言葉に、ヨミは目を瞬かせる。そしてあることを思いつくと、ジウォンの手を離して雹藍の方を振り向き頭を下げた。


「皇帝陛下。皇后となるに際し、お願いがございます」


雹藍はヨミとジウォンを見比べた後、僅かに口を尖らせて呟いた。


「ヨミ。いい加減……、僕に対しても普通に話してくれないか」


「……そうだね」


ヨミは顔を上げ、雹藍に告げる。


「頼みたいことは二つ。一つ目は、蒼龍国との和平を願う彼らとの、交流の許可を。そしてもう一つは、鵬翔に関わることについて、当面あたしが請け負うことを許して欲しいの。鵬翔のことを分かってるあたしがやる方が、喧嘩にならなくてすむだろうし」


「……ああ。もちろんだ」


雹藍の答えに、ヨミは微笑む。雹藍も、ぎこちない笑みを見せた。


ナパルも翡翠を支えたまま、ヨミと雹藍の表情を見て口元を緩める。


向き合い笑う二人の笑顔には、輝かしい未来が浮かんでいた。

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