終章 未来へ
第62話
式典での騒動から数日後の夜、ヨミは自室の机の上に突っ伏してうめき声を上げていた。
「ナパル、あたしもう無理……」
机の上には資料の山。
式典の際トキが起こした騒動の始末をつけ終わり、宮廷内での鵬翔の悪評もようやく沈静化してきたばかりと言うのに、間を置かず別の仕事に取りかからなければならない状況なのである。
「あらあら。けれど、むしろやるべきことはこれからでしょう?」
人の姿を取ったナパルはくすくす笑いながらヨミに茶を差し出す。その手首には、金の腕輪がはめられていた。
「うう……ナパルも昨日牢から解放されたばっかりでしょ」
皇帝の殺害未遂と翡翠への傷害罪で、ナパルはしばらく牢に閉じ込められていた。
本来なら死刑になる所だったが、雹藍がナパル自身に罪はないと証言したこと、そして刺された本人である翡翠がナパルを牢から出せと激怒したことで、数日ぶりにヨミの元へ戻ってくる事ができたのだ。
「雹藍はともかく翡翠がそんなに怒るなんてね。仲が良いなとは思ってたけど、さすがにそこまでとは思ってなかったよ」
「本当に……。お二人には感謝しかありません」
ナパルは自分の分の茶を口に含み、ほう、と小さく息をついた。
「これから、いろんなことが変わっていくのでしょうね」
「そうだね……」
式典の後、鵬翔は南北二つに分裂した。
北はトキを始めとする蒼龍国を敵視する者達。南は蒼龍国と友好的な関係を望む者達。
まとめる者がいなかった南の鵬翔の新たな首長となったのは、なんとあのジウォンである。
蒼龍国は彼と交渉し、南の鵬翔と友好関係を結ぶ事を約束した。争いの発端となった洛陽の地の扱いについても、両国で話し合いながら決めていく予定だ。
そして式典での約束通り、ヨミは鵬翔に関わる業務すべてを担うことになった。南鵬翔との最初の交渉は雹藍にも同行して貰ったが、以後は一人で行うこととなる。
その為に今は外交の勉強中というわけだ。幼なじみのジウォンも頑張っているというのに、自分がここで折れる訳にはいかない。
勉強を始めた時はそう決意した。
しかし、である。
「でも、もう疲れたよ……。やりたくない……」
「けれどヨミさんがやると言ったのでしょう?」
「皇后に仕事が山ほどあるなんて知ってたらそんなに簡単に決めてなかったよ……。いままでみたいにちょっと勉強する以外は部屋でのんびりできると思ってたんだもん」
正式に皇后となったことで、外交に接待にと宮廷内の仕事が一気に増えた。
特に大変なのが後宮の事。
後宮の他の六人の姫達とも正式に顔合わせをし、後宮内の秩序を保つよう言われたが、彼女たちはいまだ鵬翔出身で成り上がりの皇后が認められないらしく、文句や陰口、嫌がらせは止まらない。
更には女官達まで結託して何もやっていないと主張するので、ヨミは彼女たちを管理するのは無理だと半分諦めかけていた。
「こんなにやることがあるなら、最初から教えておいてくれたらよかったのに……」
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