第46話
「結局、こうなるのですね。あなたが歩み寄って欲しいと言ったから、少しでも心を開こうと努力したのに」
「あれは……。すみません、私の立場であんなことを口にするべきではなかった……」
「本当に、その通りです」
翡翠は声を落とすナパルを見上げて吐き捨てた。
「あなたは一体何がしたいのですか? 誰も傷つかなければ良いと、自分たちを理解して欲しいと言いながら、こうやって誰もが傷つく道を選ぶ。蒼龍国の皇帝を殺せばあなたの主も鵬翔の民もどうなるか分かっているはずでしょう? ヨミ様より、あなたの方がよっぽど分かりませんよ」
「私は……」
自分だってこんなことはしたくない。
けれどそれを口に出せば、枷は自分の首を締め付ける。
望むままに行動した時には、きっと命を奪われてしまうだろう。
苦渋の表情を浮かべるナパルに、翡翠は容赦なく言葉を告げる。
「主の進む道を側で守り抜き、そして主が間違った道へ進もうとしているのならば、命を賭してでも止める。それが臣下の役目です」
「……っ!」
「もう一度、問いましょう。あなたは一体何がしたいのですか? あなたの主は、あなたの思う正しい道を進んでいるのですか? あなたが今、真にやらなければならないと考えていることは何ですか?」
「私がやりたい事……」
望まれない言葉を思い浮かべた瞬間に、喉の奥が締め付けられる感覚がした。それから逃れようとするように、ナパルは空いた手で首元を掻く。
「私は……こんなことなんてしたくない……。人を助ける為という約束で数百年間力を貸していたのに、どうして人を傷つけないといけないのですか……! 私だって、ヨミさんを止めたい……」
ナパルはそこで言葉を切って咳き込んだ。翡翠の拘束を解き、両手で首元を押さえて床に屈み込む。
「ナパルさん……?」
急なナパルの変化に、翡翠は驚き困惑する。そしてナパルの首元に、赤い文様が首輪のように浮かび上がっていることに気づき、目を見開いた。
「その首は……」
「行って……ください……」
戸惑いを浮かべて自分を見つめる翡翠に、ナパルは喉の奥から絞り出すような声で囁いた。首を絞めつけられる苦痛により、瞳から涙がこぼれ落ちる。
「別れ際の陛下の顔……、きっと、何か考えがあるのだと思います……。今ならまだ間に合うかもしれない……」
「しかし……」
「私は大丈夫……。トキさんはこれくらいで私を殺しませんから……。だから、早く行ってください……」
一言彼に囁いた後、ナパルは安心させるように笑顔を作る。
その苦しげな微笑みに一瞬心を揺らがせた翡翠だったが、すぐに立ち上がり廊下の向こうへ駆けて行った。
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