第43話
2
「え、今夜ですか?」
「そう。いい加減、片をつけないと」
ナパルに計画を実行することを伝えたのは、夕食後、部屋に戻って寝衣に着替えた後だった。
ヨミは寝台に腰掛け、横に控えるナパルに、バランに出会った事やトキからの伝言の話をする。
「なら早めに教えていただければ、私もなにかお手伝いできたのに……」
「……言う機会がなかったんだ。忙しかったし」
嘘だった。本当は、今夜実行すると決意した後も、心のどこかに迷いがあった。だから、なかなかナパルに話し出す事ができなかった。
「大丈夫。多分今日もあいつは来るから。二人きりになった時に隙を見て剣をあいつの胸に突き立てるだけ。ナパルは、翡翠を引きつけててくれればいいよ。なんだか最近仲良いみたいだし」
「いえ、別に仲が良いと言うわけではないですが……」
ヨミと雹藍が毎夜部屋で会話をしている間、ナパルと翡翠は追い出された者同士、部屋の扉の前に立っていた。
翡翠は口を開けば復讐心剥き出しの言葉が溢れ出ていた以前と違って、その日の天気だとかナパルの好きな物だとか、そういう他愛もない会話を持ちかけてくる。
その変化を素直に喜ぶ反面、自分の立場ではいつか彼を裏切ることになるのだと心苦しく思っていた。
悲しげな表情で目を伏せたナパル。ヨミはその心中に抱いているであろうものを見えない振りをして、脇に置いた短剣を懐に入れる。
「とにかく、お願いね。いつも通りなら、もうすぐ雹藍が……」
その時、聞き慣れた音で誰かが部屋の扉を叩いた。ヨミはその音に寝台から立ち上がる。
「噂をすれば、だね。ナパル、おねがい」
「……わかりました」
ナパルが部屋の扉を開けると、雹藍と翡翠が部屋の中へと入ってきた。
「ヨミ。今宵も、問題ないか?」
「ええ。私もお待ちしておりました」
無表情だった雹藍は、ヨミの言葉にうっすらと微笑みを浮かべる。そしていつも通りに部屋の椅子に腰掛けたので、ヨミも彼の反対側へと座った。
二人向かい合って席に着いたところで、翡翠が持ってきた菓子や茶を机の上に並べ始める。
「今宵は、君の喜びそうなものを持ってきた」
「あら、何でしょう? 楽しみです」
ヨミは笑いながら、目の前の彼を見る。
皇帝として職務をこなしている時とは異なり、今の彼は髪飾りを外して長い髪を下ろしている。白地に襟口が空色の落ち着いた衣が、雹藍の美しさを引き立てていた。
正直いつもの赤と黒の衣よりよく似合っている。こっちの方が好きかもしれない。
そこまで考えたヨミは「なにいってんだ、あたし!」と心の中で、自分の呟きにつっこみを入れる。
この皇帝は、今夜自分が殺す相手。
内の感情をすべてなくして冷酷にならねばならないというのに、服が似合っているなどと思うのは論外だ。
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