第33話
二人が沈黙したまま睨み合っていると、もう一つの足音が聞こえてくる。
「翡翠、それにヨミ殿。遅くなって済まない」
「わっ。えっ、雹藍!?」
突然現れた雹藍に驚いたヨミは、その姿を見て二度飛び上がった。
彼の服はいつものきらびやかな衣ではなく、ヨミが着ているものと同じ麻の簡素な衣だった。長い髪には髪飾り一つ見当たらず、頭の横でゆるりと結ばれ、胸の前に垂らしている。
どこにでもいる庶民のような格好の雹藍に、ヨミはぽかんと口を開いた。
「どうされたのですか、その格好……」
「これからの職務の為だ。……ところで、ナパル殿はどこへ?」
「あ……」
ヨミは辺りを見回し塀の上にいる小鳥の姿のナパルを見つける。
どうしよう。精霊である事が明らかになれば、ナパルが追い出されてしまうかもしれない。
ヨミの額から冷たい汗が流れ落ちる。
しかしその心配をよそに、ナパルはぱたぱたと雹藍とヨミの間に舞い降りると、躊躇もせずに言葉を発した。
「こちらの姿では初めまして、ですね。陛下、翡翠様」
「し、ナパル!? ちょっと! それは駄目だって……いや、駄目ですって!」
ナパルは慌ててくちばしを掴もうとするヨミの手をひょいとよけると、「大丈夫ですよ」と笑う。
「だって、お二人とも、私が精霊って事を知ってらっしゃると思うのです」
「え!?」
ヨミが雹藍の顔を見上げると、彼はこくりと頷いた。
「翡翠から聞いた。元はそのような姿なのだな」
「本当はもう少し大きいのですが、普段は勝手が悪いのでこうして小鳥の姿になっているのですよ。けれど……」
ナパルは飛び上がり、ヨミの横で宙返りをする。たちまち鳥の姿は消え、代わりに夜闇のような暗い青の髪色をした少女が現れた。その身に纏っているのは、先程雹藍に手渡されていた青色の裳である。
「皆さんとご一緒するなら、この姿の方がいいでしょう?」
にこにこと笑うナパル。ヨミは小さくため息をつき、翡翠は目を丸くしている。雹藍はというと、相変わらずの無表情だ。
彼は三人をぐるりと見渡した後、小さく頷く。
「……皆、準備はできたようだな。では、行くぞ」
「どこへ、でしょう?」
ヨミが首を傾げると、雹藍はそれを横目に一言答えた。
「都だ」
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