第29話
北側には宮廷敷地内の最北端に位置する北門。
すぐ内側には紫玉園と呼ばれる庭園があり、その西側にヨミの住まう白虎宮がある。そして皇帝の住まう麒麟殿は白虎宮の東隣、北門から庭園を挟んで正面にある建物だ。
白虎宮と麒麟殿、紫玉園内の楼閣や廟、堂等はすべて渡り廊下で繫がれている。
「あたしの部屋の前には見張りが二人。窓の外には見張りはいないから、そこから庭に出ることはできる。でも麒麟殿には入り口だけじゃなくて窓にも見張りがついているから、入ることは難しい、だったっけ?」
「はい、そうです。夜でも見張りがいるので、夜中にこっそり侵入して……というのも難しいと思いますね」
「そっかぁ……。うーん。なかなか良い方法が見つからないなぁ……」
ヨミは筆の後ろで自分の頬をつつきながら唸る。
これまでナパルの手も借りながら後宮の内部を調べ、暗殺の計画を立てていた。しかしいくら考えてもうまく雹藍に接触する術がない。
彼が自分の元に来ない以上、こちらから彼に近づくしかないのだが、何度頭で想像しても見張りに見つかって復讐を遂げることができずに牢に放り込まれる結末にしかならないのだ。
「せめてこの部屋の側を通る時が分かれば、部屋から飛び出して捕まる前に心臓をひと突きなんてできるけど、毎日同じ時間に麒麟殿を出てる訳じゃないんでしょ?」
「ええ。かなり時間差がありますね。自室で職務を行うことも多いようですし」
「うーん……。どうしたものか……」
ヨミが腕を組んで唸ったその時、部屋の扉がこんこんと叩かれた。
「ん? 誰だろ。ナパル、出てくれる?」
「わかりました」
ナパルが扉を開くと、そこには十数日振りに見る顔が二つ並んでいた。
「へ、陛下。それに翡翠様も。お久しぶりです」
まさに噂をすればなんとやら。
ナパルは慌てた声を上げ、ヨミは机の上の見取り図を握りつぶして立ち上がり、二人同時に頭を下げた。
今まで放置しておいて、一体何をしに来たのだろう。
まさか今更、短剣を持っていた事を咎めるつもりなのだろうか。
ヨミの額から、つうと冷たい汗が伝う。
雹藍の気配が自分の元に近づく度に、心音が大きく鳴り響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます