第24話

その時部屋の扉が開き、中から雹藍が静かに外へと歩み出てきた。


翡翠とナパルは慌てて彼に頭を下げる。


「翡翠、片付けを頼む」


「はい。承知しました」


「先に、戻っておく」


そう言い残して、雹藍は靴音もなく静かに廊下を歩いていった。


翡翠はすぐに部屋へ入って片付けを始め、入れ替わりで難しい顔をしたヨミがナパルの隣にやってきた。


「お話、どうでしたか?」


「話、したのかな……」


部屋の中にいる翡翠を気にして、ヨミは小さな声で話す。


「ほんっとに何にもしゃべらなかったよ、あいつ。側近の翡翠は挨拶しに来るって言ってたけど、それもなかった」


「そ、そうなんですか……」


口をへの字に曲げるヨミにナパルは苦笑いをする。


「でも、それなりの時間、二人だけでいたじゃないですか。全く何もしゃべらなかった訳ではないでしょう?」


「まあ、一応話はしてたけど……。でも、自分の名前とか、あたしを選んだ理由は顔だったとか、そんな話しかしてないよ。しかも、話を切り出したのは全部あたしだったし」


ヨミは先程の会話を思い返しつつ、大きなため息をつく。


雹藍がヨミを選んだ理由の話をしたあとも、結局話が弾むことはなく、茶と菓子がつきるまでほとんど無言で過ごしたのだった。


「無表情で何考えてんのかわかんないし、二人だけで一緒に過ごすのも疲れちゃうし。ほんと、あれじゃ氷帝って呼ばれても仕方ない……」


突如、ばん、と背後で勢いよく扉が開く。


驚いた二人が振り向くと、そこには翡翠が一人、片付け後の茶器も持たずに立っていた。その顔には、怒りの感情が滲み出ている。


「貴様ら……」


彼はヨミ達を睨みつけ、右手を突き出しながら叫んだ。


「これはどういうことだ!?」


その手に握られていたのは、寝台の中に隠していたヨミの短剣だった。


まずい。


額に汗を感じつつ、咄嗟にヨミは笑みを浮かべる。


「ひ、翡翠様、寝台を探ったのですか? いくら陛下の信頼を得ている方とはいえ、女性の寝台を探るのは……」


「そんな事は今関係ない。やはり貴様ら、何か企んでいるのだろう! 雹藍様を殺す気なのか!?」


「殺すだなんて、まさか。その剣は護身用ですよ。鵬翔の民は護身用にいつも剣を持ち歩いているので、その癖でつい……」


「黙れ!」


翡翠はヨミの襟元を左手で掴み、辺りに響き渡る程の大声で怒鳴る。たまたま通りがかった女官が一人飛び上がり、そそくさと逃げていった。


「貴様らのような人の皮を被った獣の戯れ言など誰が信用する!? 雹藍様に手を出す前に、今この手で私が貴様らを……!!」


翡翠の両手の力が強くなる。息苦しさを感じ、ヨミが腕を解く方法を考え始めたとき、後ろから冷たく鋭い声がした。

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