第22話
「あの、雹藍。お話がないなら、私から聞きたい事があるのですが、よいでしょうか?」
「なんだ」
相手から話題が出てこないなら、こちらから話題を作るしかない。
かといって互いに会話を楽しめるような共通の話もないので、ヨミは今回の件で一番気になっていることを聞くことにした。
「どうして私を皇后に選んだのですか? 私、あなたと会って話したりするのは、これが初めてだと思っているのですが」
「それは……」
雹藍の長い睫毛が僅かに伏せる。それから目を横に泳がせて、一言だけ声を発した。
「瞳、だ」
「は、はい?」
「瞳が、気に入った。……それだけだ」
再び黙って茶を飲み始めた雹藍に、ヨミは心の中で「はぁ!?」と叫び声を上げる。
瞳ということは、つまり顔が気に入ったということだろうか。
確かに即位式に出席したとき、顔くらいは見られててもおかしくはない。けれどそれだけで皇后に選ぶという考えは、ヨミには理解できなかった。
鵬翔の民が結婚するときは、勿論顔だけで決めたりはしないのだ。厳しい自然の中で生きていく為には、互いに信頼しあい、支え合っていける関係ではなければ、共に暮らして行くなどできないのだから。だが蒼龍国における結婚は、顔だけで相手を選んでしまえる程に軽々しいものなのか。
文化の違いがあると分かっていたつもりではあったが、到着早々大きな衝撃を受けてしまった。
ヨミは茶を飲み続ける雹藍をまじまじと見る。その顔からは僅かに浮かんでいた動揺も消え、元の無表情に戻っていた。
この生活も、この皇帝を暗殺するまで。
けれど、それまで自分はいろいろと耐えられるのだろうか。
心の中でため息をつきながら、ヨミはもう一度、味の薄い茶を飲んだ。
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