第6話

「大丈夫大丈夫。ちょっとぼーっとしてただけ」


ヨミは明るい声でごまかしながら、服についた草を払って立ち上がった。


「さて、トキ兄が羊を放ってくれたから、朝ご飯の準備はあたしがするよ」


「何が『あたしがする』だ。羊を捌くのも火の用意も、俺がしないとできない癖に」


トキは立ち上がりながらこちらを睨んでくるので、ヨミも彼を睨み返す。


「できない訳じゃないもん。ちょっと手際が悪いだけ」


「それをできないと言うんだろ」


「ちょっと! やめてくださいってば!」


再び二人の間に飛び散り始めた火花を見て、慌ててナパルが仲裁する。


「ほんとにもう、この兄妹は……!! 朝食くらい、仲良く一緒に作ってください!」


「でも……」


「だが……」


弁明しようとするヨミとトキ。しかしその言葉はナパルの声に遮られる。


「言い訳はなしです! 今日は二人で仲良く朝食を作る! 明日からヨミさんは寝坊をしない! 分かりましたか!?」


「「はい……」」


小さな身体から出たとは思えない程の迫力に、二人は眉根を下げて頷いた。


生まれた時から側にいて、両親を亡くした後も支えてくれたナパルは、ヨミとトキにとって親友であり、兄妹であり、親のような存在である。彼女に叱られると、ヨミはどうにも頭が上がらなかった。恐らくそれは、トキも同じだ。


「わかっていただけたのならいいのです。さぁ、家に戻りましょう」


ナパルの言葉にヨミとトキは二人そろって大人しく家へと歩いていく。


家の扉の一歩手前で、ヨミの肩に止まっていたナパルが「そういえば」と声を上げた。


「ここに来る前、ジウォンさんに会いましたよ」


「え? ジウォンに?」


「はい。市へ行くから、よければ朝食後に家に来てといっていました」


その言葉にヨミは目を輝かせ、前を行くトキに視線を送る。


それに気付いた彼は、家の扉を開けながら言った。


「食後の片付けをした後なら行っても構わんぞ。今日は客が来るからな。お前がいない方が、都合がいい」

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