第5話
「あっ!」
指摘され、ヨミはようやく笛が首元から消えていることに気が付いた。急いで落ちている笛を拾いに行き、傷がついていないか確認する。
「よかったぁ……。無事だ……」
安堵するヨミの背中を眺めながら、トキが大きなため息をついた。
「ヨミ……。もっと大事に扱えよ。その笛はウル家に代々伝わる家宝だぞ」
「トキ兄と戦ってて落としたんだから、あたしのせいじゃないもん。それにずっと身につけていろって言う割に、笛は持ち運びにくいの。トキ兄の腕輪と交換してよ」
「だめだ。腕輪は首長と決められているのだから」
呆れるトキに、ヨミは口をへの字に曲げた。
ウル家には、代々伝わる二つの家宝がある。
一つはトキの手にはめられている、代々首長に受け継がれてきた腕輪・
そしてもう一つがヨミの持つ笛・
代々ウル家の女性に受け継がれて来たこの笛は、願いを込めて音を奏でれば精霊たちがそれを叶えてくれると言われている宝具だ。要は精霊を意のままに操れる笛で、かつて精霊たちが今ほど人間に友好的ではなかった頃に、この笛を使って
しかし言い伝えが嘘なのか、それとも試しに念じ続けている「復讐を遂げたい」という願いが駄目なのか、ヨミが笛の力を使えたことは一度もなかった。
腕輪は父からトキに。笛は母からヨミに。
両親が幼いヨミたちに残したものはこの二つの家宝とナパルだけ。他のすべては戦火によって灰となり、跡形もなく消え去ってしまった。
昨夜見た夢の内容が脳内で鮮やかに蘇る。
殺さなければ。あの戦いで見た蒼龍国の冷酷で非道な男のことを。
瞳に憎悪の炎が灯る。あの男を殺す為だけに、この十年間短剣を扱う術を身につけてきた。今では男のトキと互角に戦える程までに強くなったのだ。
「ヨミさん? 大丈夫ですか?」
笛を持ったまま静止していたヨミは、小鳥の姿になったナパルから声をかけられ現実に戻る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます