第4話

「こらーーーー!!」


第三者の怒声が響き渡り、二人は思わず争う手を止める。そしてそろって声の主の方に顔を向けた。


そこにいたのは小さな鳥だった。瑠璃色の美しい羽を持つ小鳥は、二人の周りを飛び回りながら、黄色いくちばしを開いて言葉を発した。


「兄弟げんかで剣を使うのはやめてくださいと言っているでしょう!? これで何度目ですか!!」


「ナパル、あたしのせいじゃない。トキ兄が先に斬りかかってきたんだ」


「俺は脅すだけのつもりだった。こいつが短剣を抜いてきたから……」


「嘘ばっかり。本気で斬りかかってきてたでしょ。短剣を抜かなかったら、今頃あたしの身体は真っ二つになってるよ」


「何を!?」


二人の間に激しい火花が飛び散った。


今にも打ち合いを再開しそうな彼らに向かって、ナパルと呼ばれた鳥が再び叫ぶ。


「やめてください! ウル家と共にある精霊として、これ以上は見過ごせませんよ! それともあなたたちは、私を貧血にでもしたいのですか!?」


それを聞いたヨミとトキは、言葉を詰まらせ争いをやめる。そして武器を納めてその場で小さく肩を落とした。


「分かってくださったのならいいのです。ほら、二人とも座ってください」


トキとヨミはナパルの言葉に従って、大人しくその場に腰を下ろした。


ナパルは二人の前に降り立つと、小さな黒い瞳をそっと閉じる。


次の瞬間、手の平にのる大きさだったナパルの姿が、一瞬にして子羊ほどの巨大な鳥になった。


長い首に長い尾。瑠璃色の羽はさらに輝きを増している。蒼い鳳凰を思わせる美しい姿を持つ巨鳥は、自分の腹の辺りを鋭いくちばしで浅く切った。赤い血がじわりと蒼い羽を濡らしていく。


「ほら、二人とも傷をみせてください」


「はーい……」


「ん……」


差し出された二人の傷口に、ナパルはくちばしで自分の血を塗りこむ。すると傷はみるみるうちに癒えていき、跡形もなく消え去った。


「やっぱり、ナパルの力はすごいなぁ……」


初めから怪我などしていなかったかのようにまっさらな腕を見つめ、ヨミは呟く。


精霊であるナパルの血には傷を癒やす力がある。その力を見込んで鵬翔の民の初代首長は彼女と協力関係を結んでいた。以来ナパルは代々首長に仕えつつ、この地に住まう数多くの人間や精霊の傷を癒やしてきている。十年前の戦いの時も、彼女は両親のいた天蓋の後ろで怪我人の治療を行っていた。


「完全に治せるのは浅い傷だけ。深い傷になれば血を止める事ができるかどうかも五分五分です。それに血を使うので身体に多少の負担はかかるのですよ。できれば怪我はしないで欲しいです」


「分かってる。ごめんね、ナパル」


二人の治療をし終わったナパルは、「ところで」と翼でヨミの後ろを指した。


「ヨミさん、笛はあのままで良いんです?」

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