第4話

その時。


「助けて」


と。


少年の耳に届いた悲痛な叫びは、紛れもなくあの少女のもの。


はっと立ち上がり、少年はもう一度外を見た。


虎の怪物が、地に倒れた少女を喰おうと口を大きく開けている。


腰を抜かして動けないのか、彼女はただ身体を震わせているだけ。他の村人たちもなんとか助けようとするものの、強大な獣を目の前にして手も足も出せないようだった。


このままでは、あの少女が喰われてしまう。


どくん、と。


少年の身体に熱いものが迸った。


何もなかった毎日に、ささやかな喜びを与えてくれたのはあの少女だ。


そんな彼女を失うなんて、そんなのは嫌だ。


少年の想いに呼応するかの様に、心臓が脈打つたび全身に力が駆け巡った。


手と足についた枷を引きちぎり、さるぐつわを口から外す。


身体の奥底に眠っていた妖気がこみあげて、極限まで達した時に爆発した。


小屋の扉は激しい衝撃で吹き飛ばされ、開けた道から少年は外に走りだす。


その足は、獣の様に早かった。


その口には、鋭い牙が生えていた。


白く光る眼光は、怪物の姿を弓矢の様に射貫いていた。


少年の身体は既に人とは別のものになっていたが、彼は気にも留めなかった。 


ただ、少女を助けるため。


そのためだけに、少年は怪物にとびかかり、その背中に鋭い牙を突き立てその身を喰った。


ぎゃあ、と怪物が悲鳴を上げ、少年を振り落とそうと身体をよじる。その隙に、少女は力を振り絞ってその場からたっと走って逃げていった。


少年は怪物を喰い続けた。


訳も分からず、無我夢中で。


肉も、骨も、内臓も。骨の髄まで食べつくした。


そうして肉片一つ残さず腹の中に収めた時に、ようやく正気を取り戻した。

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