31話 古旅館





 俺はビャビャさん宅にお泊りすることが決まった後は、ラルトさんに手を繋がれ、エスコートされながら商会役所を出ると、辺りは夕日で暗くなり始めていた。

 

 なぜ、ビャビャさんが住む家に泊まるように促されて疑問に思った俺は、ゆっくり歩きながらビャビャさんの顔を見て質問をする。


「ビャビャさん!俺を何故そこまで優しくしてくれるんですか?」


「それは単純かぇ…金の成る商機が見えたかぇ。カブト坊ちゃんなぁ、子供ちゅうのはぁ、大人に甘えると同義よぉ」


「商会を営んでれば、そうですよね。俺一応、幼い見た目だけど、心は大人で居るつもりですけど」


「それは、この先が楽しみになぁてくるなぃ」


「はい…?」


「カブト様、ビャビャ会長は、これを期に金儲けする時期が来ると予想しております。そして、子供っぽい純粋なカブト様を気に入ったという理由で招待してくださったのですよ」


「そうですか」


 俺の気に入る瞬間は、果たして何処にあったのだろうと思いながら、足を進めた。

 村の中は、とても広く、すれ違う村の者の獣人は、身長が高い人から100㎝も満たない人々が暮らしており、俺が可愛らしいと思った獣人は、猫の獣人だった。


 俺の身長が140cm位なのに対して、猫の獣人のサイズは、その半分。

 見た目は、猫そのものなのに、服を着て立ち姿がとても愛らしい。

 あんな手で、物をどうやって掴んでいるんだろうと思っていると、ラルトさんが察して聞いてくる。


「カブト様。猫の獣人が気になっておいでで?」


「はい。あの姿でどうやって物を持っているのだろうと思いまして」


「カブト様、私ども獣人は、それぞれの種族に合わせてマナの操作に長けているんです。種族によっては特殊な魔法スキルを使う事が可能です。ビャビャ会長とワタクシは、その特殊な部類に入るんです。カブト様も同じですよ」


「勉強になります。ラルトさんありがとうございます!」


「いえいえ、気になった事があれば、ワタクシにもお申し付けください」


 ラルトさんの対応が、出来るイケメン過ぎると思いながら石畳が並ぶ竹道を進み、大きな豪邸に辿り着く。


「わっちが現在拠点にしておるぅ、家に辿り着いたでぇ」


 そこは、和風建築された古旅館だった。

 俺は、異世界にも和風建築があるんだ!と心躍りながら喜ぶ。


「カブト坊ちゃんなぁ、心の声漏れてるさぃ。連れて来て正解だったよぅ」


「声に出てました?」


「声は出てませんが、ワタクシから見れば、カブト様の心から嬉しそうにする様子は、分かりますよ」


「ワッチもそう思うよぉ」


 古旅館の引戸の前には、茶衣着の服装をして獣耳を立てた茶狐の女性が立っていた。大きくふさふさの尻尾とピンと立つ耳以外は、人間に近い。

 ビャビャさんとラルトさんと俺の姿を見ると、丁寧な物腰で声を掛ける。


「お帰りなさいませ、ビャビャ会長。夕食のご準備が出来ておりますが、先に温泉に浸かりになりますでしょうか?」

 

「いつも通りで頼むよぉ、チャコン」


「畏まりました。では、此方へどうぞ」


 チャコンさんが引戸を開けて、ビャビャさんさんが先に玄関を上がっていく。


「カブト様、玄関では靴を脱いでお上がりください」


「分かりました!」


 俺は靴を脱いだ後、靴を並べて端に寄せ、段差を上がる。

 ビャビャさんとラルトさんとチャコンさんは、静止して俺をジーと見ていた。


「俺、なにかやらかしましたか?」


「わっちはカブト坊ちゃんが、玄関のマナーを知っているとぅ、思わなくてねぇ」


「ワタクシも驚きました」


「コンも初めてです。ビャビャ会長、この子は何処かのお偉いさんの子なんですか?」


「わっちは知らんよぉ。カブト坊ちゃんに聞いてなぁ。チャコン、任せたわぇ」


「コン、畏まりました。此処からは、コンがお相手をします。カブト様、お手をお借りします!」


「はい、お願いします」


 チャコンに右手で長袖を上げて、左手を差し伸べられたので、俺は手を取り、ビャビャさんとラルトさんと別れたのだった。







 今度は、チャコンさんと手を繋ぎながら旅館の廊下道を進むと、外に繋がる廊下道を景色を楽しみながら通り過ぎ、一軒宿に辿り着く。


「カブト様。ここが停まる宿になります!」


「畳だぁ!コタツにミカンだぁ!敷布団だぁ!障子だぁ!」


 俺はテンションが上がってしまった。

 その姿をチャコンに微笑ましく見られていた。


「ゴホンッ。取り乱してすみません」


「いえいえ、カブト様の喜ぶ一面が見れて、コンは満足です!」


「お恥ずかしい限りです」


「子供の内は、思う存分はしゃいでください!」


「あ、はい」


 俺はチャコンの勢いに押しつぶされ、普通に返事するのだった。

 手を繋がれたりして案内されるのは、子供に対する作法なのかと、俺は疑問に思っていたが、チャコンさんが引き扉クローゼットから旅館着を取り出す。


「カブト様、このお洋服にお着替えください!」


「分かりました!」


 チャコンに旅館着を手渡される。

  

「カブト様、コンがお着替えお手伝いしょうか?」


「俺は、自分で出来ますよ」


「そこは、コンにお願いしますですよ」


「あ、はい。チャコンさんお願いします」


「コンにお任せあれです!少しだけ目を瞑っといてくださいね」


 俺は目を瞑ると、シュシュシュという風を切るような音が聞こえていたが、10秒も掛からずにお着替えが終わる。

 

「カブト様!お着替え終わりましたよ。目を開いてくださいです」


「あれ?もう終わってる」


「これがコンの特技です!お似合いですよ、カブト様!」


 俺は浴衣姿を見ると、青浴衣の上に水色の陣羽織を着せられており、水色の尻尾は見事に、浴衣の尻尾口から出ていた。

 前世の実家にいた時に着ていた浴衣よりも動くのも楽だった。

 俺は、チャコンさんに感謝を伝えた。


「チャコンさんありがとございます!」


「ココン…次のご予定がありますので、カブト様参りましょうか!お手をお借りします」


 チャコンさんが照れ隠しする様子に見えたのは果たして、気のせいだろうかと思うのだった。

 1軒宿の扉から来た道を戻り、先程来た方向と真逆の廊下へチャコンさんと一緒に歩いて行く。


 辿り着くと、そこは温泉の脱衣室だった。


「カブト様、湯浴み着に着替えさせます!」


「…お願いします」


 目を瞑って10秒経つと、肌が少し透けて見える湯浴み着姿になっていた。

 チャコンさんの湯浴み着姿透けていて、落ち着かなかった。

 スレンダーな身体をしており、身体のラインが綺麗だった。


「カブト様!コンと一緒に綺麗にした後は、温泉に入浴致しましょう!」


「はい…お願いします」


 俺は手を引っ張られながら、脱衣室を出て、洗い場に座される。

 

「カブト様、最初に頭からぬるま湯をゆっくり掛けますので、洗い終わるまで目を瞑りくださいです」


 目を瞑ると暖かいお湯が頭から優しく掛けられ、チャコンさんの両手が俺の髪の毛を泡で洗っていく。

 

(マッサージもしてくれて、脳がとろけそう。脳みそ無いのに頭が気持ちいい。角を避けながら手際良すぎる)


 俺は段々と、ウトウトしてきてしまうが、頭に湯を掛けられ背筋をピンとした。


「カブト様、お次は身体を洗っていきます!」


 湯浴み着の下から泡立てた布を手を突っ込まれるが、柔らかい感触を背中から感じながらも、隅々まで泡まみれにされていった。

 尻尾を触れられると、俺はビクンッとしながらも我慢する。


「カブト様、尻尾敏感でしたら、すみませんです。少しの間だけ我慢してくださいです」


 無事に、首下から全部泡まみれになった後、湯を何度もかけられて、スベスベツルツルの俺が完成したという。


「カブト様!もう目を開けて大丈夫です!」


「わかりました」


 目を開けると、全然濡れていないチャコンさんの姿と満足そうな表情を浮かべていた。

 チャコンさんもいつの間にか全身が綺麗になっている。


「お次は入浴になります!一緒に入浴しますね!」


「はい…」


 あんなに掛け湯されたのに、なぜ濡れていないんだろうと気になりながらも、チャコンさんに手を繋がれて、一緒に並んで露天風呂に入浴を始めたのだった。






 何故食材を食べれないカブトが飲料できたのか…それは水神の守護鎧に進化したからです。

 30話にちらっと補足修正入れておきました。



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