2章 ユクドラシル旅路編

30話 商談室




 商談室で白狐の獣人のビャビャさんと挨拶を交わした後は、話を進めていた。

 

「カブト坊ちゃんやぁ、収納系のスキルを持っていると言ったやん?どんなものを持っているか見せてもらっても宜しい?」


「はい!良いですよ」


 俺は、〈異空間収納〉から5枚持ってる内の1つのハンカチを取り出す。 

 

「これでも良いですか?」


「ほんまに異空間から出てくるとは、驚いたぁ。そのハンカチでええよぉ」


 ビャビャさんは驚いた表情を表に出していないが、俺は平然とハンカチを渡す。


「ちょっとハンカチの素材を見せてもらうなぁ。〈鑑定〉さぁ」


 目を細めて、ハンカチを〈鑑定〉している様子を眺めているとテーブルに置き、ビャビャさんは、袖からセンスを取り出して、口元の緩みを隠す。


「ほぅ…これは珍しい物もうてきたなぁ。今は流通しとらんフォレストスパイダーの糸と森林羊フォレストシープの羊毛でキメ細かくできとる。カブトの坊ちゃんやぁ、あんた何者さぃ?」


「俺は旅人ですよ。今は、遥か遠方の巨木を目指していますね」


「旅人かぃ。ユクドラシル目指してるんかぁ。カブト坊ちゃんやぁ、あの巨木に挑むつもりかぃ?」


「すみません。行ったことなくて、ただ行きたいだけなんです」


 ビャビャさんは、俺の言葉を聞いて軽く笑う。


「ヒャヒャヒャ!面白い子さぃ。カブトの坊ちゃんの反応に嘘も引っかからなかったわぁ。全部本当かぃ。試して悪かったなぁ」


「いえ、全然平気です」


 どうやら俺は、最初から試されていたらしい。

 収納系スキルを持っている事を聞かれた所からかもしれない。


「ただなぁ、カブトの坊ちゃんやぁ。握手を交わした時にぃ、変な感じがしたねん。ほんまもんの龍人族ならもっとぉ、力強いマナを感じるやかぁ。カブトの坊ちゃんさぃ、種族は隠している様子やねぇ?」


 俺は内心焦るが、種族名は言わずに正直に話す。


「訳があって、隠していますね」


「動揺しちゃあかんやぁ。わっちにぁ、正直に答えてくれた良いけぃ。ただの鎌かけに引っ掛かりは駄目よぅ」


「ビャビャさんは、相手の内を引き出すのがお得意の様で…追い打ちはずるいですっと…すみません、本音が漏れました」


「見た目と共にほんま幼いやぁ。ヒャッヒャッヒャ!」 


 大笑いされているが、俺とビャビャさんと打ち解けられた気がした。

 一種の商談のやり口なのだろうと、俺は思う。


「カブト坊ちゃんわぁ、信用したるけぃ。わっちが好きなだけ買い取ってやるねぇ。ただ、流通しとらん物、多そうな気がするかぃ。程々してなぁ」


「わかりました。テーブルのハンカチで作った物以外にも、俺がスキルの〈裁縫〉で作った服やタオル等あるんですが、食材の方がいいですか?」


「そうさねぇ。服やタオル類を見させてもらいてええ?」


「じゃあ、俺が〈裁縫〉で作った物から見せますね」


 俺は異空間から、新品の折り畳まれたバスタオルやミニタオル、大きめに作って一度も使っていない男女兼用ジップパーカーとショートパンツ、スポーツスパッツやインナーシャツを〈異空間収納〉から取り出しテーブルに並べた。


「これまた珍しい服やねぇ。服を上から羽織る服は、初めて見るわぁ。この黒いのは、騎士団が鎧の下に着る服と似てるねぇ。こっちのタオルわぁ、温泉街に行った際の物よりも良質やねぇ」


 それぞれの感想を呟いていた。


「全部買い取っても良いけどぉ、大陸金貨50枚ってところかぃ」


「金貨?すみません。俺お金の価値を理解していないんです」


「それならねぇ、簡単な例えあげたるわぁ」


 ビャビャさんの袖から、小さな小銭入れを取り出して、テーブルの空いているところにジャラァと音を立てた後に、コインを4枚取って並べた。

 人差し指を立てながら、説明を受ける。


「わっちがもってる銅貨、銀貨、金貨、白金貨があるなぁ。このコイン1枚がそれぞれ100枚ずつで、並べたコイン順に上がっていくんやぇ。銅貨が100枚あったら銀貨1枚ってところやなぁ」


「わかりました!ちなみに、白金貨より上はあるんですか?」


「良いところに目を付けなはる!えっとなぁ。ミスリル銀貨っつー空から稀に降ってくる石を製錬して出来るコインがあるんやけど、ミスリル銀貨1枚で白金貨100枚の価値があってなぁ、現存してるのはぁ、20枚程度やったかなぁ」


「教えてくれてありがとうございます!」


 各コイン1枚で、銅貨で1円、銀貨が100円、金貨が1万円、白金貨100万円で、ミスリル銀貨で1億円である。

 味わったことない大金に内心驚いたが、俺は表情を出さないでいた。


 ビャビャさんは、小銭入れにコインを仕舞いながら口を開く。


「今回は、どうするさねぇ?わっちとしては、タオルは頂きたいねぇ」


「服はあまり数がないので、タオルでいいですか?他の物は仕舞いますね」


「わっちは、タオル頂くねぇ」


 テーブルを〈異空間収納〉で仕舞った後は、ビャビャさんが〈異空間収納〉から拡張できる配膳板を取り出す。


「次は食材かねぇ、この板上に出してくれるかぃ?」


「わかりました」


 俺は、順々に水馬ウォーターホース森林馬フォレストホースの部位肉、森林羊フォレストシープのマトンや森林牛フォレストミノタウロス、コカトリスの各部位肉等、出しては、仕舞いを繰り返す。


「カブト坊ちゃんやぁ、地下保管庫で出してくれるかぇ?買える分は全部買い取るさぃ。しばらくはぁ、食料問題無くなるさかぃ。助かるよぃ」


「消費に困っていたので、此方こそ助かります!」


 ビャビャさんは、袖からベルを取り出し鳴らす。

 少しすると、ゆっくり扉を開けて、執事の恰好をした兎獣人の長身女性が現れる。


「ラルト、馳せ参じました。ビャビャ会長、何用で御座いますか?」


「此方のぅ、カブト坊ちゃんを地下食糧庫にぃ連れてってくれるかぃ?肉の量を把握したらぁ、教えてなぁ」 


「畏まりました。カブト様、お手をお貸しください」


「あ、はい」


 俺はラルトさんの手を取り、廊下の階段を下り地下室まで連れて行かれたという。

 子供扱いされてると思いながらも、素直に従うのだった。






 地下室に辿り着くと、前世の冷蔵倉庫を思い出すような、ヒンヤリした空間だった。

 寒さは感じるが、自分は鎧なので何も影響がなかった。

 ラルトさんは、平然な顔をしながら、俺の様子を伺ってくる。


「カブト様、お冷えにはなりませんか?」


「大丈夫です!」


「では、此方の食材棚の食材バットに置いて行ってください」


 俺は、先ほど見せた肉を〈異空間収納〉から取り出し、どんどん置いていく。

 少し経つと、何か月分もの肉を食材棚に置き終わる。

 俺が手を止めると、ラルトさんが声を掛けて来た。


「カブト様。それで全部でしょうか?」


「そうですけど。満杯になるまで置いたら駄目でした?」


「いいえ、大変助かります。ビャビャ会長も喜びになるでしょう。カブト様。お手をお貸しください〈洗浄クリーン


 俺の手は、綺麗になり肌までもツルツルだ。

 自身の〈洗浄〉と比べるとレベルが違うのが分かる。


「綺麗になりましたので、ビャビャ会長の所へ戻りましょう」


「はい、手を繋がなきゃ駄目ですか?」


「ワタクシがエスコートしますので、大丈夫ですよ」


「あ、はい」


 俺はラルトさんにまたエスコートされ、商談室へ戻る。

 ラルトさんが扉を開けて入ると、ビャビャさんは急須を持ちながらお茶の準備をしていた。


「ちょうど良かったわぁ。お茶淹れたよぇ。カブト坊ちゃんも一緒に飲むかぃ?」


「飲みます!」


 勢いで言ってしまったが、俺は飲めるのかな?とふと頭に浮かぶ。


「そちらに座ってなぁ、ラルトやぁ、用紙準備できたかぇ?」


「ビャビャ会長、此方の用紙を」


 ビャビャさんは、ラルトさんに渡された用紙に目を通す。

 待っている間、俺は座りながら、お茶コップを持ちながら一口つける。


(水神の守護鎧に進化したお陰で、俺飲料出来るようになってる!めっちゃ嬉しいんだけど!)


 心の中でそう呟きながら、香り深い緑茶の味だったので、懐かしい気分になって何度も口に着けて飲んでを繰り返した。


「冷蔵倉庫を一杯にしたかぇ。白金貨3枚と金貨100枚と銀貨50枚ぐらい渡せば、良さそうやなぁ。カブトの坊ちゃん。…わっちのお茶気に入ったかぃ?」


 ビャビャさんの声が、緑茶に夢中な俺に届いてなかった。

 飲み終わると、ビャビャさんとラルトさんはニコニコしながら待っていてくれた。


「すみません、凄く美味しかったもので、気付きませんでした」


「ええよええよぉ。嬉しかったわぁ。ラルト準備できたかぃ?」


「はい、此方に白金貨3枚と金貨100枚と銀貨50枚、茶筒でございます」


 テーブルに白金貨と金貨、銀貨がそれぞれ入った袋を置き、茶筒が置かれていた。


「これでええかぃ?カブト坊ちゃんやぁ」


「…多すぎないですか」


「ええのよええのよ。もらっときぃ」


「わかりました。もらいますね」


 俺が〈異空間収納〉にお金が入った袋と茶筒を入れ終わると、ビャビャさんは口を開く。


「カブト坊ちゃん、今日はわっちの場所で泊っていくかぃ。来たばかりで宿取ってないなら、泊まりぃ。ラルトやぁ、大丈夫やろ」


「ええ、カブト様なら問題ありません」


 ここで断るのは、悪いと思ったので、俺は拒否しなかった。


「じゃあ、お言葉に甘えますね」


「もっと口調軽くしてええよぉ。子供なんだしなぁ」


「アハハハ‥‥」


 俺はこの世界に生まれて1年と4か月過ぎなので、子供という言葉を否定が出来ず、ビャビャとの無事換金が終わるのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る