第27話 フロマの回想



 水中ドームから〈階層転移〉して、住み家へ帰ると、カブトは、レヴィアに怒られている。

 木刀とナイアのスキル相性が良すぎた結果、怖い思いをさせたので、流石にそうなると予想でき、フロマとモルビエは、カブトを可愛そうな目で見ていた。


 フロマとモルビエは、一足先にラメルの子守に戻り、ナイアと一緒に囲む。

 カブトに出会った当初、我らの時は、不覚にも操られてしまったが、結果的に今の状況に満足している。

 

 久方ぶりにカブトと戦った事を思い出しながら、少し前の出来事を思い返すのだった。

 





 我とカブトの出会いは、1年前程。

 

 主を気に入った理由は単純。

 我らを守ってくれる上、弟分であるモルビエを大切に扱ってくれているからである。

 

 我は、少数の群れを率いていた時は、6匹で行動しており、黒狼のモルビエは、偵察に扱っていた。

 

 黒い毛並みをしており、我らの群れの中でも、落ちこぼれの存在。

 弱肉強食の中で、一番最初に犠牲になるのは黒狼だった。

 だが、我はそんなモルビエを気にかけていた。


 ある日の朝、少し離れた場所で、大きな音が響き渡る。

 名も無き時代のモルビエは、黒と呼ばれており、我に声を掛けて来た。


「姉上、この音は何だ!?」


「我にも分からぬ。偵察をお願いして良いか?」


「はいよ。行ってくる!」


「気を付けて行って参れ」


 心配しながらもモルビエを見送る。

 少し経つと、黒の遠吠えが響く。

 群れの名も無き狼の一匹が、我に問うた。


「黒の声だな。姉御どうする?」


「我は黒の所へ、全員で向かった方が良いと思っている」


「姉御、行こう!」


 我を含む5匹は、行動を開始し、黒の所に向かった。

 黒が見えると、明らかに様子がおかしい。

 我と一緒に狼達は、黒に近づく。


「どうしたんだ黒?」「黒?」「大丈夫か?」「何故怯えている?」


「む?まさか!操られている!?皆の者、黒から離れろ!」


『〈マリオネット〉発動!狼5匹分だ!』


 気付いた時には、遅かった。

 群れ共々、得体のしれない何かに操られてしまう。

 その後、体が勝手に伏せてしまい、意識はあるが、話す事は出来ない。

 他の狼も意識があるか分からない状況に陥る。


 (我がしくじってしまった。すまない…)


 自由が効かない状態だったが、少し時間が経つと、黒の姿が変化して、黒いスライムの様な物体が、黒の身体に多い被さる。

 

 黒は甲冑を纏った姿で、更に漆黒の毛色に変化する。

 見たことない姿に我は動揺した。


『…狼共、狩りの時間だ!』

 

 黒が指示を出すと、身体が勝手に動き出し、我の意識は狩りをするという意思に変わる。


 最初の獲物は、フォレストディアという大物で、我らより大きな鹿だ。

 我らにとっては、ご馳走だったので、包囲して襲い、息の根を止める。

 普段は、集団に居るフォレストディアは、狩るのが難しいのだが、黒が簡単に息の根を止めてみせ、我は心の中で驚いた。

 狩りが一旦中断され、我らは血の匂いで涎が溢れる。


 『狼達に食べていいぞ』という黒から許可が下り、鹿を貪り食らう。


 鹿肉は、歯ごたえのある血肉で旨かった。

 食べ終えた後は、また別の場所へ移動を始める。


 次は、いつも食べてる獲物、フォレストラビットイアという4つ耳の兎。

 親分兎は逃がしてしまったが、2匹だけ捕らえて、黒に渡そうとしても拒否し、兎を食した後には、操られてしまった場所へ戻る。


 次の日、宝箱が浮いていた。

 一体何なんだ…と、心の中で我は呟く。


 また次の日は、黒に憑いて何処かに行ってしまったが、帰ってく来たら、異空間からフォレストベアの死体が出て来る。

 

 フォレストベアを食べろという指示が来て、我を含む狼達は、魔獣を食らった。

 何をさせたいか理解し難いが、以前より力が湧いてくる。

 魔獣の成長は、魔獣や他の種族を食せばレベルが上がる仕組みだ。


 集団で狩っては、魔獣を食らう日々。

 他の同胞の群れと遭遇すれば、群れに吸収され取り込まれていく日課を過ごした。


 気付けば、30匹に近づく勢いだったが、他の魔獣を倒しては食らい、力を付けて行った。

 黒に取り憑いている者は、見返りは求めてこない。

 

 我は、黒に取り憑いている防具を認め始める。

 黒が無事なら、我はそれで良いと思ったからである。

 

 だが、ある日を境に、魔獣共が暴走を始め、明らかに狼の群れを狙ってやって来る魔獣が増えた。

 対象は十中八九、黒の取り憑いている防具であろう。

 我は、黒を守る為に、操られている狼達と共に戦いながら来る日も耐え続けた。

 戦いの中、犠牲になる中には、我の群れに居た狼も含まれる。


 それでも黒は無事だったので、心を許しても良いと思った。


 そう思っていると、操り状態が解除されたのだ。

 黒に取り憑いている者は、我の変化に即座に気づく。


『〈マリオネット〉が解除された?』


「ワフッ!」


 我の声は、届かないらしい。

 主と呼びたかったのに、通じなかった。


『とりあえず〈マリオネット〉』


 我には効かなかったので「ワフッ!」と答えた。


『〈鑑定〉…あれ?効いてない…さて、なんで解けたんだろう』


 我の事で悩み始める。


『あっ!もしかして、俺に心を許したから、解除されたのか?』


 そうだ!と「ワフッ!」と返事をする。


『そうか。なら今からお前の名は、フロマだ!』


 我の名はその日から、フロマと言う名前になり、悪い気はしなかった。

 

 操られてから3ヶ月後の出来事だったという。

 それから、我は自由に行動できるようになり、防具は我にも取り憑くようになり、魔獣共を食らう事なく、倒した魔獣の光を吸収して、共に成長していった。


 黒はまだ操られた状況だが、我が解除された影響で、心境の変化があれば、我と同じ様になるだろうと確信する。

 我の予想は、更に3カ月過ぎた後に見事に当たる事になる。


 大蛇のフォレストバジリスク率いるリザードの群れと戦い、我と黒のみになった時、何とか大蛇を倒した後、手におえないスネークと蜥蜴に我も食われる寸前まで追いやられる。

 絶体絶命の中、「姉上!」という吠える声と共に、一掃され、我は救われた。


『いやぁ…今回はフロマ以外は全滅か。俺を〈分裂〉させてフロマに装備させといて正解だった』


「姉上、平気?」


「平気だ。話すのは久しいな」


「本当に長かったよ。自分に取り憑いた防具を主として認めたんだ。そしたら、身体が自由に動けて、姉上も助けたられたんだ」


「そうだったか。逞しくなったな。黒…」


『あれ、この黒狼も解除されてるぞ…お前も同じか?』


 黒は「ワンッ!」と答えた。


『フロマ同様に、名前つけてあげるか…じゃあ、お前の名はモルビエだ!』


「やったぁ!おれっちの名前は、モルビエになったぁ!」


 防具には嬉しそうにするモルビエの「ワンワン!」しか聞こえていないけど、嬉しそうにしてるのは、伝わっているらしい。


 モルビエという名を授かってからは、魔獣の襲来が無くなり、成長が緩やかになった。


 そして半年が過ぎた後…


『そろそろボス攻略しにいくか!』


 どうやら、主は大物を狩りに行くらしい。


「姉上、ボス戦だって!」


「我は主を守るだけだ」


「姉上は、いつも通りだー」


『フロマ、モルビエ。行こう!』 


「ワフッ!」「ワンッ!」


 その後、洞窟へ向かい、レヴィアという水龍に出会い、日が経つと番となっていた。

 あの時は我も死を覚悟したが、レヴィアに気に入られて今がある。

 運命とは分からないものだ。


 ちなみに番と言えば、我も選ぶとすれば、モルビエになるだろう。

 立派になっているが、モルビエはまだまだ子供である。

 いつの日か、我はモルビエの番になろうと考えているが、当分先の話になるであろう。







 今日は、主との戦闘を振り返る。


「モルビエは、主と戦ってどうだ?」


「力及ばなかったよ…」 


「そうだな。我もだ…」


「でも、主がおれっちと姉上に憑かなくなって、力も落ちた気がするし、更なる成長しなきゃなって思った」


「我もそう思うが、急がなくていいのだぞ」


「おれっちも同意見だよ。今はラメルちゃんの子守りが優先だもんね。早く目覚めてくれるといいなぁ」


「我もそう思うが、子守りをしてると、力を貰えているのが不思議だな」


「おれっちも不思議に思うよ」


 フロマとモルビエは、そう話しながらも、ラメルの子守りを続けるのだった。

 

 一方、カブトの方というと、腕を切り落とした件でレヴィアに怒られ、相当落ち込んでいたとさ。

 


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