第26話 模擬戦闘
木刀をナイアに渡した後の次の日。
「ワシは留守番している故、ナイア達と遊んでくるのじゃ!〈階層転移〉のスキル付与をナイアに施しておくかの」
「違う階層…行けるの!?」
「残念じゃが、いつも行ってる所しか行けないのう」
「はぁーい…」
「という訳で、カブトよ。宜しく頼むのじゃ!」
「おう、任せとけ!」
昨日は、木刀を渡した後、レヴィアとナイアに露天風呂の階層に行こうと誘われ、一日を堪能していた。
露天風呂の階層には滝湯や洞窟サウナ、更衣室や休憩場が追加されており、驚かされた。
約束通り、ナイアを頭を洗ったりした後、レヴィアも「洗って欲しいのじゃ」と求めてきたのは、言うまでもない。
二度目なら何とかなると思っていたが、色気の破壊力があり、俺は何とか気絶せずに耐え切った。
その後、心を落ち着かせる為に、滝湯に行き、頭に浴びるのも気持ち良かったし、洞窟サウナに行った後の水風呂も最高だったが、最後にトドメを刺されたのは、大桶風呂だ。
レヴィアとナイアと一緒に、密着しながら入った際、レヴィアから尻尾責めに逢って大変だった。
そのせいで、危うく悶絶しそうになったという。
身体を密着するのは慣れたと思っていたのに、改めて自分はレヴィアの甘えに耐性が無いなと思った。
新しい施設が追加された露天風呂の階層を3人で堪能していたら、あっという間に過ぎてしまい、今日が始まったという訳だ。
本日は、ナイアと一緒に稽古場として使っている、水中ドームに来ている。
フロマとモルビエと一緒に行動は、久々に感じた。
「今日は、フロマとモルビエと一緒だな!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
尻尾を振って、2匹とも俺の顔をペロペロ舐めてくるが、俺はモフモフを撫で返す。
「嬉しいか!そうだ、フロマとモルビエ!久々に俺と手合わせしてみるか?」
「ワフワフ!」「ワンワン!」
2匹ともやる気らしい。
どのくらい成長してるか楽しみだな。
「父様…私も!」
「順番な!とりあえず、擬態した姿で、どこまで戦えるか試してみたい」
「うん…先にフロマとモルビエに…譲ってあげる」
「ありがとな、終わったら木刀で打ち込みしよう!」
「うん…!」
模擬戦闘したところで、俺が攻撃するとしても痛みはない。
逆にダメージを負ったところで、防御力は高いので大丈夫だろう。
ナイアが安全な所まで離れると、フロマとモルビエに声を掛ける。
「フロマ!モルビエ!本気で掛かってこい!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
俺はレヴィアと体術する時と同様の構えで、腰を少し下ろし受け止める体制を取る。
目線を送ると、2匹ともメラメラと赤く燃えがる。
フロマは赤い炎を纏い、モルビエは黒い炎を纏っていた。
足元が水のせいで、水蒸気が周りに漂い始める。
「炎を纏っただと!?ラメルと一緒に居た影響か?まずは様子見だ」
少しすると、漂っていた水蒸気を吹き飛ばしながら、走ってきた。
レヴィアより早くないので、対応できる。
「ホムと戦ったときを思い出すなぁ。当たったら熱そうだから、俺も〈水龍拳〉で対応させてもらうからな」
2匹の突進を身体を傾けて躱しながら、手の平に水を纏いながら、胴体に向けて押し出した。
フロマとモルビエは水面にバシャバシャと叩きつけながらも体制を整え直す。
「攻撃力は無いけど、叩きつけられるとダメージはあるみたいだな。てか、俺の手の平が地味に熱い」
自身の手の平を見ている間に、フロマとモルビエは牙を剥き、襲い掛かってくる。
よそ見を狙った様子だったが、俺はとっさに、両腕をわざと噛ませてみたところ、牙が食い込んだが、痛みは無く、熱いだけだった。
「フロマ、モルビエ!なかなかやるようになったな!そろそろ離さないと、水面に叩きつけるぞ!」
「グルル…」「グルルルゥ…」
腕から離れてくれない様子だったので、身体を回して、水面に容赦なく叩きつける。
バシャーンと水しぶき上げて叩きつけた後、腕から離れる。
俺は腕の噛まれたところを見ると、焦げていた箇所が治り始めた。
「〈変幻自在〉で変身したままでも〈自己修復〉がされていくのか。服は焦げちゃってるなぁ」
そう呟いていると、申し訳なさそうに「クゥーン」と鳴きながら、フロマとモルビエが近づいて来る。
「すまんすまん、仕切り直しだな。この階層は、水に囲まれてるから平気だけど、燃えやすい森で使うのは駄目だぞ」
「ワフッ!」「ワンッ!」
それから再開し、30分程フロマとモルビエの突進をひたすら躱したり、噛みつきを受け流したりして続いたが、炎が燃え尽きて時間切れになったフロマとモルビエが伏せて、降参した様子で終了した。
「ふぅー…続いたなぁ。フロマとモルビエも成長しててびっくりしたぞ」
俺がフロマとモルビエの前で、呟いていると、ナイアが俺に声を掛けて来た。
「父様!…お疲れ様…ちょっと休む?」
「おう、小休憩させてくれ。その後でいいか?」
「うん!…フロマとモルビエも…お疲れ様…です!」
フロマとモルビエは、疲労困憊で立ち上がれずにいたので、ナイアは2匹に寄り添って、モフモフしながら撫でている。
炎を纏っても、毛並みは無事なようだ。
俺は休憩してる際、先程の模擬戦を思い返す。
日頃からラメルに寄り添っていたので、炎を纏うスキルを習得してるなんて予想外だった。
フロマとモルビエは、知らない内に成長しているし、俺の擬態した身体は、普通の人間にはない性能をしていたりと、確認できて良い収穫だった。
レヴィアの稽古している際、ナイアの〈
フロマとモルビエは立ち上がった所で、ナイアが声を掛けて来た。
「フロマとモルビエ…離れた所で…私達を見てるって!」
「それじゃあ、木刀で打ち合いするか!」
「うん!父様…身体どうする?」
「お願いしてもいいか」
「うん…準備するね!」
俺の身体を準備してもらい、〈変形装着〉をした。
ナイアは、木刀を取り出した後、構えと振りから見てみることした。
「父様…刀使わないの?」
「ナイアに危険な目あったら、レヴィアに怒られそうだから、次回までにナイアと打ち合う用の木刀を作っとくよ。今回は素手で受けるから、好きなように打ち込んできていいぞ」
「はぁーい…」
刀同士の打ち合いをしたかった様子だったので、レヴィアに木刀を作る素材貰おうと考えながら、始めるのだった。
◇
(あれ…?ナイア強くない?)
戦闘が初めてと思えない、刀技を披露していた。
水神の眷属は、特別なのかもしれないと思いつつも〈水龍拳〉で手の平に水を纏いながら、刀を押し返している。
手の平で受けると、パシャンと音を立てながらも弾き返す。
レヴィアから習得したスキルは強いなと思いながらも長時間続けると、ナイアは試したい顔をして聞いて来た。
「父様!スキル…使ってもいい?」
「ああ、いいぞ!」
断る理由もないので、好きな様に戦わせてあげたいという考えが、仇となるとは知らずに返事を返してしまう。
ナイアがスキルを発動すると、木刀が水属性を帯び、同調した水刀の状態になる。
斬れるのかと思いながらも、ナイアの攻撃を手の平で受けてみると、手の平からひじに掛けて、真っ二つに斬れ、水面にパシャンと落ちた。
断面は、鉄みたい色だったので、平気だったが、俺とナイアは思わず「え!?」と声を上げた。
「父様…半分に斬れた…腕…」
「痛みは無いから大丈夫だ。ただ、俺も予想外だ」
前世では、ウォーターカッターがどんな固い物質でも切る事を可能にしていたし、水属性最強か!と思っていたところ、ナイアの声が震えていた。
「父様…ごめん…なさい」
俺は切断された腕を拾って接着させた後、〈変形装着〉を解除して、〈変幻自在〉で普段通りの姿に戻る。
普通に考えれば、子供にとってトラウマ案件だ。
自身の手で傷つけたと思うと、怖くなってしまうだろう。
俺はナイアを撫でながら励ます。
「俺も不注意だったけど、凄い事だぞ!ナイアが戦えるようになるのも嬉しいし、何より、俺の作った木刀で、腕を切り落とす威力もある。刀は人を斬る武器だ。自信持て!レヴィアなら、喜んで褒めてくれるぞ!」
「ほんと…?」
「ああ。次来た時、レヴィアを驚かせてやろう!」
「うん…!」
「とりあえず、今日は住み家に戻ろう。フロマ、モルビエ!住み家に戻るぞ」
「ワフッ!」「ワンッ!」
ナイアの気分が戻ったので、俺は一安心しながら、フロマとモルビエと一緒に住み家に戻るのだったのだが、お怒りのご様子であったレヴィアが待ち構えていたという。
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