第24話 フレンチトーストと甘々な時間




 昨日は、凄く長い一日で一番濃い日だった。

 俺の〈変幻自在〉というスキルから始まり、ナイアに怒られてお出掛けが決まり、レヴィアの故郷と本当の親を知り、挨拶を済ませた後に刀を貰ったり、帰った後は、広々とした温泉でレヴィアを洗うという大変な目に遭うわで、本当に濃かった。


 昨日を振り返り思い出していたら、朝を迎えてしまったので、一足先に寝室から出る。

 ラメルの周りで寝ているフロマとモルビエは、俺を横目にジッとしていた。

 「おはよう」と小声で挨拶して、そのままキッチンへ向かった。

 

 〈変幻自在〉のお陰で、マナを余分に使わずに作れる事になったので、俺は高さのあるキッチン台で〈浮遊〉を使用しながら、俺は食パン作りを始めた。

 

 最初は、キッチン台の下にあるオーブンを暖かくしておいて、パン種を作る為にキッチン棚からボウルを取り出し、ボウルの中に小麦粉と水とを混ぜコネてから重曹を入れる。

 パン種が完成したら、作ったタオルを洗面台で水で濡らし被せ、オーブン上にパン種のボウルを置いて暖かさを利用して、自然発酵させる為に寝かせる。

 

 パンを作る前準備が整い、パン種を一次発酵させるのに30分暇になったので、キッチン台で空いたスペースで、オーブン手袋ミトンを〈裁縫〉で作った。

 余った時間は、今後も食べる分の小麦粉を作る為に小麦を砕くする作業をして時間を潰した。


 パンが焼ける準備が整ったら、ボウルからキッチン棚にあった食パン型を取り出し、食パン型に植物油を塗る。

 その後にパン生地を入れた上に、更に植物油を塗って、少し放置する。

 

 オーブンに入れる前には、温度を段々上げていく作業に移り、感覚で200度を超えるぐらいにしたら、オーブンにパン型を入れ25分過ぎる程度に焼いていく。


 俺は、前世の働いていた記憶を覚えていて良かったなと思いながら、焼きあがるのを待ち続けるのだった。


 



 食パンの焼き色が、ちょうど良い加減になったので、食パン型をミトンを着けてオーブンから取り出す。


「調味料が不足していたけど、案外出来るもんだな!」


 俺は満足しながら、キッチン台に揚げ網を敷き、その上から食パン型をトントンと振動を与えてから横に流すように一斤取り出す。


 食パンの中身の感触を調べる為に、キッチン台の引き出しから包丁箱に仕舞われている包丁を取り出し、包丁を温めてから1枚切り取る。


 試しに1口サイズに切って、擬態の身体で食べれるかを確認したのだが…


「やっぱり口に含めるだけで、喉に通す食道が無いから食べれないな。味覚もないから味も分からないし、食感と歯当たりぐらいしか分からないな」


 俺の口には唾液もないので、口の中でバラバラになるだけだ。

 口に含んだパンの欠片を何処かに吐き出そうと考えていると、レヴィアがキッチンに入ってくる。


「何を作っとるんじゃ?ワシも食べたいのう」


 俺は、頬に食パン屑を寄せて喋る。


「食パンだよ、一口サイズに切ったからいるか?」


 俺はパンをモグモグさせながらも答えるが、レヴィアの目は俺の口を見ている。


「なら、食べれない食パンをお主の口から頂こうかのう」


「ちょっと待て!俺がレヴィアに口移ししろと?」


「そうじゃよ!動くんじゃないぞ、カブトよ」


 俺の顔は瞬時に両手で固定され、レヴィアの口が近づいて来る。

 どう頑張っても力が強すぎて動けず、接吻を受け入れてしまう。

 レヴィアの舌が、口の中に侵入して来る。

 

 レヴィアは舌を器用に使って、口の中のパンをレヴィアの口に移していき、俺の唇を離した時には、自身の唇を舌をペロンとさせる。

 初めてのディープキスがこうなるなんて思いもしなかった俺は、顔が真っ赤だった。


「ご馳走様なのじゃ!久々に食パンを食べたが、良いフワフワじゃが、足りなかったのう。塩と砂糖かのう?」


 レヴィアは淡々と感想を呟いたが、俺はそれどころではなく涙目になる。


「俺の初めての口付けが、こんな形で奪われるなんて…」


「口の中を掃除しただけなのじゃが?まあ、カブトの初めての味は鉄の味に近かったのう」


「俺が鎧だからか…〈変幻自在〉で擬態しても、そこまで再現されているなんて…」


 恥ずかしいのやら嬉しいのやらで、俺の中では混乱していたが、涙目で料理を続けた。

 レヴィアは満足した顔で、口に手を当てながら、俺に「先に待っとるからの!」と声を掛けてキッチンから退出して行った。


「朝っぱらから…大胆だよ…」


 レヴィアの距離がどんどん縮まっていってる。

 俺は思考を後回しにして、フレンチトーストを完成させるまで手を動かす。


 食パンを10枚程切り分け、一口サイズで切り分ける。

 次にコンロで熱したフライパンに植物油を敷き、切った食パンを入れ、牛乳と一緒に卵を溶きほぐしてから流し込んで焼く。

 焼きあがったら、食器棚から皿を準備し、盛りつけた後に蜂蜜を掛けた。


「蜂蜜風味のフレンチトーストの完成だ!」


 心臓が無いのにドクンドクン跳ねてる感覚を落ち着けてから、リビングにフレンチトーストを運んで行く。

 俺の料理の香りでリビングに皆集まっており、絨毯にあるローテーブルの周りで座って待っていた。


「父様…これなに?」

 

 ナイアはきょとんと首を傾げていたが、レヴィアとナイアにフォークを渡しながら教える。


「それはな、フレンチトーストだぞ。ホットケーキより甘いと思うぞ!」


「今日は手が凝っている気がするのう!」


「ワフッ!」「ワンッ!」


 フロマとモルビエも食べたそうにしてたので、早速頂くとする。


「レヴィア、口の中の〈部分共有〉頼む」


「うむ。いつもより恥ずかしいのじゃ…」


 さっきの口移しした後だからか、レヴィアが口を押えながら頬を染める。


「フレンチトーストを頂こう!」


 皆、フレンチトーストを口に含む。


「じゅわふわ!甘い…幸せの味!」


「ワフッ!」「ワンッ!」


 余程美味しかったのか、俺は安心した。

 レヴィアは俺の隣に来て口を〈部分共有〉を発動させて、片手で髪を耳に掛けながらフォークで切り分け、口へ運んだ。


「いつもより甘いな。蜂蜜が多すぎたかもしれない」


「ワシは、これぐらいが美味しいのう!」


 レヴィアの口の中の味わいが分かるし、歯当たりと舌も共有されてるので、前より慣れたと思ったのに、おかしな気分だ。

 フレンチトーストは美味しいのだが、レヴィアのお陰で更に美味しく感じた。

 レヴィアが食べ終わる頃には、俺の頭から湯気が湧いていたとか。




 



 レヴィアと俺との距離がおかしい。

 食後に皿を〈洗浄〉した後、レヴィアはダンジョンの様子を見ていたのだが…


「ワシがお主に〈部分共有〉したんじゃから、ワシの言う事を一つ聞いて欲しいのじゃ!」


「ああ、なんでもいいぞ。レヴィアだけには悪いからな」


「お主、ワシの椅子のクッションになるのじゃ!」


「え…ちょ…」


 レヴィアに腕を掴まれ、ダンジョン運営している椅子をサイズ変更。

 椅子の座る部分が縦に伸び、深々と座れるようになった所に俺を座らせる。

 そして、俺の前から寄りかかり、レヴィアが俺の尻尾と互いに絡まる。

 完全に椅子に座りながら、俺がレヴィアに抱き着いてる図になっていた。


「ワシがカブトに甘えても問題ないじゃろ?」

 

「え?おう。恥ずかしいんだけど…」


「ワシの背中に、寄っかかってもええんじゃぞ!」


「時間が経てば、レヴィアが寄っかかってくるだろう…」


 俺とレヴィアの甘々な時間が流れていく。

 その間、カブトの中では、大胆過ぎると悶え続けていたが、レヴィアの場合は、距離が近過ぎるかの!?とお互いに恥ずかしさが増していくのだった。


 ナイアとフロマとモルビエは相変わらずラメルと一緒に居て、こっちに来る気配がなかったという。

 





「しばらくは、ダンジョンを見なくても平気そうじゃな!」


 レヴィアの声と同時に椅子から立ち上がった。

 俺はつぶされたクッション状態になっていたが、なんとか起き上がる。


「稽古に行く時間じゃぞ!カブトよ!その擬態のままやるのじゃ」


「気になっていたし、お願いするよ!」


「ナイアは付いてくるかの?」


「私も…行く!」


「今日もモルビエとフロマ留守番頼むぞ!」


 俺は、フロマとモルビエを優しく撫でた後、いつも通り、3人で〈階層転移〉をするのだった。




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