第22話 形見の刀と温泉
レヴィアの両親の墓で、挨拶として俺とナイアは両手を合わせて祈った後…
「そういえばの、刀から光った際に伝えたい事を残す仕掛けが組み込まれていての。その際にワシのお父さんが刀を託すと言っておったのじゃ!」
「そんなスキルが存在するのか!?」
俺は驚いたが、レヴィアが疑問に持った顔をする。
「詳しくは知らんのじゃが、死期が近づいた時のみに発動できると思っておる」
「そうか…レヴィアの両親の声が聴けたら、来て正解だったな」
「そうじゃの!さて、ワシの父と母の刀を貰っていくとしようかの」
レヴィアが刀に手を付けるが、俺は提案をしてみる。
「レヴィアが持っていくならいいけど、刀が無くなると寂しく感じる。代わりの物を交換した方がいいと思うんだけど、どうかな?」
「カッカッカ!確かにのう!なら、ワシの手持ちから」
レヴィアは異空間に手を突っ込み、勾玉と小刀を取り出した。
ナイアは気になる様子で見る。
「それ…何?」
「これはのう。ワシの父と母からの10歳の時のプレゼントだったのじゃ!数週間も経たぬ内に、ワシが記憶を無くしたから、ずっと入れっぱなしだったのじゃよ。形見の代わりなら、この二つが良かろう!」
「良いと…思います!」
「俺もそれで良いと思うぞ。安心して持っていけるんじゃないか?」
レヴィアは二振りの刀と勾玉と小刀を入れ替え、俺に刀を一本渡してきた。
「これは、お主が持つが良いぞ!ワシの父の刀じゃ!」
俺は手に持とうとすると、刀から凄く威圧された気がした。
「強い圧を感じる刀だな…」
恐る恐る触れて受け取るが、何ともなかった。
「ずるい…私も…」
ナイアは不満気な顔をしていたが、レヴィアはナイアを宥める。
「ナイア、すまんのう。帰った後に、カブトに木刀を作ってもらうかのう。スキルポイントが有り余ってるなら、ワシが保有する精霊樹のアイテム加工できそうだしのう!」
「唐突な無茶振りだけど、帰ったらナイアの分を作ってみるかな」
「父様…ありがとう!」
ナイアの不満を解決したので、レヴィアはナイアと俺の手を握り引っ張る。
「帰るとするかのう」
「そうだな!」
「うん…!」
レヴィア達は、両親の墓を離れる際、レヴィアは振り返る。
「どうかしたかレヴィア?」「母様…?」
「いや、気のせいじゃの!」
レヴィア達が墓標から立ち去った後、墓地で暖かく見守るレヴィアの両親の霊体が見ていたという。
◇
住み家近くの水辺に辿り着いた後、水着やパーカーが濡れてしまったので、俺はワンピース服を準備して、着替えてもらった。
レヴィアとナイアの濡れている水着とパーカーは〈洗浄〉して着れるぐらいに乾かして返しておいた。
水中に居た際は、冷たいなと感じながらも、俺は鎧なので、寒さで風邪を引く事は無いのだが、泳ぎ終わった後は、温泉に入るかシャワーでも浴びたいなと思い、俺はレヴィアに相談する。
「そういえば、温泉とかシャワーとかないのか?」
「ワシらは問題ないはずじゃが、欲しくなったのかの?」
「欲しい!稽古した後とか温泉に入りたい!」
「ナイアは…父様と母様と一緒に…温泉?に入ってみたい…です!」
ナイアは、温泉と言うものを理解していなかったが、レヴィアは同意する様に首を縦に振った。
「カッカッカ!分かっておるのう。それならば断われないのう!」
「凄く嫌な予感がするんだが」
レヴィアは凄く上機嫌になり、温泉に入浴する事が決まってしまう。
「ワシは、温泉を作る為に、先に戻っておるからの!」
「父様…温泉楽しみだね?」
「おう、そうだな…」
鎧でも温泉に入っても大丈夫なのかと思うが、〈変幻自在〉を使ってれば大丈夫だろう…たぶん。
水中に浸かっていても沈まなかったから大丈夫であろう。
俺は対策として、バスタオルを早急に作る。
〈異空間収納〉から長毛種の羊毛を取り出して作り始めた。
ナイアは不思議そうに見てきた。
「父様…何か作るの?」
「温泉に入る為の身体を洗ったり拭いたり隠したりするタオルを作るんだよ」
それを聞いてナイアは、俺の耳元で囁いた。
「ふーん…裸になるんだ。父様のエッチ…」
「っな!?ナイア!そういう事は言っちゃ駄目だぞ!」
「父様…顔真っ赤っか?」
ナイアは凄く棒読みだった。
「レヴィアが教えたな…全く…」
俺は呆れながらも、バスタオルと体を洗う用と体を拭く用のミニタオルを数日分作り終えた後、ナイアの分のスポーツ下着とパジャマとタオルを渡す。
「タオル…ふわふわ…!服も…新しい!」
「ナイア!今日は温泉に入った後は、俺とレヴィアと一緒に寝てあげるからな!」
「うん…!」
ナイアは自身の〈異空間収納〉に服を入れ、俺と手を繋ぎながら住み家の入り口へ足を進めるのだった。
◇
住み家に入ると、ナイアはダンジョン運営しているスタイルをしており、夢中でダンジョンモニターを見てキー操作していた。
入ってくるのも気づかない程だったので、フロマとモルビエが一緒に居るカプセルに入ったラメルに小さく「ただいまっ」と声を掛ける。
ナイアと共にフロマとモルビエをナデナデした後、レヴィアの方に目を向けたが、邪魔するのも駄目だと思い、クッションでナイアと一緒に寛ぐ。
「今日は色々な事があったな、ナイア」
「うん!三人でまた…お出掛けしたい!」
「そうだな。ヨシヨシー」
「えへへ…」
俺の姿は、ナイアより少し大きいお兄ちゃんっぽい気がする。
ナイアの体温も感じるられるし、改めて自分が不思議な存在だなと感じた。
自分の子は良いなと思っていると、レヴィアが「出来たのじゃー!」と声を上げ、此方に声を掛けて来る。
「余った階層に露天風呂を設置したのじゃ!早速じゃが、ワシと共に温泉行くのじゃ!」
「おう!フロマとモルビエはどうする?」
俺はフロマとモルビエに声を掛けるが、ラメルに対して親心が湧いた様で、動かなさそうだった。
「ふむ。それならば、フロマとモルビエは、ラメルを引き続き頼むのじゃ!」
「ワフッ!」「ワンッ!」
レヴィアの言葉を聞いて返事が返ってきたのでラメルを任せる。
「レヴィア、ナイア!温泉に行こう!」
「うむ。ワシの手を掴むのじゃ!」
「うん…掴んだ!」「俺も大丈夫だぞ」
「では、〈階層転移〉じゃ!」
視界が一瞬で移り変わると、湯気が漂っていた。
温泉の硫黄の香りは無かったが、白いお湯が流れており、広々な森に浮かぶ露天風呂だった。
俺はその光景に驚いた。
露天風呂の温水プールと言っても過言ではない。
「凄いな…広すぎて奥の森まで見えるぞ」
「広すぎたかの?泳いで遊べると思ったので、つい広くしちゃったのじゃ!」
「母様…湖を温泉に…作り変えたの…?」
「そういう事じゃの!」
「魔獣の類は、どうしたんだ?」
「魔獣共は此処には居らんぞ。温泉に入る為の専用の階層じゃよ!」
温泉を作る為に、専用の階層を作ったのを聞いて俺は驚き、ナイアは目を輝かしていた。
「どうしたかの?ワシが凄すぎて黙り込んでしまったかのぅ?」
「ああ、それほど驚いたよ!レヴィアありがとう!」
「母様!これ…凄い!」
俺は嬉しくてレヴィアに抱き着くと、俺の真似をしてナイアも抱き着いて来る。
「これこれ。カブトにナイアよ。落ち着くと良いぞ!」
レヴィアは顔を赤くしながら俺を離した。
「ごめんごめん。でも異界ではこんな広い温泉じゃなくて狭い部屋の温泉だったからな。人生で初めてだよ」
「早く…温泉に入りたい!」
「二人に喜んでもらえて、良かったのじゃ!」
「そうだ、着替えと温泉用のタオル作っといたから、レヴィアに渡しておくよ」
俺は〈異空間収納〉からパジャマとスポーツ下着とタオルを渡しておいた。
レヴィアはそれを見て、下着を見つめている。
「お主、もうちょっと色気のある下着は作れないかのう?昔そういうお店に行ったことがあってのう」
「女物の下着は専門外だから我慢してくれ」
「父様が…変態になっちゃう…」
「ナイアもレヴィアが教えた言葉を言うんじゃない」
「はぁい…」
俺は、温泉に着替え場所が無い事に気になり、レヴィアに聞いてみる。
「そういえば、更衣室とか作ったのか?」
「そんな所は、ないのじゃ!」
「ハハハ…そうだよな…知ってたよ」
「早速、服を脱がすのじゃ!カブトを脱がすのを手伝うのじゃ!」
「うん!…手伝う!」
レヴィアとナイアは、同じ手の仕草をしながら俺に襲い掛かろうとしていた。
(どうすればいいんだ…もういっそのこと、降参するか…)
俺は仰向けに大の字になった。
「降参だ!」
レヴィアとナイアはつまらなそうな顔をしていた。
「なんじゃ?いつも通り抵抗せぬか。ノリが悪いのう」
「…母様…先に入ろう」
「あんな奴ほっといて先に入るかの!」
レヴィアとナイアは、離れた所まで移動していった。
予想外の展開になり、一安心したのだが、置き去りにされた俺は、逆に寂しい気分になってしまったという。
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