第21話 深海に沈む孤島と墓標
レヴィアの生まれ育った孤島を泳ぎながら水中上から見ていた。
ドーム状の空気膜を貼りながら沈んでいる孤島を前に、俺とナイアは驚いていた。
「こりゃあ、島ごと沈んでいるんだな。改めて異世界って凄いって思うぞ」
「島を包んでる…空気が凄い!…母様が生まれた時は…この深海だったの?」
「たぶん、そうじゃったと思うのじゃ。もう二千年も経つのか、早いのう」
「二千年って…レヴィアはそのぐらいの年なのか?」
「お主!年齢を気にしてるのかの!?」
「悪い悪い、どのぐらいの年月が経っても、俺の気持ちは変わらないから安心しろ!」
「それなら、良かったのじゃ。お主もそのぐらい生き続ける覚悟をするのじゃな、カッカッカ!」
「レヴィアのレベルに追いつくまで、それ位だろうな。ハハハ…」
「父様も頑張るなら…私も…頑張る!」
「ナイアの場合は、巣立ちしてるかものうー」
レヴィアは、ナイアと移動しながら答える。
孤島の反対側に向かいながら、何か探している様子だった。
「さて、風化して朽ちてなければ良いのじゃが…」
「随分と村らしき所は朽ちてたなぁ。孤島の裏側か?何かあるのか?」
「ワシの舟屋じゃよ」
「海底の孤島に舟屋?陸地でもないのに?」
「不思議に思うのも無理はない。ワシも未だに不思議なのじゃよ」
「レヴィアも分からないなら、しょうがないな」
更に泳ぎ進めると、舟屋が一つポツンと建っていた。
ナイアが指を差しながら教えてくれた。
「見て!あれ…母様の家?」
「そうじゃよ!目的地に到着じゃな!」
「空気膜の内側に入って平気なのか?」
「ワシの親がそうしたらしいからの。平気じゃよ!」
「アメモが!?凄いな!」
「ぬっ?アメモって誰じゃ?」
「遊戯の神の名前だぞ?長くいるのに聞いてないのか?」
「なんと!?お主には教えてくれたのかの!?何で今まで言わなかったんじゃ!」
レヴィアは俺の首元を掴み揺らされていた。
「母様…父様が苦しそう…」
ナイアが止めに入ってくれたお陰で、俺は目が回っていた。
「ハァ…ハァ…助かった。ナイアありがとう。レヴィアは、何で親の名前を知らないのかは知らんが、そんなに重要な事だったのか?」
「ワシは、遊戯の神の前で生まれてから数カ月もしない内に、使命を任せられた後、ずっと一人だっだのじゃよ。何処かに去る前も名前を聞けず仕舞いじゃよ」
「何か事情があったのかは知らないが、知られたらいけない事だったのかな」
「ワシにも分からん。ただ、ワシが気付いていない事があるのかもしれん」
「じゃあ、舟屋で何か残ってるか探してみるか!」
「そうじゃな!」「私も…気になる…!」
俺はナイアとレヴィアと共に降下しながら、舟屋近くまで泳いで向かうのだった。
◇
舟屋近くの空気膜に到着した後、俺とナイアは空気膜に向かって、恐る恐る中へ入ろうと試みている。
「そんなに恐れとらんで、早く入るのじゃ!」
「だって、破れたら怖いじゃん。ナイアも同じ気持ちだよな?」
「うん。ちょっと怖い…」
「しょうがないのう。ワシが先陣を切るのじゃ!」
レヴィアは躊躇なく入っていくが、ポヨンポヨンと跳ね返りながらも普通に空気膜を抜けた。
「ほらの?平気じゃ!さっさと入り!」
「ああ、大丈夫そうだな」
「父様…行こ!」
ナイアに手を引っ張られながらも俺は空気膜を通り、浜辺に降り立つ。
水着の恰好をしているので、俺は〈異空間収納〉から俺の分を含む、シップパーカー三着分を取り出し渡した。
やっぱり似合ってるなと思いながら、ふと思い浮かぶ。
「入ったら何か起こるのが、定番だと思ったんだけどな…」
「何を阿呆な事を言っとる。舟屋に行くのじゃ!」
「父様…きっと舟屋に何か…あるはず!」
「ああ、そうだな!行こうか!」
俺達3人は舟屋に辿り着く。
舟屋は崩れかけているが、何とか原型を保っている。
中は危険そうなので入れ無さそうだ。
「懐かしく感じるのう。小舟も残っとるし…乗った記憶もないんじゃよなぁ」
「レヴィアの父親が使ってたとか?」
「一度も会った記憶もないのじゃが、ワシの親が作ったお墓があるのじゃ」
「そっか。なら行ってみよう!」
「私も…賛成!」
「そうじゃな。久々の帰省じゃ!報告も兼ねるかのう」
レヴィアの後に付いて、墓標の方向に歩いて行った。
墓標に辿り着くと、巨大な墓石と刀剣が2本あるお墓だった。
その刀剣は祭られた様に、置かれている。
「立派なお墓だな!刀剣も朽ちてないし何か施されてるのか?」
「ワシも分からんが、刀剣には触らない方が良いと思うぞ」
「そうだな。レヴィアの親のアメモが建てたなら、触らない方がいいな」
俺は、墓の剣を取るのは、罰当たりな気がするのでレヴィアに同意した。
ナイアはその刀を見つめ、何かを感じ取った様子をしている。
「あの刀…なんか不思議な力を感じる…母様に近い…力かな?」
「ふむ、ナイアが気になるとはの。なら祈ってみるかの」
レヴィアは、帰省報告として、2本の刀剣が刺さってる所に手を合わせて祈る。
すると、刀剣は眩しく光始める。
レヴィアは、そのまま微動だにしなかった。
『レヴィア…立派に育ってね…最期まで一緒に居れなくてごめんね…』
『レヴィアの成長した姿が見れないのが残念だ。帝国は滅ぼしといたから安心しろ!アメモの賭けには負けちまったが、お前は負けるんじゃねえぞ!レヴィアが聞いている時には墓にあると思うが、俺とシルヴィの刀を一本ずつ託す。じゃあなレヴィア!ガッハッハ!』
カブトとナイアには聞こえていなかった。
「レヴィアに反応したのか?」
「眩しい…」
少し経つと輝きが消えていったが、レヴィアの方に目線を戻すと、座り込んで涙を流していた。
俺はレヴィアに声を掛けた。
「レヴィア大丈夫か?何かあったのか?」
「母様…大丈夫?」
俺とナイアの声で、反応が返ってくる。
「母と父の声を聞いたのじゃ…思い出したのじゃ。此処は本当の親が眠る場所じゃ。何で今頃なんじゃ…刀にワシの想いなど残しおって…刀は扱えぬわ…」
俺はレヴィアを優しく背後から抱き締めた途端、更に泣き始め、ナイアも横から抱き締める。
数分後には、レヴィアは落ち着きを取り戻し、俺とナイアは離れた。
「本当の親は此処で眠っていて、アメモは育ての親って所か…」
俺がそう言うと、ナイアは何かを思い出した様な反応する。
「母様と父様が出会い…話をしてくれた時…頭痛がしてたって…言ったよね?」
「…確かに、カブトとの出会い話をしている時に言ったのう」
「俺が眠っている間に話したなって気にしてる場合じゃないな。俺が察するに、辛い記憶を消したんじゃないか?」
「たぶんそういう事じゃな。ワシが当時舟屋に隠れている間、帝国軍に攻め滅ぼされたのじゃが、一族の仇を取ったのがワシの父親じゃ。埋葬したのは、アメモじゃろう」
「これもアメモの悪戯っぽいなぁ。ナイアが偶然にも3人で出掛けなければ気付かなかったな。お手柄だぞ、ナイア!」
「そうじゃぞ。親子3人で見せに来られたんじゃ!ワシの親も本望じゃろう!」
「…えへへ!」
俺とレヴィアはナイアを撫でて、感謝した。
レヴィアは、アメモの名前を知っている事に疑問を持ち、俺に話しかける。
「そういえばの、ワシの父がアメモと賭け事をしたと言っておったのじゃが、カブトは賭け事はしとるかの?」
「レヴィアに言ってなかったな。夢の中でアメモと話す機会があったんだけど、その際に身体を作ってもらう約束したなぁ」
「カブト!!そういう事は早く話さぬか!アメモに賭け事を申し込んだと同義じゃ!負けた時の詳細を聞いてないとか無いじゃろうな!?」
レヴィアが俺の襟を掴んできた。
「そうだった。聞いてない…でもアメモが俺の人生に満足したら勝ちって言ってて、俺が死んだら負けって言ってたんだよな」
レヴィアは察して、身体を震わせながら怒ってる。
「賭け事を負けた対価は、お主じゃ!死んだらアメモと永遠に一緒って事じゃ!死ぬのは許さぬぞ!」
「父様…負けちゃ…嫌!」
レヴィアは、ナイアと一緒に俺に訴えてきた。
アメモならあり得そうな話だし、レヴィアの育ての親と永遠に居るのは、流石に嫌だな。
「分かってる。負けるつもりは無いし、レヴィアとナイアを残して先に逝くのはごめんだ!」
「それでこそ、ワシの婿殿じゃ!アメモに勝つぞ!」
「父様の為に…私も頑張る!」
そうして、レヴィアの親の墓前で、3人で決意を固めたのだが、レヴィア達を霊体になっても見ている者がおり、俺達には、その存在を捉えられる者はいなかった。
『幸せそうね…レヴィア…思わず笑みが零れるわね』
『そうだな!ガハハハハッ!』
シルヴィとサーファは、レヴィア達の姿を暖かく見守っていたという。
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