第20話 孤島の昔話




 時を遡る事、二千年前…

 水龍人は、孤島で主に漁業を営んでおり、漁業権の海域範囲を帝国側に広く使ってもらって仲を取り持っていたが、争いが絶えない世界だった。


 その孤島では、レヴィアが生まれ育ち、漁村の反対側にあるひっそりとした舟屋で、レヴィアの家族は、住んでいた。

 母のシルヴィは、村長の娘であり、ふくよかな美女。

 父のサーファは、ムキムキな筋肉を持っており、村一の侍だった。


「お母さんっ!今日はお父さんと魚取って来る!」


「行ってらっしゃい!気を付けるのよ?お父さんの言う事を聞くのよ?」


「はぁーい!」


「じゃあ、行ってくるよ!シルヴィ!」


「行ってらっしゃいサーファ!レヴィアの事頼むわよ」


 シルヴィは、舟小屋から手を振りながら見送り、サーファと共に、漁船に乗って海へ出た。

 サーファは、船の後頭部で大きなパドルを動かし、沖に着くまで漕いでいる。


「今日は何が掛かるかな?お父さんなら、クラーケンも捕れる?」


「水龍に変身できる村長なら行けると思うが、俺は無理かな。はっはっは!」


「笑ってないで!そろそろ沖に出るよ!」


 穏やかな海の沖に出た後は、下斜めの方向に手から〈ポンプ〉を発動し、船の速度を上げた。

 魚群が多い地点の長い道のりを短縮する為に行っている。

 その漁船は強い風を当たりながらも前に進む。


「楽し―!潮風が気持ちいー!」


「レヴィア!手を離すなよ!離したら海に落ちるぞ!」


「しっかり掴まってるから大丈夫!」


 波のしけも穏やかであり、絶好の漁日和だった。

 

「この地点だな。段々と速度落とすぞー!」


「はーい!餌を蒔く準備しとくね!」


「ああ、頼む!」


 船の進みが完全に止まった後、レヴィアは直ぐに瓶から小エビを取り出し、海に蒔いた。

 自家製のエビ餌を蒔いてから、網を放り込み、引っ張り上げる繰り返しを行い、大量の魚が獲れていたが、いつもより異常だった。


「今日は異常な程、魚が獲れるな…何処かの国の船でも通ったか?」


「お父さん、いつもより大漁に獲れたら駄目なの?」


「いや、悪い前兆でなければいいんだが…そろそろ戻ろうか!」


「うん!大漁だからお母さん喜ぶよ!」


 サーファは浮かない顔をしていた。

 気にしていないレヴィアは、母シルヴィのご飯を楽しみにしていたのだが、孤島に船着していた大きな船が見える。


「お父さん、あれ何・・・?」


「あれは、帝国の軍船だな。珍しいな…ん?」


 サーファが察知した瞬間、ドカーンと大きな音を立て、爆発を起こす。

 黒い煙がモクモクと上がっており、緊急事態な状況と理解する。


「お父さん!村は大丈夫かな…?」


「村長は強いから、大丈夫なはずだ。心配するなレヴィア!」


「うん…そうだよね!お母さんの所に早く戻ろ!」


「ああ、速度上げるぞ!〈ポンプ〉!」


 船小屋に着いた後、家の中を確認した。


「シルヴィ!いるかー!?戻ったぞー!」


「お母さん何処にいるのー!」


 家中を探したが、シルヴィは見つからない。


「…村長の家に向かったか」


「お父さん、どうするの!?」


「俺は刀を持って、漁村に行ってくる。レヴィアは船屋の屋根裏に隠れて居るんだ!」


「…お父さん戻って来るよね?」


「戻るつもりでいるが、もしも俺とお母さんが戻らなかった時は、この家の物を持って逃げなさい。今のレヴィアなら、海中へ泳いで逃げれるはずだ」


「うん…絶対戻ってきてね!じゃないと、村一の侍が廃れるよ!」


「ああ、お父さんに任せておけ!」


 サーファは、刀を手にした後に、村へ向かい足を進める。

 数刻後に漁村へ到着すると、水龍に形態した村長一人と帝国軍が戦闘中だった。


「貴様ら!何をしでかしたか分かっておるのか!?生きて帰れると思うな!!」


「水龍がぁ!!お前らとは慣れ合えなんぞ御免だ!!打ち獲れええええ!」


 軍騎士長と副官を含む、他多数とシルヴィの父である村長が激闘を繰り広げていた。

 サーファは刀を持って、村長の助太刀に入った。


「お義父上、助太刀致す!」

 

「サーファか!よく駆けつけてくれた!此方の助太刀は間に合っている。それよりもシルヴィの所に行け!随分前に軍に連れて行かれてしまったぞ!!!此方は抑えている故、シルヴィを頼む!!!」


「なんだと!?あの軍船か、追いかける!」


「蜥蜴モドキが、行かせねえぞ!」


 サーファは、闘心を燃やし蒼い炎を纏った。

 立ちはだかった騎士に向け、刀に手を携え、足の進む速度を上げていく。


「俺は怒っているんだ…邪魔しないで頂こう。押して参る…水龍抜刀術〈水龍斬〉!」


「お前…なに…を…」


 騎士の一人は、胸から腰にかけて斜めに崩れ斬れた。

 

「あいつやべぇな。こっちに来ないならこっちの戦闘に集中するぞ!あいつは後回しだ!」

  

 サーファは、その場を後に軍船の方向へ走る。

 通る道は炎に包まれており、男性や老人の死体ばかり。


 船着き場に到着した時には、裸吊りにされて、血だらけの状態の女性や子供が多数おり、暴行を負わされた人で溢れかえっていた。


 見るに耐えない光景の一人に、刀を持ちながら倒れている姿のシルヴィが目に入る。


「シルヴィ!!!生きているか!?」


 微かに息をしていたが、死期が目に見えていた。

 身体を抱きかかえたが、シルヴィの口が微かに動いていた。

 何かを伝えようとしている様子、サーファは口に向けて、耳に近づけた。


「サーファ…ごめん…なさい…」


 謝罪の言葉だった。

 咄嗟に安心させる言葉を掛ける。


「任された。…仇は必ず打つ!」


 シルヴィがサーファに微笑み、それを答えるかの様に、サーファは手を強く握り、微かな握り返された後、シルヴィは腕をダラっと刀を落として息絶えた。

 その後、静かな怒りの蒼い炎が体中から溢れ出したが、何とか抑える。

 自身の上着を脱ぎ、シルヴィの亡骸を巻いて彼女の刀を携え、シルヴィを誰にも見られない所に運び置いた。

 軽く手を合わせてから、その場を後にする。


「シルヴィ…村の皆…すまない…後で弔う」


 サーファは怒りのあまり、体中から溢れ出る蒼炎を解放した後、人型を保ったままの半龍化を遂げ、異常な力を持つ化け物へ変貌する。


「軍船は沈める。肉体が強化された今なら、村長の水龍斬撃術を真似できるかもしれんな!」

 

 軍艦の近場に辿り付いた後、怒りの矛先を刀に集中し、天高く刀を構え、軍船に向けて振り下ろす。

 放たれた斬撃は見事に軍船を真っ二つに割る。


「これ程までの斬撃になるとは…まだ残党がいるな。皆殺しだ」


 斬撃で切れた軍船からは、逃げ惑う雑魚ばかり湧いた。

 怒りのあまり、猛獣の様に追いかけ、軍の兵を皆殺しにし、体中が返り血で染まる。


「残りはもういないな…村長の所へ…」


 サーファは、水龍人の生き残りがいないか探しながら、村長の方へ足を進める。

 その道中では、共に成長した親友さえも、首を撥ねられたまま死んでいた。


 悪い予感がよぎり、村長が死ぬはずが無いと足を更に進め、村長が居た場所へ戻ると、水龍の亡骸上に先程の軍騎士長と副官が、二人で称え合っていた。

 その姿に我を忘れて、静かに襲い掛かる。

 気付いたときには、二人の首を切り落とし終わり、収束を迎える。


「残ったのは、俺だけか?今からレヴィアの所に行っても、怖がられるだけか…。なら、俺は皆を弔った後、すぐに復讐の為に帝国へ赴くしかないな。戻れない事を許してくれ」


 サーファは、一人で呟いていたが、後ろで聞いていた女が一人いた。

 

「ボクがレヴィアちゃんの面倒を見てあげるよ!」


「どこの者だ…」


 サーファは後ろを振り向くと、遊戯の神であるアメモが居た。

 

「そう警戒しないで!ボクも帝国の事にウンザリしてたんだ!」


「お前のヘラヘラした顔が、信用ならんな…」


「おお!怖い怖い。けど、ボクの力の一端を特別に見せてあげる。ボクが天に手を上げて握ると!此処は、海底だよね!」


 不敵な笑みを浮かべたまま、彼女は呟く。

 気付けば、孤島が空気の膜で囲まれており、海底に転移していた。

 

 サーファは、神の御業を目撃し、彼女を神だと信じてしまった瞬間だった。


「お前は、神なのか…?頼む!!皆を生き返らせてくれないか!!!」


 サーファは必死にアメモに言い寄る。

 だが、困ったような顔をする。


「ボクはね、本来干渉できない立場なんだけど。君が命を賭けてゲームをするならいいよ!」


「俺の命一つでいいのか。どうすればいいんだ?」


「君はボクの気に入らない帝国を滅ぼしてくれたらいいよ!その際、君が生き残っていたらの話だけどね!君が死んだら、レヴィアちゃんをもらうからね?」


 アメモは、優しく微笑んでいた。

 不気味な程に…


「ああ…俺が死んでもレヴィアの事を見てくれるのか…ありがたい…」


「約束するよ!けど、君は死んだら負けだからね?」


「分かった。受けて立つ。俺はサーファと言う。お前の名前は…?」


「遊戯の神のアメモだよぉ!宜しくー!契約成立だ!」


 サーファは、亡骸を数日掛けて集め、水龍人の墓が集まる場所へ弔った。

 その隣にはアメモがずっとくっついて来ていた。


「君はすぐ帝国を滅ぼしたい?」


「ああ、出来るならすぐにでも」


「じゃあ、ボクからの餞別は、サーファ君を帝国の王城前の転移させる事かな!」


「ありがとう、助かる。レヴィアの事を頼む」


「うんうん!ボクは、帝国の上空から見てるからね。応援してるよ!じゃあ、転移しようか」


 サーファは、アメモの指パッチンの音と共に転移する。


「いきなり王城内の庭か…。綺麗な花が咲いているが、俺に向けての花束ってところか…アメモありがとよ」 


 声が届いているか分からない呟きをした後、半龍化をし、王城に向けて刀の鞘と柄を掴み、最初の初撃を放つ。

 放った斬撃は一族の恨みと共に放ち、帝国城を斜めに切り落とし半壊させる。


 サーファは、帝国城へ突撃して、慌てふためく騎士達を片っ端から切り落とし、生き残っていた帝王の首を打ち取し、滅ぼす事に成功する。

 半龍化の反動により前のめりに倒れて力尽きたサーファは、帝国城外から来た軍により、背中を多数刺され死亡してしまう。

 その際のサーファの顔は、満足気だったという。


 打ち取られたサーファの死体は、いつの間にか跡形もなく消え去ったという。

 他国へ逃げ、生き残った帝国軍人からの証言により、国々からは龍刀神として称えられていったという。





 海底に沈んだ孤島にて、レヴィアが育った舟屋の近くにお墓が建てられていた。

 2本の刀が刺さるお墓の前で、遊戯の神アメモは呟く。


「サーファ君は、ボクの賭けに負けてしまったね。帝国を滅ぼしてくれたのは感謝するけど、契約だから…レヴィアちゃんは頂くからね。今から2000年後の未来が楽しみだねー!様々な分岐が起こりそうだけど、ボクが手を加えればいいかなー!」

 

 アメモは思い出した顔をしながら呟く。


「そうそう、サーファ君は、龍刀神として各国から崇められていたよ。君のエンディングは、ボクにとって娯楽だったけど…って死人に語ってもしょうがないよね!」


 アメモが墓標に背を向けて離れようとした時、刀は少し輝くのを見逃さなかった。


「ふぅーん。君たちの刀に魂魄の転写されたと。君をボクの駒にできなかったのは残念で仕方ない。レヴィアが此処に来て、祈らない限りは永遠に気付かなそうだ。これも一つのイベントになるかな!フフフッ」


 アメモは未来で何を見たのか、遊戯の神以外、誰も知る由もないという。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る