第12話 ホットケーキと甘い味




 食材を準備する俺は、レヴィアに質問をした。


「このキッチンを使用する上で、スキルとか必要か?」


「ワシは、料理した事ないから分らんのう…」


「少しでも美味しく作れるなら、スキル取りたいんだけどな…」


「ふむ…昔の話じゃが、ワシのダンジョンを拠点に作られた王国があっての。亡びる前に、レストランに行ったのだがのう。その際にシェフが、〈調理師〉のスキルを持ってるとか言ってたかもしれんのう!」


「さらっと怖いこと言ってるんたけど…〈調理師〉か…〈調理師〉をスキル取得!」


「良かったのか!?そんな簡単に取得しよって!」


 レヴィアは、とても驚いた顔をしながら詰め寄ってきた。

 昨日の稽古で俺のレベルが上がり、スキルポイント有り余っていたので、平気な顔して答える。


「スキルポイントが増えていく一方なんだ。レベルが上がったから200ポイント以上あるぞ!」


「なんと!?スキルポイントは本来、レベル1上がる毎に1しか上がらんのじゃぞ!?」


「本当だって!ステータス見てみるか?」


「この目で確認するまでは信じないからの!」


 俺は両手の平をレヴィアに向けながら、ステータスを見せた。


【黒兜】


 種族:守護鎧ガーディアンアーマー

 レベル:11/100

 耐久:6100/6100

 攻撃力:0

 防御力:7200

 魔力:610

 俊敏力:610

 幸運値:10000

 マナ:7000/7000


 スキルポイント:232

 スキル:〈変形装着〉〈解除〉〈並列思考〉〈憑依〉〈自己修復〉〈自動マナ回復〉〈防御力増加〉〈軽量化〉〈分裂〉〈スキル熟練度UP〉〈経験値増加〉〈スキル図鑑〉〈意思疎通〉〈水中歩行〉〈水中呼吸〉〈従魔契約〉〈従魔召喚〉〈眷属召喚〉

 スキルレベル:〈マリオネット〉Lv10、〈浮遊〉Lv10、〈危険察知〉Lv5、〈マップ探知〉Lv10、〈鑑定〉Lv5、〈異空間収納〉LvMAX、〈解体〉Lv5、〈裁縫〉Lv3、〈調理師〉Lv1

 称号:自我を持つ鎧、転生者、宝箱もどき、引き籠り、慎重派、弱肉強食、狼の長、水龍の加護、水龍に愛されし者、水神の眷属の父親



 そういえば久々に、自身のステータスを見た様な気がする。

 進化してから幸運が一番上になったけど、レベルを上げても変化が無いので、何の恩恵があるか分からない。

 成長すれば、防御の方が上になるだろう。

 俺は、じっと見続けているレヴィアに声を掛けた。


「レヴィア、納得してくれたか?レヴィアさん・・・?」


「んぐ!?…ああ、まったく!面白いステータスしとるのう!」


 レヴィアの顔が真っ赤だった。


「大丈夫か?クッションで休んでた方がいいんじゃないか」


「そうさせてもらうのじゃ…ホットケーキを作った後で、二人きりで話そう…」


「ああ、分かった」


 レヴィアはフラフラと足を進めながら、キッチンから出て行った。

 

 俺のステータスを見て何かあったのか?

 称号の方を見てた気がするけど…ああ、そういう事か。

 もしかすると、水龍に愛されし者という称号かもしれない。


 …え?あ…。そういう事…?しっかり言わないと駄目だよな…


 俺は顔を赤くしながら、ホットケーキを作り始めたという。




 



 俺は〈調理師〉を発動しながら、両手にマナを集めて〈裁縫〉の容量と同じ様に、透明な両手を作り出し、ホットケーキの生地を作る。 


 材料は簡単、キッチン台に小麦をローラースティックで、なるべく粉々にして小麦粉を作りボウルにまとめ入れる。

 卵と牛乳はあるので、この材料をボウルに混ぜていく。

 膨らみを良くするには、重曹で代用して軽く混ぜた後、ボウルの中で出来た生地を皿の裏で蓋をしておいて、その間にフライパンを熱しておく。

 フライパンが十分温まったら、〈異空間収納〉にある植物油を引いて、焼いていく作業だ。


 俺が今使った食材は、草食系の魔獣から〈異空間収納〉内の〈解体〉により出たアイテムだと思う。

 コカトリスも居たし、魔獣が食べた物を〈解体〉によって、綺麗な食材になったんだと思う。

 細かい事は想像しないでおく。

 ダンジョンで倒すと、本来ならドロップするのかもしれないが、俺が倒した場合は、丸々残っていたので謎だ。

 幸運値に関係あるのかもしれないなと思いながら、ホットケーキ作りを進めた。


 〈調理師〉のスキルが無ければ、小さい体で苦労していたことであろう。

 生地の粘り気で混ぜられないし、ボウルを抑える手もない。

 生地をフライパンに流し入れた後に、ひっくり返せない。


 そう思いながら、両手でマナを操作して、フライパンに生地を流して焼いていく。

 最後に、生地を皿へひっくり返した。残りの生地であと7回繰り返す。

 

「これでホットケーキの完成だ!」


 前世で思い出す。

 俺の誕生日の時は、いつもお祖母さんが作ってくれた。

 小さかったから食べきれたけど、こっちでは分厚く手大きいパンケーキで平気だろう。

 食べきれない場合は〈異空間収納〉しようと思った。







 レヴィアとナイア、フロマとモルビエの分を皿に分ける。

 俺は人形なので、皆の笑顔で十分だ。作り甲斐があるってもんだ!


「おーい!皆の分のホットケーキ出来たよー!」


「できたかの?机に準備しといたぞ!皆で早う食べるのじゃ!」


 俺は準備されていたテーブルの上に、マナを用いて五人分の皿を運び置いた。


「これがホットケーキかの?」


「父様…これで完成…?」


「ナイアは、察しがいいな。今仕上げる!シロップはないので蜂蜜だ!」


 トロ―リかかる蜂蜜を見て、レヴィアとナイアはキラキラ目だった。

 バニラアイスがあれば良かったけど、冷蔵庫と魔法スキルが俺には無いので…

 今回は素直に諦めます!


「ワフッ!」「ワンッ!」


「フロマとモルビエも待ちきれないか!それでは、頂こう!」


「皆待て、お主の分が無いではないか?」


 レヴィアは少し考え込み、思い付いた様な顔をした。


「人形だから食べれなくないか?遠慮せずに食べてくれ!」


「分かった、ワシが何とかする!皆は食べて良いぞ!」


「うん、食べる!」「ワフッ!」「ワンッ!」


 ナイアはフォークで器用に切って口に運び、味わって食べていた。


「フワフワ…甘い…!美味しい…!」


 フロマとモルビエはあっという間に完食しており、ナイアは、自身のペースで食べている様子だった。


 レヴィアは口に〈部分共有〉を使って、フォークで一口サイズに切り、ホットケーキをゆっくり口で頬張っていた。

 その共有が、俺にもふわふわな感触と味まで伝わってきた。


「なるほどの。これは本当に美味しいの!カブトよ!」


「ああ、本当に美味しいよ!〈部分共有〉をしてくれて、ありがとう…!」


 俺は今世でも、ホットケーキの味に感動していた。

 ニ度と味わえないと思っていた味に、目から涙が溢れる。


「なーに泣いておるのじゃ、カブトよ?」


「嬉しくて…美味しくてだよ!」


「ほれ、こんなことも出来よう!カブト口を開いて、あむっとするのじゃ!」


自身の作った布で涙を拭いた俺に向けて、レヴィアはフォークの上に乗ったパンケーキを落ちても平気なように左手を添え、俺の顔に向けてきた。


「…あーむ!!え…?あっ…甘い…」


 俺が食べようとしたホットケーキが、レヴィアに食べられてしまったが、味と感触が伝わってきた。

 悪戯されたはずなのに、別の意味で2度美味しい。


「モグモグ。ワシが食べても口の〈部分共有〉でお主と同じ…じゃよ!」


 レヴィアはニヤケ顔だったが、俺は笑顔になる。


「また作るから、その時も…お願いする!」


「うむ。お主と〈部分共有〉で食べるのは美味しいからの…」


 その後すぐに、レヴィアからボフンッ!と音が鳴った気がする。

 いつもより甘い気がするのは、気のせいだろう…きっと。

 






 食べ終わった後、俺は皿を回収し、新たに取得した〈洗浄クリーン〉で皿を綺麗にして、棚に戻した。

 食べた後なので、フロマとモルビエに挟まれてナイアは眠っている。 


 俺は大きなクッションの上で、真っ赤な顔を手で隠すレヴィアに声を掛けた。


「レヴィア…後で話しをしようと言ってたけど、今からで大丈夫か?」


「ああ、平気じゃよ…一緒に外の空気吸わんか?」


「わかった。行こうか」


「カブトよ、ちこう寄れ…」


 俺がレヴィアに近づいた瞬間、人形の身体を持っていかれた。

 レヴィアの腕の中に優しく抱き締められながら、玄関ドアを開き、外へ出て行くのだった。



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