第11話 贈り物とキッチン



 俺は…クッションから起き上がる。

 それを見計らって2匹の狼が顔を擦り寄せてきた。


「フロマ、モルビエおはよう…ふわふわだぁ…」


 俺はモフモフを堪能した後、目線を変えると、他のクッションでレヴィアがナイアを撫で途中のまま眠っていた。


「ああ、レヴィアの稽古を受けた後、俺は気絶しちゃったんだっけな…もっと成長しないと。ナイアが作ってくれる身体に見合うよう、頑張らないといけないな」


 ステータスを確認すると、レヴィアの稽古を行っただけでも、レベルが10上がった。

 その他の変化は、先日スキルを習得した〈従魔契約〉〈従魔召喚〉〈眷属召喚〉のスキルが追加されてるぐらい。

 その下の称号の欄に、水龍の加護と水龍に愛されし者が追加されている。


「ん!?愛されし者!?どういう事だ一体・・・?」


 レヴィアさんから愛されているだと!?いつからだ!?

 驚きと共に困惑していたが、ナイアが父様呼びされた時点だろうとは思ってる、たぶん。


「気にしてもしょうがない。レヴィアと後で話しをするから…まあ、いいか」


 俺は、レヴィアとナイアの姿を見て、大きなポンチョを被った状態だったので、その恰好が続くのは危ういなと思った。

 

 素足から下半身が見えそうになるのは、流石に不味い。

 尻尾で隠れているが、安心できない俺は、レヴィアとナイアのお返しの服を作ろうと思い付く。


「あ…寝ている間に、着心地の良い服を作ってあげるか!〈裁縫〉と〈解体〉をスキル取得だ!」


 俺は新たに、スキル取得を行った後…


「〈異空間収納〉の保持アイテムをスクリーン表示にして、素材をまとめて〈解体〉してと…無事出来たな。その中にある長毛種の羊毛を〈異空間収納〉から取り出して、〈裁縫〉をすると…」


 〈裁縫〉を発動すると、自身の身体が小人サイズなので、透明な手が現れた。

 本格的な傀儡師だなと思いながら、マナ操作をする。

 両手の指で器用に操作するのは、難易度が高め。

 レヴィアと出会う前に手に入れた素材は、数えきれない程あるので、失敗しながらも何度も挑戦する。


「やっときめ細かい布ができた!慣れてくると楽しいな。次の工程に、羊毛から出来た布を、指先のマナを使って切り取り、頑丈な森林蜘蛛フォレストスパイダーの糸で縫い合わせて、肌触りを良くしてと…ナイアは尻尾のサイズに余裕を持たせるようにして、ナイアは子供サイズで大丈夫そうだな。仕上げは染色プラントの青黒と白しかないけど、色合い調整だ!」


 夢中になっていく内に、パーカーとショートパンツ、日常トレーニングでよく着るインナー下着セットを完成させた。

 前世の服と変わらないクオリティだ。


「これなら、見られても恥ずかしくないな!あとは異空間から、俺の宝箱を取り出して、服を入れたら…完成だ!」


 予想以上にマナを消費して疲れてしまった俺は、クッションに埋もれて再度眠りについた。

 その数刻後、レヴィアとナイアは目を覚ますと宝箱が置いてある事に気付く。


「なんじゃ?この宝箱」


 ナイアはカブトの方を見て察する。


「母様…開けてみよう?」


「そうするかの!」


 レヴィアとナイアは宝箱に手を掛け、一緒に開けてみると、綺麗に折り畳まれた服に目が入る。


「これは!?ワシとナイアの服かの?触り心地がよいの!異界の服かのう?」


「母様!これを着て…父様を驚かせよう…?」


「良い考えじゃ!」


 ナイアの着替えを手伝いしながら、レヴィアも着替えるのであった。

 この瞬間、カブトはぐっすり眠っていたので、気付かなかったという。







「いつまで寝てるのじゃ?お主、くすぐってやろうかの?」


「父様…悪戯…するよ…?」


 俺の耳元で、甘い囁きが聞こえた。

 疲れているので目を開けたくなかったのだが…


「しょうがない、一緒に悪戯するのじゃ!」


「わかった…!」


 俺は、二人からくすぐり攻撃を受けて、笑い転げた。


「アハッハッハ!!!やめて!今、起き上がるから待って…!アハハハッハ…」


 笑い過ぎて目を開けると、レヴィアとナイアの光景に驚いた。


「どうしたんじゃ、そんな驚いた顔をして?」


「父様…大丈夫…?」


 目の前の光景は、家庭を持った嫁と娘が普段着を着ている光景に見えた。

 あれ…?ここって前世の部屋じゃないよな?夢の中じゃないよな?レヴィアの住み家だ。

 間違いない…現実だ。


「ごめんごめん。レヴィアとナイアの服、想像以上に似合っていて驚いたよ!」


「お主が、こんな着心地の良い物を贈り物しよって…。それにレイアを見てもわかる…とっても嬉しいのじゃ!」


「父様…ありがとう…!」


「喜んでもらえて、作った甲斐があったよ。また他のも作るからな!」


 俺が笑顔で答えた後は、レヴィアはちょっと頬を染め、少し目を細めた顔をしながら、右手でパーカーを下から捲り、左手でショートパンツをズラして、インナー下着を俺に見せつけてきた。


「他のは…これの事かの…?」


 その光景は、未来永劫忘れることはないだろう。

 声に出せなかったが、心の中では「エッッッッッッッッロ!?」と叫ぶしかなかった。

 俺は顔を真っ赤にしながら、クッションの上で倒れ、再び気絶する。


 ナイアは、レヴィアの顔を見ながら呆れていた。


「母様…。やり過ぎ…」


「ウム…。はしゃぎすぎたかの…」


 その時のレヴィアは、とても反省した顔をしていたらしい。







 ここは、前世の俺の部屋。

 ローデスクの上には、朝食があった。

 座椅子に座って見ると、美味しそうだった。


『食べてみるか…頂きます』


 俺はご飯・味噌汁・塩鮭・沢庵を食べたが、味はしなかった。

 夢の中だから味はしないよなと思いつつ、俺は腹が満たされる感覚があった。


『ご馳走様でした』


 きっと俺の記憶の一部の映像なのだろうと思っている。

 その後、俺の部屋から意識が遠退いた。

 この夢は何なのだろうか…

 

「次は、ドアが気になる仕様にしておこうっと!…やっと君に会える」


 カブトを見ていたボーイッシュな女の子は、不敵な笑みを浮かべていたという。







 気づけばレヴィアの腕の中にいた。

 俺の作った服も着てくれている。

 離れた場所にナイアがおり、フロマとモルビエのモフモフを堪能したまま、眠っていた姿が見える。

 見上げるとレヴィアの顔があった。


「お目覚めかの?カブトよ」


「ああ、大丈夫だ。無事に回復したよ」


「それなら安心じゃ。今度から一緒に寝るかの?」


 これはレヴィアが誘ってる?誘いに乗ってみるかな。


「え…いいのか?じゃない、お願いします!」


「お主…まあいいわい。寝る時は、ナイアも一緒じゃ!!」


 レヴィアは、了承したが、ナイアも一緒か。

 俺、次から寝るとき大丈夫かな…?

 何を不安がっているんだ俺、男なら添い寝ぐらいやり遂げてやろう!

 …という事で、家族で寝る事が決まったのだった。


 今は昼寝の時間だったらしく、レヴィアの腕から解放された。


「そういえば、俺達って何も食べてないが平気なのか?」


「ワシらはダンジョンから生まれた存在じゃ。体内に流れるマナが多いと、休息や睡眠をとれば回復できる。食事は不要じゃ。他には体内にある心臓石、通称魔石を吸っても回復できる。成長できるマナを吸うのと変わらない様なものじゃな」


「だから、いつもより気分がいいのか。レヴィアは特に気持ち良いしな」


「ゴホン…、まあそういう事じゃ」


 レヴィアは顔を赤くしていた。そういう事は、俺もお互い様だけどな。

 食べなくても生きていける事は理解できたが、俺にとっては、食べる事も一つの娯楽だと思っているので、レヴィアに提案してみる。


「レヴィアは、異界の食べ物に興味あるか?」


「とっても気になるのじゃ!?…不味くは無いじゃろうな?」


「俺は一応、異界で働いてた経験あるから大丈夫だ!そうと決まれば、キッチン作ってもらってもいいか?」


「たしか、ダンジョンモニターのカタログにはそのような物があったのう…カブトよ、ワシに任せるのじゃ!」


 レヴィアは壁側の椅子に座って、モニターとキーを操作し始める。


 俺が最初に作る食べ物は、もちろん決めている。

 最初はホットケーキだな。

 前世で働いていた時は、ホットケーキをモーニングメニューでいつも作ってた得意メニューだからな。


 本来ならば、夢で見た塩鮭定食を作ろうと思ったが、米や大豆・魚等の素材が足りない。

 外の世界に行けば買えると思うが、今は難しそうだ。


 気に入ってくれたら、レヴィアに食用ダンジョン無いか、後程にでも聞いてみる事を決めた。

 気付けば、レヴィアに声を掛けられる。


 レヴィアに付いて行くと、キッチン部屋が増設されていた。


「こんなもので、どうじゃ?」


「家庭用キッチンじゃん!ハイテクだな!?十分だよ!」


 飲食店BARに似た家庭用キッチンを一式追加されていた。

 キッチンを追加するに当たって、丁寧に食器や器具まであったが、冷蔵庫は残念ながら無い。

 それでも安心して料理ができる。


 俺は食材をスクリーンで確認し、過去に魔獣を倒して手に入れた食材を用意して、ホットケーキの材料を準備を始めたという。

 


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