第10話 レヴィアの回想


 

 

 レヴィアが〈階層転移〉発動して住み家の庭に到着した後、ナイアはツリーハウスを見上げていた。


「ここ…母様の家…?」


「そうじゃよ!」


 レヴィアとナイアは階段を登ってドアを開け、入室するとナイアは真っ先に狼の方に目を向けた。


「大きな犬…!可愛い…!」


「白いのがフロマで、黒いのがモルビエじゃよ!」


 フロマとモルビエに臭いを嗅がれたナイアは、気絶しているカブトを片手に抱えながら、順番にフロマとモルビエに挨拶として、そっと撫でた。


「私の子じゃよ!仲良くしてほしいのじゃよ」


 ナイアと2匹の触れ合いを見ていたレヴィアは、そう伝えた。

 何かを察知したのか、フロマとモルビエは元気よく尻尾を振りながら、「ワフッ!」「ワンッ!」と吠える。


 家族を紹介した後、カブトは、「うっ…」唸っていたので、他のクッションで休ませ、レヴィアはナイアと一緒に、クッションに座った。


 ナイアは、カブトを見ながら、レヴィアに質問をした。


「父様って…どんな人…なの?」


「カブトは面白い奴じゃよ!出会いまで聞きたいかの?」


「うん…!」


「それならば、ワシの事も交えて話すとしようかの。時は遡るのじゃが…」


 レヴィアは、カブトとの出会いまでの経緯を話すのだった。






 

 ワシの種族は水龍であり、レヴィアという名を持っておる。

 最初の記憶は、悪戯と娯楽を愛する遊戯の神の前に居たのじゃ。

 その際、頭痛に見舞われたのじゃが、遊戯の神が「ボクが君の生みの親だよ!」と言っておった。

 

 遊戯の神とやらは、世界に散らばるダンジョンへ、小さな悪戯という名のイベントを仕掛けては、子を成長させるか或いは楽しませる、何とも奇妙な親じゃった。

 悪戯イベントで厄介な事が起きても、何も助け等はしない。

 一種の試練、遊びと言うべきかもしれぬ。

 

 悪戯の中には、ダンジョンへ進化した魔物を紛れさせたり、宝箱を出現させたりするのじゃ。

 中でもヤバイ厄災のボスに慣れ果てる奴らもおり、ダンジョンの最終ボスを打倒した際、暴走スタンピードさせるのじゃ。

 簡単に言い直すとな、ダンジョンの破滅を掛けたゲームをするか、外を壊滅させるかの2択じゃの。

 極端に言えば、自身で何とかするか、放置するかの違いじゃな。


 他のダンジョン主からしたら、はた迷惑なのじゃが、その迷惑はワシとって、親の愛と思って楽しんでおる。

 ワシ自身も歪んだ愛だと認識しておるがの。

 

 そんな世界中のダンジョンで、ワシは3強に属している立場故に、大抵の事は簡単に解決できるのじゃが、今回の悪戯はとても面白い事が起きよった。

 

 ダンジョン運営をする際は、眼鏡という変化を察知するアイテムを着け、部屋にあるダンジョン専用モニターを見ながらいつも通りの日課として監視しておった。

 王国時代に作った階層に、ある日を境にして隠し部屋が出現したのじゃ。

 最初は放置と、思っていたのじゃが…


「隠し部屋で、ミミックもどきが暴れまわっておるのぅ・・・」


 ワシは、得体のしれない邪悪なミミックもどきを監視し始めたのじゃ。

 久々に悪戯イベントを起こしよったのう、五百年ぶりかのと思ったわい。

 五百年前の悪戯は、ワシのダンジョンに突如現れ、轟音と共に階層の破壊を楽しむだけの邪龍をワシ一人で抑え込み、ワシは怒りと共に半龍化して殴り勝ったのう。

 

 ダンジョンの階層が壊されてしまったのじゃが、良いストレス発散になったのじゃ。

 じゃが、外の世界は邪龍の配下によって、ワシのダンジョンを拠点に作られた王国が滅んでしまったのじゃ。

 世界が滅ぶよりはマシだったのかもしれんが、それを期に暇になったのう。


 正体不明の存在だったカブトが出現した際は、過去に国が滅んだ件もあってか、早々にダンジョン内で対処すべきか迷っておったが、様子を見る限り、自我を持っている動きをしておった。

 興味を引いたのじゃ。

 ワシ自身、新たな玩具を見つけた様な感覚になっての。


 何故か賭けをしようと、真っ先に思い浮かんだのじゃ。

 ワシのダンジョンで、生き残れた暁には、ワシが面倒見ようとな。

 そして、ワシの目の前に現れた時は、選択肢を違えば消そうと考えておった。

 考え方は親に似るのかもしれんのうと思いながら監視を続けたのじゃ。


「2ヶ月経っても出てこないのう。つまらんのう、どうしようかのう…」


 宝箱モドキは、部屋から一向に出る気配がない。

 部屋をひたすら這いまわる事しかしとらん。

 

「潮時かの。勿体ないかもしれんが、階層ごと消し去るかのう」

 

 ワシはそう思っておったのじゃが…

 カブトは〈浮遊〉の速度を上げて扉に突っ込み、外へ出たのじゃ。


「とうとう、扉を出て行動に移したかの!フォレストウルフが気づいたかの!」


 その際のワシは、久々の挑戦者がいるダンジョン運営を楽しんでいたのう。

 行動を移した時点で、外へ続く出口を封鎖を行い逃げ場を塞いだりして、次の手はどう打ってくるか?と考えながらやっていたのじゃ。


「成程…操り系のスキル取得をしておったか、少々厄介じゃのう…」


 操りの耐性が無い敵を増やした所では、無駄だったのじゃ。

 耐性のある強い魔獣を作成しなければ、対処できるワシへ繋がる扉へ繋げてしまおうと考えていた所に、予想外な事態が起きよった。


「なんと!?狼に憑きおった!?あの防具は何じゃ?正体がわからんのう」


 ワシはその状況を楽しみ、口元が緩みながらも頭を抱えた。

 次の日には、ワシの所に扉を繋げておいたのじゃ。

 奴は、ワシの存在を探知しおったが、それでも来なかったのじゃ。


「ワシの所に来ぬ選択をしたかの。ならば、強化魔獣を召喚するかの」


 ワシは、残念な顔をしながら、洞窟を本来の階層主に戻したのじゃ。


 日が経っても監視を続け、宝箱が動いたり、狼に取り憑いたりをする日々は長かったのう。

 その間に防具が本体だと分かったのじゃが、分かるまでに1か月が経過し、狼の群れが大きくなっていったのじゃ。


「狼王を目指すつもりかの?本来は、もっと弱いはずなのじゃが…」


 奴らの脅威が膨れ上がった時には、ワシが直々に対処する事を決めたのじゃ。

 それから担っていた階層主には再度下がってもらい、扉を繋げ直したのじゃ。

 いつか来るであろう日まで、ワシのマナを存分に使い、召喚エネミーに対処を任せたのじゃ。


 召喚エネミーに全力で対処させたつもりじゃったが、生き残ってしまったのじゃ。もう少しで殲滅できた所を何度か取り逃がし、2匹まで減らせたのじゃが、その2匹は特別に鎧が装備されておる上、召喚エネミーは次々と倒され、奴らの糧にしかならず、ワシは半年で召喚で増やすのを止めにしたのじゃ。

 

 ワシが召喚したエネミーは万を超えたかの。一種の魔獣大戦じゃったの。

 1年楽しませてもらったしのう、ダンジョン運営というものを。

 そして、彼との出会いがの、すぐにやってきたのじゃ。


「とうとう、ワシの所へ来るかの。敵対かそれとも…」


 ワシは嬉々とした感情を押し殺し、水龍へ姿を変える。

 そして、威厳を忘れない登場し、挑戦者を見極めた。

 

(正体は、黒鎧とな…面白い奴じゃのう!)


『俺はカブトという!身体が無くてすまん!』


(なるほどの。人格が備わっておるのか。実に惜しいのぅ…)


『格上相手と戦うのは魅力的な話だが、勘弁願いたい!』


(戦いたい…。ん…?実力不足とな?…気に入ったぞお主!)

「ならば良い。見極めが出来るのは良いことじゃ。じゃが、迷惑な事じゃよ、本当に。…ほれ、戦闘態勢を解かんかい!!」


 いつも通りのワシ本来の姿へと変えた際、痛恨のミスをしてしまったのじゃ。


『ブハッ!!!!!服を着ろっ!!いや、着て下さい!いきなり姿変えないで!』


「ほほぅ、いつも通りのワシの姿を見て、欲情したかの?お主がワシに装備されてもええんじゃよ?と冗談はさておき…ちぃとばかし待て」

(カブトへ無意識に色仕掛けをしてしまったのじゃと!?欲情したじゃと!?ワシ、顔真っ赤にしてないはずじゃ…絶対じゃ!!!)


 その後、カブトをワシの住み家に招き入れ、古い友人の赤龍からの贈り物である、精霊人形を使って、カブトの魂を吹き込んだ所、ワシは内心トドメを食らってしもうた。


(ドキドキが止まらないのじゃ…これはもしや…)


 何とか平常心を保ちつつ、カブトの事情を根掘り葉掘り聞いたのじゃ。

 このドキドキを、フロマとモルビエのモフモフで何とかしようとしたのじゃが、無理じゃった。


 ワシはカブトに手を出し、腕の中に抱いたのじゃ。ワシは、完全にカブトへ恋に堕ちたとな。


「これがメスになるということかの…セキちゃん…」


 ワシは古い友人、赤龍を思い出しながら、眠りに付くのじゃった。







「今の話した内容は、一昨日までに合った出来事じゃよ」


「一昨日だったの…!?母様…運命的…!!」


 ナイアは、とても目がキラキラしていた。


「運命とは、そういうものじゃ、ナイアよ。じゃが、ワシの事はどう思われてるか分からん」


「大丈夫だよ…父様は…母様好きだもん…!」


「娘に元気付けられるとな…ナイアよ、ありがとのう!この事は、ワシとナイアの秘密じゃよ?」


「うん…!分かった…!」


 レヴィアは、ナイアの言葉に安心しながら、ナイアの頭を優しく撫で愛でるのであった。




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