第9話 身体作成とレヴィアの手加減



 無事にナイアとの契約が成立した少し後。

 ナイアは水面に座り込んで、足元の水に両手を付け、身体を作成し始める。

 レヴィアがナイアの両肩に手を乗せながら、マナを譲渡して、俺の仮の身体を創造している最中だった。

 

「カブトの身体は、作れそうかの?」


「母様のマナ…補助のお陰で…作れると…思う」

 

 俺は、後ろで人一倍思考と表情を回していた。

 

 もう父様呼び確定なんだな…

 ナイアは、生まれた時から知識レベルが高い才女だ。

 旅に出て、運命的な出会いをしても、ナイアに駄目って言われるんだろうな…。

 浮気をした瞬間、レヴィアに即座にバレて、この世から消される想像まで見える。

 もう逆らえない…いいや、何を言っている俺!

 美少女のレヴィアさんから、他に浮気する事なんてあるか!?

 これ以上の贅沢があるか!

 俺は生涯をかけて、レヴィアさんの隣に居られるよう成長するんだ!

 防御力特化で攻撃力は…一切上がらないけど。

 そんな事をカブトは、心の中で呟いていたとか。


「カブトよ。様々な表情に変えているのじゃ?」


「父様…?大丈夫…?」


「ああ…大丈夫だぞ!レヴィア、住み家で話がある」


「何をそんなに真剣な顔をして…。ナイアの前では言えぬ事かの?」


 レヴィアは、指をモジモジしながら言葉を返す。


「そうだ…覚悟をしなければ言えない事だってあるからな。…レヴィアは、何でそんなに笑顔なんだ!」


「お主が可愛いからかも知れぬのう。まあ良かろう。日を改めて話すのじゃ!」


「…ああ…わかった」


「うん…!邪魔しない…から」


 ナイアの顔は、イチャイチャを期待する様な、キラキラ目をしていた。

 レヴィアは、少し頬を染めた顔をしているんだけど、期待していいのか!と俺は、嬉々とした表情を出さないよう必死で、唾をゴクリと飲み込んだ。


 思い込みと勘違いで済めばいいが、期待してもいいよな?いいよな!?と、思考が更に早くなる気がした。


 気が付くと、レヴィアより大きい半透明の身体が出来上がる。

 2メートルは届きそうな、粘性を帯びた半透明の身体だった。

 水面上で仰向けになっている。

 肌色がついてたら大事故な光景だ。


「カブトよ。一時的な身体ができたのじゃ!ナイアよ、頑張ったのぅ!」


「うん…。父様、私…頑張った…!」


 レヴィアに頭を撫でられて、ナイアはムフーっとドヤ顔をしていた。

 俺は、その微笑ましい光景に笑顔になる。


「ナイア、使わせてもらっていいか?」


「はい…!父様!」


「ありがとう!ナイアからのプレゼントかぁ!」


 俺は、レヴィアに混ざって、ナイアを撫でた。

 すごくサラサラしていて、ナイアの笑顔が眩しく感じた。


 その後、ナイアに俺の依り代の人形を持たせてから、水で出来た身体へ〈装着変形〉を行う。

 視線が変わり、水面の反射を見ると、蒼黒の騎士鎧をしていた。

 俺は自身の姿に歓喜する。


「これ凄くカッコいいぞ!武人みたいだな!」


「父様…素敵!」


「カブトよ、似合っておるぞ!装備しているお主の身体は、数時間が限度じゃ。ただ、攻撃を受け続けると、今のままでは10分も持たない所かの。ナイアを召喚した際は、戦える身体を得られて、カブトには十分な恩恵じゃろう。緊急時以外は、無理させぬようにするのじゃぞ。此処ではワシがナイアを補助するが、外に行った際は、ナイアに無理強いするでないぞ!」


「ああ、分かった。ナイアを大切にすると誓う!」


「うむ。ワシの補助もあるとはいえ、愛でることも忘れぬでないぞ!」


「こんなに可愛い娘を愛でない父親が、何処にいる!安心しろナイア!」


「父様、母様…落ち着いて?」


 レヴィアの手の上から俺の手を重ねながら、ナイアの頭を優しく撫でる。

 その光景は、完全に娘を愛でる親子の図が完成してたと言うまでもないだろう。







 体の部分を確認する為に、ストレッチをしている。

 この身体は、各ステータスが10万ずつ上がる破格の性能が備わっていた。

 ステータスの種族名に、いつも書かれている欄には、仮の身体の名前は???と記載されていたので、ナイアのステータスをいずれか見せてもらうとする。


 どんなに強化されたとしても、レヴィアには遠く及ばないけどな。


「身体の動きは、大丈夫そうかの?」


「満足できる程にな。一定時間しか使えないというデメリットもあるが、俺には十分すぎるよ」


「ならばよし。準備ができておるようじゃし、一定の距離を取るのじゃ!」


 レヴィアに言われた通りに、俺は距離を取る。


「その辺でよいぞ!今日は短時間で済ませる稽古をするからの!お主が外に出ても、恥ずかしくないように鍛えてやるのじゃ!」


「お手柔らかにお願いします!」


「安心せい。死なぬように手加減はするつもりじゃからの!」


「母様…父様…頑張って…!」


 ナイアに応援された瞬間、俺とレヴィアは強化された。

 

「お主は、徹底的に防御を固めることじゃ。ワシもお主の耐久を調べたい故、すぐに終わってしまうかもしれぬが、死なない努力をするのじゃ!」


 口端を広げる様に、レヴィアは呟いた。


「おう!かかってこい!」



 俺が発言して瞬きをした瞬間、俺の胴体に向けて、レヴィアが拳を振り翳していた。

 レヴィアの目は、青く光っており、その拳は青い光を纏っている。

 一瞬スローモーションの様に見えたが、俺の思考が加速していたのだろう。

 ぶっ飛ばされるのは、目に見えていたので、俺はとっさに腕を前に構え、必死に防御姿勢を取った。


「ふぬ!」 


 レヴィアに両腕を殴られた瞬間、水面上を背中で「ぐおおおぉぉぉ‥‥‥」と叫びながら、何度も跳ね返った俺は、目線を戻そうと体を起こそうとする。


『まずい、一発目からこれか…!両腕がジンジンして痛てえ…次は無理そうだ』 


 気付くと、レヴィアの追撃が空中から目の前まで迫っていた。


『容赦なさ過ぎだろ!速過ぎる…もう一発踏ん張れ俺…!』

 

 そう思っていたが、腕がバリンと音を立て貫通し、水面へ叩きつけられて、水中に沈められて、俺は継続不能になった。

 気づけばレヴィアは、俺の両脇を掴んで引き上げている。


「めちゃくちゃ痛い…この世界に生まれ変わってから、痛みを感じるのは初めてだ…」


 一瞬の出来事だったが、レヴィアは満足した顔をして、俺に囁きながら答えた。


「2発も耐えれるとはのう。ワシは最初の1発で沈めて終わりと思っていたのじゃが、流石、防御力が高いだけあるのう!」


 レヴィアは、カッカッカと楽しそうに笑っていた。


「俺は…レヴィアに手も足も出なかった…完敗だよ。これがレヴィアの実力か…」


「まだまだ序の口じゃよ!ワシの稽古を続ける気は無くなってしまったかの?」


 レヴィアは呑気な顔をしながら聞いてくる。


「いいや、もっと成長したい。これからもお願いしたい!」


「ほう!今までワシと戦った者は、最終的に戦意喪失する奴らしかおらんかったが、お主はやはり…、将来が楽しみじゃのう!」


 レヴィアにゆっくりと水上へ引き上げられた俺は、ナイアが抱えている人形へ戻った。


「父様…無事…?」


「ナイアの作ってくれた身体が、丈夫だったから平気だったぞ!」


 仮の身体を見ると、徐々に液体に戻っており、ドロッと溶けていった。


「そうじゃぞ、最初にしては上出来じゃ、ナイアよ!」


「父様と母様に褒められた…えへへ…!」


 レヴィアに撫でられるナイアをその腕から眺めていたが、俺は限界か来てしまい、プツンと意識が飛んでしまう。

 ナイアは心配する様にカブトの顔を見つめている。


「父様…疲れちゃった?」


「そうじゃよ!今は休ませてあげるのじゃ」


「わかった…!」


「さて、ワシらの家に帰るかの」


 レヴィアはナイアと手を繋ぎ、住み家へ足を進めるのだった。







 また夢の中にいる。

 此処は前世の俺の部屋だな。

 ローデスクには祖母さんへ描いた手紙、俺のスケッチ帳がそのままだった。


 俺は椅子に座り、パソコンを起動してみる。

 スクリーンには、懐かしいファイルがあった。

 その1つの小説ファイルを開く。

 

「これは、俺が書いた小説じゃん。これって…?」


 200以上のファイルメモの題名1つに、俺は目を疑った。


「メモのファイル名は、深海里の少女レヴィアだと!?」


 俺は題名ファイル開いて読もうとしたが、スクロールしても空白だった。

 その後、自身の部屋から意識が遠退くのであった。


「次は最終のテストとして、あと数回でレヴィアちゃんの伝授スキルが与えられるか、テストしよっとー!懐かしい食事を置いておけばいいかな!異界の料理の味の再現なんて無理だから、味は無くてもいいやー!今は、君の味方で居てあげるから、しっかり食べてね、黒兜君…」


 上が見えなくなる程の本棚が並ぶ図書館の机の上で、本からホログラムの映像が浮かび上がるカブトの姿に嬉しそうにしていたという。  

 



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