第8話 水神の子




 レヴィアは、楽しそうな笑顔を浮かべていた。


「お主が外に出ても、恥ずかしくないように鍛えてやるのじゃ!」


「お手柔らかにお願いします!」


「安心せい。死なぬように手加減はするつもりじゃからの!」


「母様、父様…頑張って…!」


 現在、蒼い鎧を纏った俺は、幼女に応援されながら、レヴィアと対峙していたという。







 少し前、住み家にて。

 

「ワシの休息が少し長くなって、すまなかったのう」


 レヴィアは、両手を広げながら、フロマとモルビエを撫でて愛でていた。


「もう大丈夫なのか?レヴィアのステータス見せてもらった時、マナが半端なく減っていたけど…」


 俺はマナ消費の疲労に関しては、理解しているつもりだ。

 半分ぐらいになっていたので、想像を絶する疲れ具合になのだろうと思っている。


「そのくらい平気じゃよ。お主らが来てから、元気になったからのう!」


「それならいいんだけどさ」


「大丈夫じゃ!あ、そうじゃった」


 レヴィアは、何か言い忘れていた顔をする。


「カブトには、修業をつけてやろうと思ってるのじゃが、どうじゃ?」


「いいのか!?って、俺は何もできないと思うんだけど…今の俺は、下手したら即死だぞ?」


「ワシが〈手加減〉するから、安心せい!ワシなら、一時的にお主の身体を用意できるからの!」


 レヴィアは、自信満々に「任せるのじゃ!」と言って、気づけばレヴィアの腕の中にいた。

 俺の抵抗は無駄なので、大人しく連れ去られる。

 ドアを開ける時に、伏せているフロマとモルビエに向かって、レヴィアは留守番を頼む為に声を掛ける。


 「フロマとモルビエは、留守番を宜しくなのじゃ!」


 俺がフロマとモルビエを見ると、「さっさと行け」と言われてる気がした。

 気のせいであってほしい…

 俺は何処に連れて行かれるのだろうか…







 最終階層のボス部屋にて、海底のプラネタリウムみたいな水中空間エリアにいた。

 足元の水中からもレヴィアの生命力マナを感じる。

 壁や天井は、ドーム状の空気膜で覆われており、天井より先から差す光によって、神秘的な演出をしている場所だった。


 恐らくだが、ダンジョンの深部だろう。


「気に入ったかの?此処はワシ専用での。ワシの全力が出せる場所でもある」


 俺はレヴィアの腕の中で、その光景と共に絶句する。


「ああ…、という事は、今のレヴィアの強さは、神に近い存在なのか?」


「ワシは特別な水龍で水神じゃよ。ワシ以外の神と現存する奴は、他に2人おるがの。条件が揃っておれば、ワシが一番じゃな!」


 さらっと、神の詳細を知ってしまった気がする。

 このエリアは、レヴィアの条件を揃えられる場所なのだろうと俺は思った。


「さて、お主は少し離れておくとよいぞ!」


 俺は腕から解放され、少し離れた所を見計らい、手を振りかざした。

 一体何が始まるのだろう。

 スキル芸当の次元が違い過ぎる。

 レヴィアの膨大なマナ操作は、どんなに頑張っても届かないレベルだ。


 足元の水を吸い上げ、マナと共に丸く固めていく。

 水を固めると、半透明な水色の心臓部と思われるコアが出来上がり、仕上げをする為にレヴィアは、唱え始める。


「水神の眷属よ、ワシの願いに答えよ!…生を得た暁には、我の命令に逆らう事は許さぬ。我の契約を成立せし者よ、生を司り顕然せよ!」


 唱え終わった後、コアから水が弾け飛び、100cmに届かない5歳ぐらいの幼女が姿を現す。

 角は生えていないが、レヴィアの髪色や目を細めたような顔付き、似たような肌色をしている。

 レヴィアは、異空間からお揃いのポンチョを取り出し、レイアに着させた後、その幼女の脇を両手で抱きしめた。


「可愛いのじゃ!!今からお主の名は、ナイアじゃ!」


 ナイアは、たどたどしく声を発した。


母様かあさま、苦しい…です…」


「おお、悪かったのう。初めてのワシの子が可愛かった故、許してな」


 ナイアを顕然させる際に、びしょ濡れになったレヴィアと、両手で抱きしめる幼女のナイアの姿を見て、その光景に俺は固まる。


 あれ…?子供が出来た?パパは誰だ?と、呆然とした。


「お主は、なぜ驚いた顔をしておる?折角せっかく、お主の眷属を召喚したというのに、拍子抜けじゃのう」


父様とうさま、私じゃ…駄目…?」とナイアは悲しそうな顔をする。


「全然大丈夫だぞって俺が…パパぁぁぁぁぁぁぁ!?」


「声を荒上げるでないわ!落ち着かんかお主!」


 レヴィアは、「わー!?わあー!?」と一向に落ち着かない俺にナイアを抱えながら片手で、最大限手加減したデコピンをペシッ食らわせ、気絶させたという。







 俺は夢の中にいる。見覚えのある俺の部屋だ。

 パソコンモニターとローデスクと椅子とベットしかない何も散らかっていない部屋だ。俺はローデスクの上にある、メモ帳にペンをもって、手紙を書き始めた。


 前世のお祖母様、お元気でしょうか?

 俺は今、とても信じられない状況に陥っています。

 俺は異世界に来てから1年と3ヶ月が経ちます。

 色々な事があって、レヴィアと言う美少女によって、子供が生まれました。

 俺は何故か、その子供から父様と呼ばれているのか、理解が追い付きません。

 此方の世界に来ても生涯、家庭を持つとは思っていませんでした。

 レヴィアと出会って、まだ3日目です。

 異世界ってこんな簡単に、親になって良いのでしょうか?

 その子は、ナイアと言います。レヴィアに似て、とても可愛い子です。


 追伸、お祖母様、きっと貴方は責任を取りなさいと、必ずいう事は想像できます。

 なので俺も覚悟を決め、異世界で生き残り続けます。


 俺は夢の中で、手紙を書き終えペンを置いた直後、目を覚ますのであった。


 カブトの部屋の扉の先は、別の場所に繋がっていたという。

 本棚が並んだ部屋で、ボーイッシュな女の子が頭を抱えている。


「調整難しいなぁー…あと1回ぐらいは調整必要かな!」







「おはよう…父様」


「お主、落ち着いたかの?」


 レヴィアに膝枕をされながら、俺の顔を覗いている二人の顔があった。


「ああ、此処は天国か?」


「現実じゃよ。寝ぼけた事言っておるの。とても重症だから、もう少し休むのじゃ」


 レヴィアに撫でられた途端、状況を理解して段々と俺の顔がみるみる真っ赤になっていく。

 俺は恥ずかしさのあまり、レヴィアの手を両手で掴んだ。


「レヴィア!もう大丈夫だから…。起きるから…起きるから!!!」


「それなら安心じゃの」


 俺はレヴィアの手を優しく退かし、膝の感触に我慢できなくなり、〈浮遊〉を使って空中へと逃げた。

 レヴィアは、ナイアを抱えながら俺を眺めている。


「ちと、からかい過ぎたかの?」


「母様、父様をいじめちゃ…駄目…だよ?」


「いじめた訳じゃないぞ?ナイアが可愛いからじゃよー!」


「そう…なの?嬉しい…!」


 外堀を埋められてきてないか…レヴィアは取り返しのつかない事をしている気がするんだけど…気がしてるんだけど!!!と思いながら、冷静になり、レヴィアの茶番だと思って返す。


「レヴィア、そろそろ茶番は…やめてくれないか?」


「茶番などではないぞ?ナイアと契約したら、家族と一緒じゃよ」


 レヴィアから平然と否定された。

 話が進み過ぎている気がするが、俺は考えるのを止め、そのまま話を進める。


「それで…ナイアと契約すればいいのか?」


「そうじゃよ!契約すれば、ナイアの力を借りて、身体を一時的に得ることも可能となるのじゃよ!ナイアの方に、手を出してみよ」


「父様…手を貸して!」


 レヴィアに抱えられたナイアは、俺の方に手を伸ばした。

 覚悟を決めて、ナイアの片手に俺は手の平を合わせると、紋章が手に浮かび上がる。


「これでいいのか?」


「うむ。契約完了じゃな!これで正式にナイアは父様じゃな!」


「ありがとう…父様。大好き…!」


 前世では味わえなかった娘の手の温もりを感じる。

 お祖母様、俺は責任取りましたよ?…俺は娘のナイアよりも、体は小さいけど…と俺は思いながら、顔をキリっとさせた。


 その時、頭の中で『幸せなら別にいいんじゃない』と前世のお祖母さんの声が、聞こえた気がするけど、幻聴だよな?と困惑するのだった。



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