第8話 水神の子
レヴィアは、楽しそうな笑顔を浮かべていた。
「お主が外に出ても、恥ずかしくないように鍛えてやるのじゃ!」
「お手柔らかにお願いします!」
「安心せい。死なぬように手加減はするつもりじゃからの!」
「母様、父様…頑張って…!」
現在、蒼い鎧を纏った俺は、幼女に応援されながら、レヴィアと対峙していたという。
◇
少し前、住み家にて。
「ワシの休息が少し長くなって、すまなかったのう」
レヴィアは、両手を広げながら、フロマとモルビエを撫でて愛でていた。
「もう大丈夫なのか?レヴィアのステータス見せてもらった時、マナが半端なく減っていたけど…」
俺はマナ消費の疲労に関しては、理解しているつもりだ。
半分ぐらいになっていたので、想像を絶する疲れ具合になのだろうと思っている。
「そのくらい平気じゃよ。お主らが来てから、元気になったからのう!」
「それならいいんだけどさ」
「大丈夫じゃ!あ、そうじゃった」
レヴィアは、何か言い忘れていた顔をする。
「カブトには、修業をつけてやろうと思ってるのじゃが、どうじゃ?」
「いいのか!?って、俺は何もできないと思うんだけど…今の俺は、下手したら即死だぞ?」
「ワシが〈手加減〉するから、安心せい!ワシなら、一時的にお主の身体を用意できるからの!」
レヴィアは、自信満々に「任せるのじゃ!」と言って、気づけばレヴィアの腕の中にいた。
俺の抵抗は無駄なので、大人しく連れ去られる。
ドアを開ける時に、伏せているフロマとモルビエに向かって、レヴィアは留守番を頼む為に声を掛ける。
「フロマとモルビエは、留守番を宜しくなのじゃ!」
俺がフロマとモルビエを見ると、「さっさと行け」と言われてる気がした。
気のせいであってほしい…
俺は何処に連れて行かれるのだろうか…
◇
最終階層のボス部屋にて、海底のプラネタリウムみたいな水中空間エリアにいた。
足元の水中からもレヴィアの
壁や天井は、ドーム状の空気膜で覆われており、天井より先から差す光によって、神秘的な演出をしている場所だった。
恐らくだが、ダンジョンの深部だろう。
「気に入ったかの?此処はワシ専用での。ワシの全力が出せる場所でもある」
俺はレヴィアの腕の中で、その光景と共に絶句する。
「ああ…、という事は、今のレヴィアの強さは、神に近い存在なのか?」
「ワシは特別な水龍で水神じゃよ。ワシ以外の神と現存する奴は、他に2人おるがの。条件が揃っておれば、ワシが一番じゃな!」
さらっと、神の詳細を知ってしまった気がする。
このエリアは、レヴィアの条件を揃えられる場所なのだろうと俺は思った。
「さて、お主は少し離れておくとよいぞ!」
俺は腕から解放され、少し離れた所を見計らい、手を振りかざした。
一体何が始まるのだろう。
スキル芸当の次元が違い過ぎる。
レヴィアの膨大なマナ操作は、どんなに頑張っても届かないレベルだ。
足元の水を吸い上げ、マナと共に丸く固めていく。
水を固めると、半透明な水色の心臓部と思われるコアが出来上がり、仕上げをする為にレヴィアは、唱え始める。
「水神の眷属よ、ワシの願いに答えよ!…生を得た暁には、我の命令に逆らう事は許さぬ。我の契約を成立せし者よ、生を司り顕然せよ!」
唱え終わった後、コアから水が弾け飛び、100cmに届かない5歳ぐらいの幼女が姿を現す。
角は生えていないが、レヴィアの髪色や目を細めたような顔付き、似たような肌色をしている。
レヴィアは、異空間からお揃いのポンチョを取り出し、レイアに着させた後、その幼女の脇を両手で抱きしめた。
「可愛いのじゃ!!今からお主の名は、ナイアじゃ!」
ナイアは、たどたどしく声を発した。
「
「おお、悪かったのう。初めてのワシの子が可愛かった故、許してな」
ナイアを顕然させる際に、びしょ濡れになったレヴィアと、両手で抱きしめる幼女のナイアの姿を見て、その光景に俺は固まる。
あれ…?子供が出来た?パパは誰だ?と、呆然とした。
「お主は、なぜ驚いた顔をしておる?
「
「全然大丈夫だぞって俺が…パパぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「声を荒上げるでないわ!落ち着かんかお主!」
レヴィアは、「わー!?わあー!?」と一向に落ち着かない俺にナイアを抱えながら片手で、最大限手加減したデコピンをペシッ食らわせ、気絶させたという。
◇
俺は夢の中にいる。見覚えのある俺の部屋だ。
パソコンモニターとローデスクと椅子とベットしかない何も散らかっていない部屋だ。俺はローデスクの上にある、メモ帳にペンをもって、手紙を書き始めた。
前世のお祖母様、お元気でしょうか?
俺は今、とても信じられない状況に陥っています。
俺は異世界に来てから1年と3ヶ月が経ちます。
色々な事があって、レヴィアと言う美少女によって、子供が生まれました。
俺は何故か、その子供から父様と呼ばれているのか、理解が追い付きません。
此方の世界に来ても生涯、家庭を持つとは思っていませんでした。
レヴィアと出会って、まだ3日目です。
異世界ってこんな簡単に、親になって良いのでしょうか?
その子は、ナイアと言います。レヴィアに似て、とても可愛い子です。
追伸、お祖母様、きっと貴方は責任を取りなさいと、必ずいう事は想像できます。
なので俺も覚悟を決め、異世界で生き残り続けます。
俺は夢の中で、手紙を書き終えペンを置いた直後、目を覚ますのであった。
カブトの部屋の扉の先は、別の場所に繋がっていたという。
本棚が並んだ部屋で、ボーイッシュな女の子が頭を抱えている。
「調整難しいなぁー…あと1回ぐらいは調整必要かな!」
◇
「おはよう…父様」
「お主、落ち着いたかの?」
レヴィアに膝枕をされながら、俺の顔を覗いている二人の顔があった。
「ああ、此処は天国か?」
「現実じゃよ。寝ぼけた事言っておるの。とても重症だから、もう少し休むのじゃ」
レヴィアに撫でられた途端、状況を理解して段々と俺の顔がみるみる真っ赤になっていく。
俺は恥ずかしさのあまり、レヴィアの手を両手で掴んだ。
「レヴィア!もう大丈夫だから…。起きるから…起きるから!!!」
「それなら安心じゃの」
俺はレヴィアの手を優しく退かし、膝の感触に我慢できなくなり、〈浮遊〉を使って空中へと逃げた。
レヴィアは、ナイアを抱えながら俺を眺めている。
「ちと、からかい過ぎたかの?」
「母様、父様をいじめちゃ…駄目…だよ?」
「いじめた訳じゃないぞ?ナイアが可愛いからじゃよー!」
「そう…なの?嬉しい…!」
外堀を埋められてきてないか…レヴィアは取り返しのつかない事をしている気がするんだけど…気がしてるんだけど!!!と思いながら、冷静になり、レヴィアの茶番だと思って返す。
「レヴィア、そろそろ茶番は…やめてくれないか?」
「茶番などではないぞ?ナイアと契約したら、家族と一緒じゃよ」
レヴィアから平然と否定された。
話が進み過ぎている気がするが、俺は考えるのを止め、そのまま話を進める。
「それで…ナイアと契約すればいいのか?」
「そうじゃよ!契約すれば、ナイアの力を借りて、身体を一時的に得ることも可能となるのじゃよ!ナイアの方に、手を出してみよ」
「父様…手を貸して!」
レヴィアに抱えられたナイアは、俺の方に手を伸ばした。
覚悟を決めて、ナイアの片手に俺は手の平を合わせると、紋章が手に浮かび上がる。
「これでいいのか?」
「うむ。契約完了じゃな!これで正式にナイアは父様じゃな!」
「ありがとう…父様。大好き…!」
前世では味わえなかった娘の手の温もりを感じる。
お祖母様、俺は責任取りましたよ?…俺は娘のナイアよりも、体は小さいけど…と俺は思いながら、顔をキリっとさせた。
その時、頭の中で『幸せなら別にいいんじゃない』と前世のお祖母さんの声が、聞こえた気がするけど、幻聴だよな?と困惑するのだった。
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