第6話 レヴィアの住み家



 俺と狼2匹は、水龍のレヴィア宅へ足を踏み入れた。


 ツリーハウスの様で、ドアを開くと、部屋にはモフモフな絨毯と、人をダメにする半透明のスライムクッション等があった。

 壁側の机と椅子セットには、ダンジョン内を映し出すガラスで出来たスクリーンモニターとキーボードがあり、前世の既視感を感じる部屋だった。


「お茶は出せぬが、適当に寛ぐとよいぞ!」


『だってよ、フロマ、モルビエ!』


 レヴィアはスライムクッションにダイブし、寝っ転がり仰向けになった。

 尻尾で下半身を隠しているが、下着を着用していないレヴィアの姿に俺は必死に目を逸らす努力をした。

 フロマとモルビエは、俺を装備しているので困ったようにクゥーンと鳴いた。

 俺は鎧なので、依り代がないと解除できない。

 〈異空間収納〉から宝箱を取り出そうかと思っていると、クッションで寛いでいるレヴィアは首をかしげた。


「お主はいつまで、鎧もどきをしておるのかの?」


『依り代的な…装備する物がないんだよ』


「フム、なるほどの。それならば、これに装備されると良かろう!」


 異空間へ手を突っ込み、子供が抱ける小人サイズのデッサン人形を取り出す。


『わーお、良くできたデッサン人形だな…ってこれに装備しろと!?』


「つべこべ言わず、装備してみよ!」


 人形を絨毯の上に仰向けに置き、場を空ける形にクッションを移動させた。  

 身体を起こして興味津々な様子で見てくるレヴィアは、目をキラキラさせながら、俺をじっと見つめてくる。

 拒否権は無さそうなので、素直に従っておく。


『わかったわかった…〈変形装着〉』



 人形は姿を変え、黒髪ショートボブと白シャツと短ズボンを着た中性寄りの小人の姿になった。

 更に背中には、ホログラの透明な羽が付いていた。

 もちろん、人形なので無性だ。

 視点が変わった俺は、スライムクッションが半透明のせいで、レヴィアの綺麗な脚が見える視点に変わっていたので、目を逸らながら俺は〈浮遊〉で空中に漂った。

 身体をペタペタ確認した…容姿はいいんだけどさ、完全に小人だよ。


「ほほう、ずいぶん可愛い人形に様変わりしたのう。その人形は、この住み家の精霊樹から作られた特別製でな。普段は見えない精霊を入れて、魂を吹き込むことができる人形じゃよ!大昔作ってもらったものでな、精霊理論で言えば、お主も同じじゃよ、カブトよ!」


「へぇー、そうなのか?ん…?俺の声が出てるぞ!?」


「面白いのう、即に言語も発する事もできるとな、初めてじゃ。其方は、上位精霊の分類と視るべきじゃな」


 レヴィアは俺を分析する様に見つめていた。俺は疑問だった。


「ん?そうなると、俺以外に居たのか?そんな奴?」


「ワシの場合は、お主が初めてじゃよ。そんな自我を持った鎧もどきなんぞ…。突然の悪戯で、ワシのダンジョンに出現させて来よって、ヒヤヒヤしたわい。自我があるなら、早く此方へ来ればよい者を。いつ間で経っても来ないから、消そうと思ってたわい」


 俺達へ強い魔獣を送っていた原因が分かった気がした。

 狼達の犠牲を払ったが、結果的には俺の成長の支援を事なので、何も文句は無いけど、複雑な顔をしていた。


「それは、本当にすまん。自己解決が出来てしまったもので…」


「本当に…お主は呆れるわい。元を辿れば、遊戯の神が、実験という名の悪戯イベントを仕掛けてきた結果なのじゃがな」


 やれやれと手を振っていた。

 俺という存在を作ったのは、遊戯の神で間違いないのだろう。

 レヴィアが確信させる何かが、俺と混ざっている可能性があるかもしれない。


「遊戯の神っていうのは、思い付いた衝動を抑えられないタイプなのか?」


「まあ、そういう事じゃよ。そんな探求心から生み出したワシらの親でもあるがの。事情とは言え、災難じゃったのとしか言えないわい…」


 遊戯の神から生まれたとなると、俺も近い存在でありで、レヴィアも…


「俺という存在は、レヴィアに…近い存在になるのか?」


「まあ、そういう事じゃよ!」


 少し膨らんだ胸を叩きながら、「ワシの心は広いからの!」とドヤ顔をしていた。

 クッションでちょこんと座っているので、威厳は無いけど。







 その後、レヴィア宅にて。

 俺の事情は、特に隠す必要性がないので、前世の事や宝箱で自我が芽生えたこと、レヴィアに出会うまでの内容を話した。

 レヴィアは興味深そうに聞いてくれた。

 途中心臓を抑える仕草をしていたけど…


「お主は、元は異界の人間じゃった事。報酬の防具に、自我が芽生えて宿った事にお主は、何でも装備することができ、スキルを使えば操る上、多種多様。面白い存在じゃのう!」


 話を聞けた彼女は腕を組み、満足そうにウンウンと頷く。

 根掘り歯掘り聞かれた俺は、クッションに埋もれた。

 フロマとモルビエは、心配そうに顔を擦り寄らせてくれる。

 俺は安心させるように、撫でて返す。


「良く懐いておるのう。フォレストウルフは、扱いが難しいはずなんじゃがのう」


「フロマとモルビエは、家族だからな。操り状態を自力で解除した時は、焦ったけど、何故か懐いていたんだよな」


 レヴィアは、フロマとモルビエと見つめ合って、言葉を交わしている様子だった。


「なるほどの。状態異常になっても仲間の扱いを、ずぅっと見ておったようじゃぞ。犠牲を払って尚、役目を果たしたからこそ、好いたようじゃぞ!素敵なモフモフさん達よのう!」


あるじになったつもりは…まあいいか」


 モフモフな2匹を両手で広げて、わしゃわしゃしているレヴィアを見て、眼福な俺だった。

 レヴィアは振り向き、悪い顔をしながら、顔を近づけてきた。


「何ニヤ付いとるんじゃ?お主も同じ目に遭いたいかの?くすぐってやろうぞ!」


「俺にくすぐりは…!?おい!わ…ははっははは!?」


 この人形には、五感的な能力が備わっているらしい。

 

「レヴィア…レヴィアっ!悪かったっ!やめてくれっ…!」


「どうじゃ、満足したかの?その人形の事は大事につかうのじゃよー」


 満足したようで、レヴィアは腕の中に抱かれながら、横になった。

 レヴィアの身体は暖かい。

 後頭部には胸の感触が…と俺は意識を失っていくのであった。

 その間、レヴィアの呟きが聞こえたような、聞こえなかったような。







 おはようございます。元鎧です。今は小人もどきになってます。

 レヴィアの身体に埋もれて、1日以上寝てしまいました。

 感覚があるので、とても幸せです。後頭部が柔らかいです、はい。

 布一枚の美少女に人形で抱かれて眠る感覚は、最高です。

 

「うむぅ‥‥すぅー」


 レヴィアは、ぐっすり眠っている。

 俺はこの幸せを噛みしめ、目を再度瞑り、後頭部の少し膨らんだ柔らかい胸の感触を楽しんでいたが、いつまで続くのだろうか…。

 俺はフロマとモルビエに助けを請うが、俺の感情が伝わってか、知らん顔をした。

 解せぬ…。

 その後、数刻後に開放される事となる。


「ぐっすり眠れたかの?ワシの身体をお触りしてたら、お仕置きしようかと思ったがの?」


 俺は馬鹿正直に答えた。


「はい、お陰様で…初体験でした。気持ちよかったです…」


「そこまで言えとはいっとらんわい!まあ良い…ワシのボディは完璧じゃからの!」


 彼女は少し赤く頬を染めながら、胸を片手に添えていた。

 俺は人形の身体を得てから、色々と変化があった。


「俺は…進化したのか?」


「そのようじゃの。ワシが身体を使って祝福したからの」


「いやらしい表現をするな!」


「事実ではないか!愛でるのは大切なことじゃよ!」

 

 俺は、なんと守護鎧ガーディアンアーマーという種族になっていた。

 守護鎧に進化して、レベル1に戻ったが、レベルの上限が100に目指せるようになったという。

 

 俺は、2匹の方にも目をやると、一回りデカくなっていた。

 人型のレヴィアを乗せることも可能なぐらいだ。

 種族名は、フロマがブレイブウルフ、モルビエはレイヴンブラックウルフになった。


「2匹とも良い進化をしたようじゃな。これからが楽しみじゃの!」


「レヴィア、俺たちを進化させてくれてありがとな!」


「ふん、礼をしろとは言ってないわい!」


 レヴィアは照れ隠しで、そっぽを向きながらも、俺らの事を早々に認めてくれたと考えていいだろう。

 レヴィアと今後、長い年月の付き合いになるとは知らず。



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