第5話 成長後の負けイベント?




 遊戯の神が作ったと言われるダンジョン。

 生み出した理由は、人類の成長と娯楽の為、或いは暇つぶしと様々。

 ダンジョンは一種の生物でもあり、管理するのは遊戯の神に作られたダンジョンコア達。

 ダンジョンとは、様々な形を変えて成長し、そして消えていく。

 いつの時代に作られたのかは、神の溝を知るのみ。

 

 運命があれば、偶然或いは、必然なのかもしれない。

 

 その一人は、ダンジョンへ誘われ、足を踏み入れるとは知らず。

 憎しみと憎悪を持ちながら、ふらふらと足を進めていく。


「私は、あの国を絶対に滅ぼす…その為に…アハ‥‥ハハハハッ!」


 黒く塗り潰された少女は、禁忌の研究で生み出され、人類を破壊する為に作られた存在。

 世界の破滅を求め、ダンジョンへ足を踏み入れていく。


 誰かの差し金でもあり、悪戯イベントの始まりかもしれない…


 その場所は、過去に滅ぼされた王国跡地であり、瓦礫から樹木が生い茂り見る価値もない場所だったという。







 遡る事、1週間前…


『そろそろボス攻略しに行こうか!』


 今日は待ちに待った、ボス攻略の日。

 あれから俺は、一年の歳月を費やし、成長した!


『レベル50になる前まで長かったなぁ…』


 俺は宝箱の姿で、ステータスを表示し、眺めている。



【黒兜】


 種族:鎧

 レベル:49/50

 耐久:4900/4900

 攻撃力:0

 防御力:4900

 魔力:490

 俊敏力:490

 幸運:1000

 マナ:5400/5400


 スキルポイント:210

 スキル:〈変形装着〉〈解除〉〈並列思考〉〈憑依〉〈自己修復〉〈自動マナ回復〉〈防御力増加〉〈軽量化〉〈分裂〉〈スキル熟練度UP〉〈経験値増加〉〈スキル図鑑〉〈意思疎通〉

 スキルレベル:〈マリオネット〉Lv10、〈浮遊〉Lv10、〈危険察知〉Lv5、〈マップ探知〉Lv10、〈鑑定〉LV5、〈異空間収納〉LvMAX

 称号:意思のある鎧、転生者、宝箱もどき、引き籠り、慎重派、弱肉強食



 この防御特化のステータスは、装備者頼りなると思いながら、〈経験値増加〉を取得しなかったらもっと時間が掛かっていた可能性あっただろうなと思った。 

 俺が生まれた部屋の方に、目線を向ける。


『この部屋とも、さよならだな・・・』


 拠点にしていた部屋、異空間収納で扉を退かし、拠点として活用していた。

 此処で過ごした時間およそ1年3ヶ月。

 外の世界はもっと時間が流れているかもしれない。


 成長したが、レベルカンストできなかった。

 途中まで成長が早く、倒して行く内に、魔獣が強化されていった。

 その間、地形の変化と揺れに見舞われ、ダンジョンは俺という異物を排除しようと、魔獣達の襲来が増え、種類は、哺乳類や爬虫類、鳥類、両生類と様々だった。


 襲来する事態を俺は、喜んで受け入れ、狼達と対抗し、共に成長していった。

 討伐数は、万もくだらないかもしれない。

 一時期、狼達は30匹の群れと化していたのだが、数の暴力によって数を減らしていき、ほぼ犠牲となる。

 回収しようと試みたが、ダンジョンに吸収されてしまったので、どうしようもなかった。

 その上、狼達が犠牲になっても俺の心は痛まず、戦闘狂なんだと理解する。

 

 俺の装備先として使っていた黒狼と、白くて美人さんな白狼の2匹だけは生き残り、俺の家族になった。

 

 自身で操り状態を解除しても尚、忠実だった。

 すると、俺が伝える言葉を理解しており、白狼の返事は「ワフッ!」黒狼の返事は「ワンッ!」と吠えて返ってくる。

 いつの間にか〈意思疎通〉のスキル取得していたので、理解してるらしいけどな。

 白狼は、白くてフワフワからフロマと呼び、黒狼は、モルビエという名を付けている。

 俺は前世で、チーズが好きだったので、名称はそこから来ている。


『フロマ、モルビエ。行こう!』


「ワフッ!」「ワンッ!」


 俺は装備を〈分裂〉して、フロマとモルビエに装備すると、洞窟の方向に走り始めた。


 〈分裂〉の補足をすると、俺のステータスは半分状態になるが、俺のステータス恩恵を受け、2匹とも防御力が最強である。

 フロマとモルビエよりも強いエネミーに出会ったとしても、防御力が圧倒的に高いので、俺の防御力を超える攻撃力を持つ敵が現れない限り、2匹+俺が分裂するだけで十分という。


 元を辿れば、多くの狼が犠牲になった日、フロマとモルビエだけ生き残った際、装備対象を増やせないか考え、〈分裂〉を取得した経緯があり、〈分裂〉の対象をどこまで増やせるかを検証したんだが、マナの消費が激しく、ただの防具になったのは言うまでもない。





 フロマとモルビエに身を任せ、走っていると洞窟の前まで辿り着く。


『洞窟に到着だな。発見して以来、近づくこともなかったけど。フロマとモルビエ!今日も宜しく頼むな!』


 俺の〈意思疎通〉でフロマとモルビエは「ワフッ!」「ワンッ!」と吠えた。


 洞窟に到着し、洞窟内へ足を運ぶと、壁の魔石が通路を青色に照らす。

 その先には、洞窟の天井に届く大きな扉があった。

 異様なボス部屋と感じさせ、フロマが鼻先で扉をトンと軽く触れた瞬間、ゴゴゴゴと音を立てながら大きく開き、進む通路は、水路が続いていた。

 先には大樹の水辺があり、俺はその景色と裏腹にゾッとする。

 とっさに〈危険察知〉が発動した。


『扉を開いて覗いただけで、威圧が此方まで届く。まだ目視できないが、おそらく水辺の中にいるだろうな。足場の確保するために、〈水上歩行〉のスキル取得しないと、危ういな』


 俺は、有り余ったスキルポイントで、〈水上歩行〉と念のために〈水中呼吸〉のスキルを取得する。


『フロマとモルビエ、これで水上を歩いても大丈夫だ。水路を進もう』

「ワフッ!」「クゥーン」


 足場が不安だったのが、フロマとモルビエは恐る恐る水の上を歩くと、安全確認できた様で、奥へ歩いた。

 

 大樹に近付いた瞬間、水辺が波を上げ、水龍が姿を現す。


『あー、こりゃーヤバイ、マジで詰みかな…いきなり無理ゲーかよ』


 俺は一瞬で悟り、様子見か逃げの2択だと、思考が浮かぶ。


『水龍か…鑑定はできない…。格上というか、負けイベントだな。どうしたものかな…』


 フロマとモルビエは、怯えてはいないが、警戒している。

 此方からは、決して攻撃しないようにと伝えておいた。

 手の打ようがないので、俺と2匹は水龍からの攻撃に備えたが、攻撃して来ない。

 

 水龍は、2匹を狼達を凝視されたが、何故か俺が見透かされた感覚があった。

 興味無さそうにしてるし、戦闘するまでもないと判断されて、目を瞑ったのか?

 俺は困惑していたが、水龍は言葉を発し始めた。


「フム、面白い奴らじゃのう。ワシのダンジョンで生まれ育ち、このワシの住み家に足を踏み入れるとはのう…。厄介な鎧もどきめ…名乗るが良い!!!」

 

 水龍は俺に向かって、威圧が俺自身に飛んできた。

 俺は即座に〈意思疎通〉を発動し、水龍と話を始めた。


『俺はカブトという!身体が無くてすまん!』


「ほう、お主がダンジョンの異物もどきであったか!問題がこちらへ来てくれて良かったわい…。お主は、このワシと殺し合う気はあるかの?」


 水龍は、更に殺気を乗せ、威圧が重くなる。

 俺は内心、冷や汗をダラダラ流れまくりだった。

 冷静になれ・・・選択を間違えたら死ぬぞ!?


『格上相手と戦うのは魅力的な話だが、勘弁願いたい!』


「ならば良い。見極めが出来るのは良いことじゃ。じゃが、迷惑な事じゃよ…本当に。‥‥ほれ、戦闘態勢を解くのじゃ!」


 水龍は自身を落ち着かせ、大きなため息をつく。

 フロマとモルビエに感じさせない、俺だけの威圧と殺気のコンボが消えたので、2匹の戦闘態勢を解除させ、お座り状態にさせた。

 

 敵対しないのが一番だ。

 俺達が敵対しない事を見計らって、水龍の身体が輝き始め、人間へ形態する。


 水色の長髪に耳の上から伸びる白い角、幼い顔付きと綺麗な青眼、身体は小さく140cm程度ぐらいだろうか、鱗模様の腕と蜥蜴の様な尻尾、透き通った肌とツルペタ胸の裸体を晒す美少女がいた。

 

 俺は今まで忘れていた羞恥心という感情、鎧が熱くなるような感覚があった。


『ブハッ!!!!!服を着ろっ!!いや、着て下さい!いきなり姿変えないで!』


「ほほぅ、いつも通りのワシの姿を見て欲情したかの?お主がワシに装備されてもええんじゃよ?と冗談はさておき・・・ちぃとばかし待て」


 水龍は後ろを向きながら、異空間の穴へ手を突っ込み、1枚のデカいポンチョを取り出し羽織る。

 ポンチョをフワッとさせながら、振り向き直し、声を発した。

 

「ゴホン…申し遅れたの、ワシの名はレヴィアじゃ。このダンジョン主をしており、ダンジョンコアを有する者じゃ!歓迎するぞ!」


『おぅ…宜しくお願いします?』


 ボスと戦闘すると思って扉を潜ったのに、歓迎されて、俺は拍子抜けだった。

 目の前にいる人型に形態した水龍レヴィアは、ラスボスと言わなくても納得するが、戦闘を回避できなかったら、確実に消されていた。

 戦う意思を少しでも見せていれば、即死だったと俺は思う。


「なぜ疑問形なのじゃ?まあ良い。お主には聞きたい事がたくさんあるからの。そこの2匹は‥‥後程、愛でてやろうぞ!」とフロマとモルビエに愛着の目を向けていた。


『レヴィア、こいつらは白狼はフロマ、黒狼はモルビエって言うんだ。名で呼んでやって欲しい』


「良い名じゃの!ここで話すのもええが、ワシの住み家へ案内する。お主ら付いてくると良いぞ!」


 俺達は拒否権は無さそうなので、レヴィアの後ろに付いて行く。

 レヴィアはプカプカと浮かび、その後ろ姿からは、下半身と尻尾で際どい布を揺らす。

 フロマとモルビエに装備してる俺は、心で目を後ろに逸らしつつ、大樹へ向けて、足を進めるのだった。



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