第3話 狼達と初めての狩り



 憑依した黒狼の視点から装備していた宝箱の姿を改めて見ると、苔と緑で覆われた隠し扉が全開になっている景色と相まって、禍々しい宝箱が登場した様子に見えており、俺は呆れていた。


 他人からしてみれば、ミミックの進化した存在が、狼を襲う場面に見え、捕食対象だと思われたら、ゾッとする自信がある。


 そして、俺は黒狼に〈憑依〉できたので、次の行動に移ることにした。


 〈マリオネット〉を使用してから、1回発動したマナ分だけで済んでいるが、〈憑依〉と〈並列思考〉で〈自動マナ回復〉も含めると、1秒ずつ減少してる状況だ。

 自身の保有するマナが500程しかないので、俺自身の限界は8分30秒という時間になる。


 今もなお〈並列思考〉も発動する理由は、エネミーとの戦闘時に戦闘に集中する自分と、分析する自分の2つを併せ持てば、円滑に事が進むと考えている。つまり自身への保険でもある。

 これからする事は、無理してでも成功させたいからだ。


 最初は、〈憑依〉した狼を使い、遠吠えをして仲間を集める。

 この狼は、群れから偵察するために来た1匹なので、遠吠えで呼べば群れの長が来ると思う。

 自身の考察が合っていれば、〈マリオネット〉で群れを丸々頂くとする。

 

 俺は、まず第一声を吠えてみた。


「アオォーーーーーーーンッ!」


 遠吠えをした後、〈マップ探知〉を確認すると、寄ってきている赤い点滅は5匹。

 マナも半分しかないので、姿が見えたら、さっさと〈マリオネット〉を発動したい気持ちが強くなるが、倦怠感に耐え続けた。


 少し待つと、白い狼達が〈憑依〉している俺の前に無警戒で駆け寄って来る。

 匂いを嗅ごうとしてきたので、俺は〈マリオネット〉を掛けた。


『〈マリオネット〉発動!狼5匹分だ!』


 そうして、〈憑依〉している黒狼を含め、6匹の狼を手に入れることに成功。

 マナの消費が残り50秒を切ったところで、〈並列思考〉と〈憑依〉を解除して、宝箱の視点へ戻った。

 〈マリオネット〉に掛った狼は一旦待機させ、自身が解除するまで、従ってくれるっぽい。

 その上、精神疲労に限界が来ていた俺は、戦闘の計画に移行する為、マナを全回復するまで待った。


『ハァ…レベル1は辛すぎる…』






 〈憑依〉の身だが、数カ月間の時を経て、宝箱から解放され、心が嬉々高ぶっていた。

 

 先程の黒い狼に、再度〈憑依〉し、狼の視点に移り変わった後は、宝箱から俺本体を狼に〈変形装着〉して、マナの消費もあったが、液体のように狼に覆い被さり、無事に俺本体を装備完了。

 見た目は、更に漆黒の毛色をしており、防具は、武者が装備するような甲冑になっている。


『なにこれ、カッケェ!ラスボスが装備してそうな恰好だなって言っている場合じゃないな…早急に行動に移さないと…狼共、狩りの時間だ!』


 俺は進む方向へ指示を出して狼共を先行させ、〈マップ探知〉で、赤い点滅の方向に散策し始める。

 狼を先行させた理由は、エネミーに遭遇しても、すぐに対処する為だ。

 狼達には俺の成長に、許す限り働いてもらおうと思う。


 長距離を移動し、気付けば、〈マップ探知〉の赤い点滅の場所まで近づいていた。


『もうすぐ敵が見えそう。次はどんなエネミーかな?』


 狼達は、敵を捉えたようで、狙いを定めて走り始める。

 狩りの始まりの合図だった。

 

 見える敵は、三メートル位のデカい鹿だ。角が生えておらず、メスの個体だと思う。

 単体だったので、狼に混ざって捕らえに行く。その際、狼の毛の色が周りに溶け込むように変色した。

 今は色の変化は気にせず、狩りに集中する。


『〈憑依〉していても狼達の本能が伝わってくる。今日の御飯だな』


 俺と狼達に囲まれて、逃げ場が無くなった鹿は、狼の隙間に向かって逃走を図る。

 鹿の逃げる隙間に向かうと、道を塞いで追い込むように、狼達は噛みついた。


 鎧を纏った狼の俺でも、想像以上に素早く走り、動きが鈍った鹿へ首周りに飛びついて、噛み千切る。

 他の狼達にも所々噛まれ、瀕死の鹿は必死の抵抗するが、数の暴力に力尽きたように倒れ、鹿から光の粒が湧き、自身へ吸収された。


『レベルアップしたかな?』


 初めての成長に、どのくらいの変化があるか、ステータスを確認した。



【黒兜】


 種族:鎧(フォレストウルフ)

 レベル:2/50(2/50)

 耐久:200/200(体力:150/150)

 攻撃力:0(+150)

 防御力:1100(+50)

 魔力:110(+100)

 俊敏力:110(+300)

 幸運:1000(+100)

 マナ:375/600(+110/110)


スキルポイント:5

スキル:〈変形装着〉〈解除〉〈並列思考〉〈憑依〉〈自己修復〉〈自動マナ回復〉

スキルレベル:〈マリオネット〉Lv2、〈浮遊〉Lv5、〈マップ探知〉Lv5

称号:自我を持つ鎧、転生者、宝箱もどき、引き籠り、慎重派


 

 ステータスを見て、守備力特化した上がり方をしており、攻撃力は皆無。

 レベルが上がったので、〈自動マナ回復〉も早くなり、ずっと〈憑依〉していても問題はなくなった。


 『初めて狩りをしたけど、狼に装備しとけば、俺の恩恵が加算されるんだな』


 それからステータスを閉じて、目線を戻すと、狼の嗅覚から鹿の血の匂いを感じ取った。

 処理は狼達に任せる為に俺は、狼達に食べていいぞと指示を出すと、狼達は、余程腹が減っていたのか、鹿を貪り始める。


 その間、俺は引き続き〈並列思考〉で〈マップ探知〉をしつつ、他のエネミーを探し始めた。

 狼達が鹿を食べ終えた後、数匹ほど群れている方向へ移動するように次の指示を出す。


『次は耳が4つの茶色い兎だな、3匹もいる!』


 兎達は、狼に気づいて、跳ねながら逃げ始める。

 1匹だけ図体がでかく異常に素早く、他2匹は捕らえたが、でかい個体だけ逃げられてしまった。


 狼達は捕らえた兎を持ってきたが、俺が近づいた瞬間、またも光の粒が吸収されるが、レベルの変化はない。

 兎を渡そうとして来たが、経験値的な光の粒吸収した俺には食事は必要なさそうなので、兎も同じく狼達に食わせた。

 

『狼達の腹も満たせただろうし、引き上げるか…』


 周りが少し暗く始めたので、3度目以降の狩りを止めにし、狼達を連れて、隠し部屋へ戻る。

 その後、隠し部屋付近に辿り着いた後、次の日に備えて狼達を休ませる。 


 初めての探索に行ってみて、此処はとても広大で、〈マップ探知〉を見ながら移動した距離から、推定でも1日の4分の1程かかりそうな広さがあり、外に出た初日で、レベルが1つ上がったので、早速スキルポイントを使ってみることにした。


 俺は、スキル内容がノーヒントな上に悩んだ末、〈スキル図鑑〉と〈鑑定〉を取得を決めた。

 

『〈スキル図鑑〉と〈鑑定〉をスキル取得!』


 俺は早速、スキル図鑑を発動すると、電子書籍の様なスクリーンが映し出す。

 映した内容は???が多かったが、取得したスキルの説明は書かれていた。



 〈変形装着〉種族問わず装備できる。自身との距離が一定の近距離であれば装備可能。部分的な装備も可。

 〈解除〉あらゆる状態を解除する。

 〈並列思考〉思考の分身を生成。

 〈憑依〉種族問わず身体を乗っ取ることが可能。抵抗される可能性あり。

 〈自己修復〉耐久力を自動修復。

 〈自動マナ回復〉自身のレベルに応じた回復。

 〈マリオネット〉自身のレベルに応じた相手を操り人形にできる。自身が気絶した場合、自動的に解除される。スキルレベルに応じて、耐性を持つ相手に掛かる確率が上がる。

 〈浮遊〉空中を自由に移動可能。スキルレベルに応じて、移動速度が上がる。

 〈マップ探知〉エネミーを探知できる。スキルレベルに応じて、探知拡大。

 〈鑑定〉ステータスやアイテム・素材等を鑑定できる。偽装されている場合、自分よりレベルが低い場合のみ看破可能。



 このようにスキルに関する内容が記載されており、新たなスキルの発見と共に、追加されていく仕様だ。

 その為、今後も様々な敵の出会いがあると思うので、〈鑑定〉を有用に使わせてもらう。

 〈スキル図鑑〉もセットなので、取得する選択肢の幅も広がったので、俺は満足するのだった。



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